小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

2011年02月 アーカイブ

 メディア情報学科 鎌田 洋(かまだ ひろし) 教授 90年1月9日付けの読売新聞1面トップは「色や形も認識 考えて動くロボット 無人作業に実用化 富士通 世界に先がけ開発」の見出しで「富士通研究所が人間並みにモノや形や色を識別するだけでなく、状況に応じてどう行動すべきかを瞬時に判断できる知能ロボットの試作に成功した」ことを伝える記事だった。 

 当時、鎌田先生は富士通でこのロボットの開発グループに所属し、最先端の研究に加わっていた。09年、縁あってKITに来られた。

——先生はもともと数学を勉強したのですか?

 「はい、静岡大数学科を出て大学院は広島大に行きました.専門は群論です。富士通に入りましたが、数学科からコンピューターメーカーへというのはあまり正統的なコースではなく普通は工学部から入ります。

 入社の時はコンピュータのOSの開発部隊に入るような話があって、てっきりそちらに行くものと思っていました。新入社員の工場実習で日誌を付けさせられました。その中で大学時代に読んでいた文字認識を数学的に解析する話を書いておいたのです。

 そうしたら、その情報が研究所のほうに行って、研究所がたまたま数学的な素養のある人間を欲しかったようで、うまく結びついて、私は研究所に入ったのです。厳密に言うと、富士通研究所と株式会社富士通とは独立しているのですが、採用は全部富士通株式会社で、研究所へ出向という形になります」

鎌田先生の富士通研究所時代の研究テーマを自己紹介のスライドから列挙すると——

*画像理解(2次元画像からの3次元復元)
 *ロボットビジョン(知能自動車の目)
 *文書認識(手書き、印刷漢字)
 *パターン認識(タブレット入力図形認識)
 *CG(タイム・リアリスティック・ソフトウエア)
 *ヒューマンインターフェース(透明タブレット)
 *教育システム応用(外国人留学生用)

 ロボットビジョンはまさに冒頭、紹介した記事のテーマだ。追突を防ぐ自動車は最新型の自動車に応用されている。その他、3次元画像といい、iPadのようなタブレット端末といい、鎌田先生が研究してきたテーマは今、最もホットな技術と結びついている。

——これらの研究の中で一番、楽しくできたのはどれですか?

 「そういう意味では画像理解は結構好きにやらせていただきました。これは名古屋の中京大学の人工知能高等研究所というところのサテライトラボに1年間だけいたときにやったものです。この研究所は富士通だけでなくいろいろな企業から研究者がきていました。
 
 これはどのような研究かというと、ビデオカメラで撮った物体の2次元画像から3次元画像の物体モデルを復元できるというものです。それも人間が2次元画像の上の任意の点を選ぶだけでシステムが自動的に復元してくれるのです」

——富士通にいらした最後の10年間はR&D戦略室にいらして広報も担当していたそうですね。富士通は昔から技術の広報に熱心で「富士通のテクノロジー読本」という分かり易い本も出していました。

情報工学科 山本 知仁 講師 山本先生の研究室にはドラムやギター、キーボードなどが備わっている。学生たちが研究中でも、知らない人が見たらロックバンドの練習風景にしか見えないだろう。山本先生は情報工学科の所属だ。音楽とどんな関係があるのだろうか?

——音楽そのものが研究対象なのですか?

 「もともと私はコミュニケーションに興味があって、人のコミュニケーションとかを解析していたのですが、なかなかこういった人同士の会話は、何を言い出すのか分からないので実験対象としてやるとなると難しいのです。

 言葉を変えますと、人の会話は解析的に解けない、科学的に再現性を十分追求できないのです。そこでコミュニケーションの一形態として音楽の共同演奏に着目したのです。東工大の大学院の時にそのテーマで学位をとったのです。」

——もう少し詳しく説明していただけますか?

 「音楽の共同演奏だと、同じ演奏を何回やっても別に変じゃないでしょう。例えばジャズのセッションとか同じ曲目で5回演奏しても別におかしくありませんよね。

 でも人間がしゃべっている時に同じことを5回も繰り返していたら気持ち悪いじゃないですか? 普段の人の対話の中ではむしろ変わっていくことが当たり前で、変わることが対話の本質なのです。

 その点、音楽だと再現性を確保できます。さらにプラスして音楽は言語を使いませんが、音のリズムとかメロディを使ってリアルタイムの反応があります。それも一つのコミュニケーション形態と見なせるだろうと。いわば原始的なコミュニケーション形態として音楽の演奏をとらえて、ずっとそれを解析しているのです」

 昔、音楽理論を学んでいた友人から狩猟民族の音楽は遠くの仲間と獲物を追い込むためのコミュニケーションが起源で、日本人のような農耕民族の音楽は田植え歌のように皆でリズムを合わせるための手段が始まりと聞いたことを思い出した。

——それは狩猟民族がつかう太鼓のような音楽ですか?

 「そういうノリですね。その意味では情報工学の研究ではないようにみえるのですが。論文を書くときは音楽の共同演奏のデータをとって、例えば演奏が盛り上がっている時には、どのようにリズムが変化しているか、音が合っているか、演奏がどれくらい揺らいでいるかを科学的に調べて、それをまとめるということになります」

——先生自身も演奏するのですか?