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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

スマホの次に来るものは?

カテゴリ:情報工学科
2021.08.30
 

情報工学科 佐野 渉二 准教授 佐野先生は、学部時代は人工知能、さらに難解そうな論理数学を学んでいたが、大学院になってセンサーなどを使った応用研究のユビキタス、ウェアラブル・コンピュータに変更したという。若くしてコンピュータ・サイエンスの基礎から応用まで幅広く手がけることになった経緯を伺った。

――いきなりで失礼ですが、大変お若く見えますが年齢は30代ですか?

 「2020年でちょうど40歳になりました。童顔というのかKITに来た頃は職員の方に学生と間違われて、そのような対応をされました(笑)。今はだいぶ、顔が知られてきて教員として認知されるようになりました」

――先生は地元石川県の小松高校から神戸大学に進まれました。あまり聞かないケースですね?

 「小松高校からだと、進学する大学は金沢、関西、東京方面と3分されます。関西は決して珍しくありませんが、神戸大は学年で1人か2人なので珍しいかも。いろいろな経緯で神戸大に進学することになりました。元々、横浜とか神戸とか大都市の横にある港町が好きだったので、良い所そうだと」

――高校の頃からコンピュータ関連を目指していたのですか?

 「学部は電気電子工学科でしたので、あまり情報関連へ行こうとは思っていなかったですね。大きな声では言えないのですが(笑)、高校から学部2年ぐらいまではヒマがあればゲームをしていたゲーム少年だったと思います。ロールプレイングとか野球系ですね。小学生時代にファミコンが家にあったので、それがゲームにはまっていったきっかけです」

――となるとパソコンに触ったのはもっと後になりますね。

 「中学に技術の授業で、初歩的なゲームを作るプログラミングのようなことで触る機会はありましたが、本格的になるのは神戸大に入って電気電子学科ですけれどもプログラミングの授業があったので、それが最初です。言語はC言語で、分からないなりにやっていたというのを覚えてます」

――電気電子工学科ではどんなことを勉強されたのですか?

 「電気回路、電子回路、半導体などいわゆる電気電子の一般ですね。あとアーキテクチャ基礎といったコンピュータ関連の科目もあったので、それらも履修していました。情報工学のネットワーク系とかは、学部の時はやっていなかったので本当に独学でやってきた感じですが、それ以外のハードウェア面の知識もあるので有利に働いているのではと思っています」

――学部の卒論はどんなテーマだったのですか?

 「分野で言うと、人工知能に近いのですが、論理数学の2つの形式を変換することでした。かなり理論系の分野になると思います」

――それはちょっと聞いただけで難しそうですね。さらに詳しく伺ってもさらに理解できそうにありません(笑)。博士課程では一段と難しいことを研究されたのですか?

 「それが、学部の卒論の指導教官が東京の研究所に移られて、大学院から別の先生になられたのです。それで研究内容がガラッと変わったのです。人工知能の理論系から一挙にウエアラブル、ユビキタスといった、センサーを使って生活を良くして行こうという方向です。

 大学からは、このまま大学に残って東京に行った先生から指導を受けるか、新しい先生から指導を受けるかどちらにするかと聞かれたのですが、やはり先生の側にいてダイレクトに指導を受けたいと研究の方向転換をしたのです」

学生を指導する佐野先生――その中でも先生が特に研究、開発したい分野は?

 「ユビキタスコンピューティング( https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/ubiquitous.html )です。元々は1991年に米国のゼロックス研究所のマーク・ワイザー氏が提唱した概念で、ユビキタス(ubiquitous)はラテン語で「遍在する。あまねく存在する」といった意味です。

 さまざまなセンサー類と極小のマイクロ・コンピュータ(マイコン)が人間のありとあらゆる環境に存在するようになる。僕たちが意識しなくても恩恵をうけられるようになると。これは恩師がよく使っている例で、僕のオリジナルではないのですが、例えばトイレに行くとします。トイレに入るだけでライトがつきます。用をたすと、何もしないで水が流れます。蛇口に手を近づければ、自動的に水が出てきて、引っ込めれば止まります。これはかなりあちこちで見られる光景です。

 いろいろなセンサー、マイコンが働いているのですが、これが普通になってくると我々は意識しなくなってくる。まさにユビキタスな環境です」

――なるほど、スマホは紛れもないコンピュータだけど、コンピュータだと意識して使っている人は少ない。しかも小学生からお年寄りまで偏在している。まさにユビキタスが実現してしまった。となると、スマホの次に来るものは何かが問題です。何が来ると思われますか?

 「これも恩師の受け売りですが、コンピュータがスマホより小さくなると、もはや手では扱えなくなる。それで人が身につけるとか、メガネのようにつけるヘッドマウンティン・ディスプレイなどが考えられます。しかし、学生時代にウエアラブルの普及だと同期の仲間といろいろ試しましたけど、ウォークマンやスマホのようにパッと広がって一世風靡するというのとはほど遠い。何が来るかは一番難しい問題なのでやりがいがあると思ってます」

学生と一緒に実験を行う佐野先生サービス・サイエンスも手がける

――先生の研究紹介に載っている「サービス・サイエンス」というのは何ですか?

 「KITに来る前に公立はこだて未来大学に研究員としていました。そこでやっていたのが公共交通システムでバスとタクシーの間のようなものです。乗り合いタクシーやデマンドバスに近いものです。乗りたい場所、降りたい場所をスマホで指定すると、サーバー側でどの車両を向かわせるか決めて、来てくれるシステムです。

 これは一例ですが、サービス・サイエンスの考えはもっと広くて文系、理系を超えた学際的なもので理論的、体系的にまとめていく研究が行われています」

 「5年後、10年後の人とコンピュータの関係を意識して研究したい」という佐野先生の研究室から何が生まれてくるか楽しみだ。

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