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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

機械から材料へ

カテゴリ:機械工学科
2021.03.04
 

機械工学科 瀬戸 雅宏 准教授 瀬戸先生は幼い頃から身の回りに農業機械があったため、典型的な機械いじり好きの若者に育った。それがKITに入り、恩師と出会ったことで機械工学から生産工学の道に大きく研究の進路を変更したという。詳しいいきさつを伺った。

――先生は金沢市立工業高のご出身ですが、工業高に進学するきっかけは何かあったのですか?

 「実家が農作業を行っていたため身の回りにトラクターからチェーンソーまで農業機械が転がってました。運転したり分解したりして遊んでいるうちに自然と機械が好きになり機械をもっと勉強したいなと」

――ご両親から、危ないと怒られたことはないのですか?

 「うちはどちらかと言うと奨励されてましたね。手伝いになりますから。雑草を取る時、草刈機で間違って足を切り救急車で運ばれたこともあります(笑)。それでも好きなことをやらしてくれた親には感謝してます」

――もっと勉強したくなってKIT に来られた。

 「はい、機械単体よりももっと広い目でシステムを見たいと機械工学ではなく機械システム工学科を選びました。機械の原理的なことは大体、高校で勉強したので。4年生の研究室で山部昌先生( http://www2.kanazawa-it.ac.jp/yamabe/researcher.html )を選び、博士後期終了まで一貫して山部研です。」

――山部研のどこに惹きつけられたのですか?まさか山部先生のフェアレディZに憧れたとか(笑)?

 「山部先生は日産自動車の第一線の研究現場からKITに来られました。先生から教えられたのは最先端のコンピューターシミュレーション技術でした。プラスチック製の自動車部品を作る時、溶けたプラスチックを型に流しこむ成形ですが、どこからどのくらいで入れていくかなどをコンピューターでシミュレーションして最適の方法を探るのです。

 そのようなことができるとは思っていなかったので目からウロコの衝撃でした。おそらく日本で初めてくらいの本格的コンピューターシミュレーションの大学研究室だったと思います。それで機械から生産工学に関心が移ったわけです」

――少し前の時代だと、そのようなシミュレーションはスーパーコンピューターの世界でしか実現できませんでした。

 「はい、それが大学にある普通のコンピューターでもできるようになっていました。ソフトウエアも今みたいに市販品のブラックボックスになっておらず、自分たちで自由にいじれました。ですから、どのようにソフトを使いこなしていくかが研究のテーマになりました」

――博士課程を終えてから、アルミメーカーの日本軽金属の技術センターに研究員として
入社されます。どのようなことを研究されたのですか?

 「はい、3年間お世話になりました。職種としては一応研究職でしたが、どちらかというと開発よりだったと思います。アルミの押出しや圧延などの塑性加工を担当しました」

――大学時代研究したプラスチックと金属のアルミでは同じ塑性加工と言ってもかなり特性が違うのでは?

 「いい質問ですね(笑)。実は私もそう思っていたのですが、実際はアルミも同じでした。会社ではメーカーの下受け的な仕事ですが、新幹線のN700 系のボディやトヨタ自動車のレクサスの部品をアルミで開発しました。N700系のボディはダブルスキン構造といって、段ボールのように薄いアルミの板が数cmの間隔で固定されていて、その間に制振材などが充填されています。このアルミの板は厚さ数mmととても薄く、しかもとても高い精度が求められました。この精度が現場ではなかなか達成できなくて、私のところに仕事が回ってきて、シミュレーションを用いて解決しました」

実験装置を紹介する瀬戸先生――「教員録」の先生の「専門分野」には数々の受賞歴が載っています。この中で代表的な研究はどのようなものですか?

 「省エネでLED電球が主流になりつつあります。この寿命を決めているのは実は熱なのです。熱を溜まらないように逃がしてやればLEDの寿命はもっと伸びます。私が思いついたのは導電性プラスチックで、ある物質をプラスチックに入れてやると電気を通す導電性プラスチックができます。この材料は作り方を工夫すると製品の導電性をコントロールできるのですが、それと同時に、特定の方向に熱も逃しやすい性質が出ます。この技術を応用してLEDを長持ちさせる部品ができたのです」

――LED の長寿命化が先生の研究と結びつくとは思いつきませんでした。
 
 「また、自動車産業は軽量化の観点から金属とプラスチックを一体化することを試みてます。しかし、この2つはくっつけにくいのです。これを互いにかみ合うような構造を設計して製品の成形と接合のプロセスを一体化し、製品化することに成功しました。こうした研究はメーカーさんの影に隠れて表には出にくいのですが成果として誇れると思います」

学生と一緒に考え研究したい

――現在、一番力を入れているのはどのような研究ですか?

 「同じく自動車の軽量化です。軽くするには部品点数を減らすか、材料を変えるしかありません。金属の部品をプラスチックに変える研究しています。またプラスチックの中にラムネのように気泡が出来る材料を入れ、圧力が少なくなると膨らんで軽くする研究もしています。もちろん、泡が表面に出てきたらダメですし、結果として強度が不足してもダメなので難しい。しかし、うまくいけば、外観も強度も変わらないのに軽量なプラスチック部品ができるのです」

開発部品を紹介する瀬戸先生――そもそもメーカーからKITに戻ってくるきっかけは何かあったのですか?

 「ここにものづくり研究所ができたのがきっかけです。特別研究員として戻ることができました。2010年から講師となりましたが、大学に戻るにあたっては"学生と一緒に研究したい"と要望してます。

 大学で教えるとなると、実験やデータ集めは学生にまかせて自分は論文作成に精を出すという具合になりがちですが、そうなりたくないと思ってます。

 先ほどの金属とプラスチックをくっつける研究ですが、私自身はなかなか既存の発想から抜け出せませんが、学生たちは柔軟で思わぬ発想にはびっくりさせられます」

 このインタビューは始まってから約12年になる。初期の頃、紹介させていただいた先生の弟子の世代、二代目の先生が次第に研究を受け継いでいる。環境土木工学の花岡先生、電気電子工学科の柳橋先生についで瀬戸先生はこのインタビュー3人目の二代目研究者だ。最先端を狙うKITだが研究のバトンがしっかりと次世代に引き継がれているのが確認できる。

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