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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

誰もやっていない研究に惹かれて

カテゴリ:電気電子工学科
2020.10.29
 

電気電子工学科 柳橋 秀幸 講師 筆者の子供の頃はキノコといえば、シイタケ、マツタケ、ナメコぐらいしかなかった。最近はマイタケ、エリンギ、エノキタケなど実に種類が増えてきた。KITではこのキノコ類を工学的に分析するユニークな研究が2代にわたって続けられている。

――柳橋先生は平間淳司先生http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2011/11/post-55.htmlのお弟子で、電気電子工学科でキノコの研究をされていますが、平間先生の研究のどこに惹かれたのですか?

 「学部4年生の卒論を選ぶときの研究室紹介で、圧倒的に一番行きたいと思いました。何といっても"世界で恐らく自分のところだけ。他にはこんな研究をしているところはありません"という断言が魅力的でした。先生の考え方は、工学で植物の電気信号を測るのだけれども、それはあくまで生き物相手である。生体を相手にしようというのが斬新だった。やはり、研究するには他人がやっていないことをやりたいですから」

――エレクトロニクスの方法で植物と対話するというのは昔からあるような気がするのですが。

 「最近はよく聞くようになってきたのですけれど、平間先生が研究され始めた20数年前というのは、その概念はあったのですが、ほとんどが植物の食べる部分の色や形のデータをパソコンに取り込んでデジタルデータとして処理しようというものでした。

 植物の生体電気、生体電位という信号を捉えるという研究はわずか。特にキノコ類では皆無でした。」

――それで、研究しながら教育もしたいと。

 「はい、自分が学生の時から職業としては教員が良いと。大学もしくは高専の教員としての職業に就きたかったのです。将来を考えた時に、研究はある程度やって成果をあげるには他と同じことをやっていては仕方がないと。誰もやっていない研究というのは何をやっても成果を上げやすいのではと」

――なるほど、若いのにそこまで考えてた。

 「それと、もともと趣味で植物を育だてたり、魚を飼うなど生き物が好きだったのです。これはちょうどいいなというのがあって。電気工学を研究しながら生き物と関わり会えるのですから。キノコはそれほど関心がありませんでしたが生き物に変わりはありません。

 平間先生のもとで、誰もやらないことをやろう、いろいろなことをすれば成果も上がるだろうと」

――教員録の先生の研究を見ると。"マイクロ水力発電"というのもありますが

 「これは小川など小さな水の流れでも発電できるようなシステム作りの研究です。私はKIT併設校の高専の出身で、高専時代は電力システムに興味を持っていて電力の勉強ばかりしていたのです。研究室が決まるまでは、大学でも電力系の科目はたくさん履修していていました。ですから、今でも教員の担当が決まらない科目があると"大丈夫です"と引き受けてしまうのです(笑)」

――具体的にはどんなキノコを使うのですか?

 「マイタケ、エリンギなどいろいろ使います。針のような電極をキノコのカサの下に差し込んで計測します。光がある程度当たるところで、比較的安定してさせる肉厚の部分を選びます。大体慣れてくると、ここに刺すのが一番いいかなと。想像ですが注射でここの血管に刺すと良いかなというような感覚ではないかなと」

実験装置を示す柳橋先生――そもそもなぜキノコから電流が流れてくるのですか?

 「それが良く分かっていないのです。ごく簡単に説明すれば植物の場合は、光合成があるので光が当たると植物の細胞活動が変わるのです。細胞が活性化して、細胞中の溶液のナトリウムとかカリウムのようなイオン成分が細胞膜を通って移動が起きる。イオン濃度の勾配が起きると電位差が生まれ、それが電流になります。

 ところが、キノコの場合、光合成はないです。しかし、キノコでも光が当たると電流が出るので植物と似たようなメカニズムだろうと。もう少し詳しいところはまだ解明されていないのです」

――キノコの中で生体電位差が生まれる、電流が出るというのはキノコが嫌がって出しているのか、喜んで出しているのか、どちらなのでしょう?

 「私の考えでは細胞の活性化と関わっていると考えられるので、内部で何か成長するような、大きくなる方向、元気になっている、喜んでいるのだと思ってます。

 でも、光の刺激に対し、危険を感じ、早く胞子を落として子孫を残そうとしているのかも。だから成長を活性化していると。嫌=活性化=電流という可能性はあるのです」

――キノコに"言葉"があれば、どちらかが判るのに。

 「ええ、でも、その2種類ともあるのではないかと。ただ電位の大きさだけを測ってる分には、その2種類は区別できないのです。それで少しずつ、ここから工学の分野ですけれども、その信号をある程度解析する。含まれている周波数情報とかですね。信号に隠されている何かを読み解きたいと思ってます」

キノコ類は注目されていない

――最終的には、この研究でキノコの量産を目指すのですか? それとも早く大きくするのを目指すのですか?

 「目標は大きく2つあります。1つは、研究成果はやはりどこかに還元されなければいけない。だから早く成長する、収穫が増えるといったことを目指します。さらにキノコにある薬効成分をより多く抽出できるように育てていく。つまり利益を上げる目標ですね。

 もう1つは、単純にキノコの生体に関する基礎データの追求、探求。結局、工学的な立場からのキノコの生態というのはまだ明らかになっていません。誰もやらないのであれば私の方で色々なことを調べて、キノコというものは工学的に見ると一体何なのかというデータを示していきたい。これは純粋な研究で利益には繋がらないものかもしれませんが、この研究室から発信していきたいと思っています。

色々な色で生育されるキノコ――キノコの研究は遅れている?

 「日本は多湿でキノコの繁殖に向いていて、よく食べられています。研究も行われています。しかし世界的に見るとキノコを全く食べない文化もあります。自然界の3界、3本柱は、動物・植物・菌類なのですが、菌類は動植物に比べると全然注目されていないのです。したがってまだまだ研究の余地はあると学生に説明しているのです」

 柳橋先生の恩師、平間先生とのインタビューでも実は何故キノコから電流が出てくるのか詳しいメカニズムは分かっていないとのことだった。約10年後、弟子の柳橋先生も同じことを話している。基礎研究の宿命でこれは相当息の長い研究になりそうだ。

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