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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

鉄道ファンから伝熱工学、そして・・②

カテゴリ:機械工学科
2022.12.03
 

機械工学科 福江 高志 准教授 故郷の富山県立大学で博士課程を終えられた福江先生は思いがけもなくオランダのデルフト工科大に留学することになった。

――デルフト工科大ではどんな資格で何を研究されたのですか?

 「ゲストリサーチャーという立場でして基本的には"お客様"です。

私が所属していたのはインダストリアル・デザイン・エンジニアリングという学部です。つまりデザインを専門にしているところなので、コンピューターを使った大規模な解析とかタービンそのものを持ってきて実験してみるとか日本の工学系のような設備はないのです。

 その代わりデルフトでは建築の梁なら梁の部分だけを丹念にシミュレーションしていたのです。全体ではなくて。私からすると、なぜそんな部分だけを、計算でも分かるようなことをやるのだろうと、すごく思ったのです。当時の私は大規模解析が大好きな人間でしたので。

 今、振り返ってみると、デルフトの研究室でやっていたのは、大事なところだけをしっかりパラメータ化して、設計の勘所をちゃんと押さえて応用しましょうということだったのだと。やはりデルフトは凄いと」

――コンピューターによる解析、設計が進み過ぎて最初から頼り過ぎてしまっている。設計の原点に返ろうということでしょうか?

 「そうです。ちょっと前、7~8年前ですかね。いわゆるコンピューター・シミュレーションが設計現場に一挙に普及したときがあって、その時は関連する大学の研究室はコンピューター・シミュレーションのお悩み相談室みたいになってしまったのです。

 典型的なのは、シミュレーションでこんな結果がでたけど正しいですか? というのがありました。(笑)」

電子機器に実装されるファンの流れのシミュレーション風景――何のためのシミュレーションか判らない。

 「最近は3次元のシミュレーションが高性能でバリバリ使えますが、何も考えずに3D CADのモデルをポンと入れたら解析できるのです。

 ところが、それをやると1つデメリットがあって、例えば構造とか、どこの流れの変化がその性能に影響しているかというのを見抜けないのです」

――なるほど。

 「結果が絵としてはきれいに出てくるけど、ではその絵の中をどう分析するかというのは、最終的には温度や流れがどういう条件下でどういう風に変わるかという本質に基づくので、そこを無視して設計してしまうのです。

 そこを正そうというのが1DCAEという考え方です。日本機械学会が中心となって、いわゆる物事の本質、現象の本質というところをしっかり製品の中で考えた上で、その肝の部分をちゃんと理解して設計しようという取り組みをしていて、私もその手伝いをしているのです。

 "1D"は特に1次元を意味しているのではなく、物事の本質を的確に捉えて理解して設計しましょうということだそうです。"CAE"も単なるシミュレーションだけではなく、本来のComputer-Aided Engineeringを意味しているのです」

生体模倣技術も

――デルフトの後、今度はまた日本に戻って国立の岩手大学理工学部システム創成工学科機械科学コース助教になられます。

 「そもそも岩手大の教員公募があるとの情報があったのでデルフトの滞在を半年で切り上げなければならなかったのです。

 岩手では廣瀬宏一先生の下で助教をしたのですが、廣瀬先生のご専門はどちらかというと基礎研究でした。私はあまり基礎研究という土壌では研究経験がなかったのです。その時の廣瀬先生のご専門の1つが"共存対流"というものでした。」

――共存対流は初めて聞きました。

 「例えば、扇風機で風を起こします。その流れの中に石油ストーブを置きます。ストーブで熱せられた空気は上に上がっていく。この流れは自然対流と呼ばれるものです。扇風機の風が強ければ自然対流による影響はかき消されるのですが、弱いと自然対流と扇風機の風が混ざった流れになるのです。扇風機からの力と、熱によって密度が軽くなって浮き上がっていく浮力の効果と、それが混合した複雑な流れになるのです。廣瀬先生はこの共存対流の専門家なのです。

 その先生の下で研究させていただくので、何か私のモチベーションになる研究はないかと思いついたのが血液の流れなのです」

血液のような「脈打つ流れ」を使って気泡を発熱体から剥がす実験風景――血液とは意外です。

 「何故かというと、血液は心臓がドックン、ドックンと脈動して流れます。流れたり止まったりの現象はまさに共存対流のような複雑な流れになるのです。

 その他、魚の泳ぎ方など自然の構造にヒントを得た生体模倣工学(バイオミメティクス)も私の研究室のテーマの1つになっています」

――縁あって2018年からKITに来られたわけです。お話が面白くてあちこち飛んでしまいましたが先生の元々のご専門は何と言えば良いのですか?

 「実は私の本来の専門は電子機器の冷却設計なのです。誰もが経験しているようにパソコンは使っていると熱を帯びてきます。主な原因は半導体が電熱ヒーターと同じ電気抵抗に基づいて発熱するジュール熱というものです。

 しかし、他にも要因があって、その一つは電流がリークしてしまうのです。今、半導体の回路幅はめちゃくちゃ細くなってナノまで行ってしまっています。そのナノ幅の回路から結構膨大な電流が流れてしまうのです。熱の量としてはたいしたことないのですが、密度が濃いので、一瞬そこだけ200~300℃になったりします。

 そうすると、そこに熱応力が発生してクラックが入り、半導体が壊れるのです。CPUの場合もありますし、最近、問題になっているのは大電力を扱うパワー半導体です」

――パワー半導体は世界中で開発競争が激化している電気自動車(EV)の中でも重要な位置を占めています。

 「半導体自身を上手く熱を出さないように設計する、あるいは出てしまった熱を上手く冷やす。この2刀流の方向で行かなくてはなりません。しかもコストは下げなければならない。

 この時に、先ほどデルフト工科大でも紹介した1DCAEが出てくるのです。つまりコストを下げるために本質を理解しましょうということになるのです」

 福江先生は鉄道ファンに始まり乗り物一般、民族舞踊、さまざまなお茶を飲むことなど
今でも多彩な趣味を持っているという。多方面な好奇心、研究心から思わぬイノベーションが生まれることを期待したい。

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