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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

泡の研究から結石のレーザー治療へ

カテゴリ:機械工学科
2022.03.12
 

機械工学科 杉本 康弘 教授 メガネやさんの店先でよく見かけた、レンズの超音波による洗浄サービス。あるいはファインバブルという泡の発生するシャワーヘッド。これらに共通するのは気泡、キャビテーション( cavitation )という現象の応用だ。杉本先生はこのキャビテーションに魅せられて研究を続けてこられた。

――杉本先生は前々回、ご登場いただいた機械工学科の藤本雅則先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2021/04/post-117.html )と同じ滋賀県のご出身ですね。
 
 「はい、しかも実家同士が車で10分くらいの所です。めちゃくちゃ近いです。藤本先生のことは学生時代から一つ学年が上で近くの研究室の人として存じ上げていましたが、お互い詳しく知ったのは私がKITに教員として入ってからです」

――それはまた、すごい偶然ですね。お二人は、高校は違いますが、同じ大学に入って、しかも同じ機械工学科。教員録でも一人挟んで並んでいます(笑)。先生は理系に進むきっかけは何かあったのですか?

 「それが、特にこれといったのがないのです。中学生の頃に、先生からお前は理系やなと言われたのはありますが。何かをきっかけにとか信念を持ってこれをやりたいと決めたことはほとんどありません。

 多分、数学や理科が得意だったからだと思います。勉強しなかったので英語や社会など覚えるものは成績が悪かったです」

――自然と理系に進まれたということですが、KITに来られたきっかけは"自然と"ではないですよね(笑)。

 「工学系の大学を幾つか検討していて、私立の中で一番良さげなところを選んだという感じです。

 良さげと言うのは金沢という街ですね。例えば福井と金沢だったら金沢を選びます。ものすごく田舎出身なので大阪と言うと大都会すぎてしまう。金沢だとちょうど良いと」

――でも、実際に来られたら隣の野々市市にあったのでちょっとがっかりしたのでは?

 「いや、それはなかったです。僕らが入学した頃は大学の募集要項の送り先は金沢南局止めになっていたのです。もちろん所在地は野々市市ですが、外から見ればほとんど金沢ですよね。大学の広報の方は工夫しているなと理解していました(笑)。」

――それで KITの機械科に入られて現在の流体エネルギー関連の研究に進まれたわけは?

 「大学3年の時の卒業研究の配属選びとか、工大祭の時に研究室巡りをして選びました。授業でも液体関連は分かりやすかったので興味が持てました」

――大学院では何を研究されたのですか?

 「キャビテーションと言って、気泡ですね。もっと簡単に言うと泡の研究です。

 水に熱を加えていくと沸騰という、泡ができる現象が出てきます。これは地上付近で100度で飽和蒸気圧に達したからですが、富士山の頂上のように気圧が低いとこではもっと低い温度で沸騰します。

 一方、流体を加速すると圧力が下がって低い温度で沸点を超えてしまう現象が起きるのです。昔から問題になっていて、よく知られているのが船のプロペラです。プロペラは速く水中で回転します。そうするとプロペラの後ろ側で圧力が下がって、そこで水蒸気の泡ができます。

 これが厄介なのは、圧力が普通に戻るとまた水に戻ります。それが一瞬、本当に0.1ミリ秒くらいのオーダーです。そうするとプロペラは金属など固い材料でできていますが、その時の泡が潰れる衝撃でダメージを受けてしまうことがあるのです。

 そのため今のプロペラは、キャビテーションが起きにくい設計になっています」

――そう言えば、10年前にインタビューした佐藤隆一先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2012/04/ )は、防衛省の研究所で潜水艦のプロペラのキャビテーションの研究をされていました。杉本先生の研究室のホームページにはキーワードとして「キャビテーション」、「マイクロバブル」、「ウォータージェット」が挙げられています。

 「そもそも泡から始まって今は混相流という現象を研究しています。相というのは気相、固相、気相で、それが混ざって流れているということです。

 マイクロバブルは文字通り小さな泡ですし、ウォータージェットの場合は水を空気中に吹きます。空気と水の2相が混じった混相という同じ概念でくくれるというわけです」

水に力で切断加工を行うウォータジェット加工の様子――現在、一番力を入れているのはどのような研究ですか?

 「科研費をもらってやっているのがレーザーで結石を壊す研究です。結石は尿管や腎臓にしゅう酸カルシウムなどが結晶化して詰まらせるもので大変痛いことで知られています。

 内視鏡を入れてお医者さんが確認しながら、そこに光ファイバーを通じてレーザーをバンバンと打って結石を壊していくというものです。

 レーザーというのは熱源なので、それが一瞬にして体内の水に吸収されて一瞬で沸騰するのです。沸騰して泡ができますが、その泡がまた周囲に熱を奪われてすぐに水に戻るのです。その時、前に話したキャビテーションと同じことが起きるので、結石が破壊されるのです。

 もちろん、レーザーが直接、結石に当たるということで石を壊すということもあります。医学界ではここ10年くらい前まではほとんどそう思われてきました。そうではなくて泡が重要な役割を果たしていることが次第に明らかになってきているのです」

――そのような人体内で起きていることをどうやって調べるのですか?

 「お医者さんは内視鏡で見ているわけですが、泡の出現、消滅は0.1ミリ秒のオーダーなので確認することはできません。

 しかし、実験室で実際に使うファイバー形レーザーを使い、高速度のビデオ映像で気泡による破壊実験を見せてあげると、お医者さんは頭が良いですから納得していただけます。

 実際の治療を多く経験されたお医者さんは模擬実験の映像やデータを見るだけで、"ここまで照射すると危ないな"など大体のイメージがつかめるようです。我々としてはレーザーの照射範囲や頻度など、狭いところなのでこれ以上打つと危険ですよという範囲を提案できればいいなと思っています」

最近の工大生はお利口さん?

――先生はKIT出身ですが、ご自身の学生時代と比べて最近の学生はどうですか?

 「学生が元気なのがうちの大学の特徴だったのですが、最近はちょっと良い意味でお利口さんですよ。本当にお利口さんなのか、腹黒い(?)お利口さんなのか分かりませんが。KITだけでなくて今の大学生全般の傾向なのかも知れません」

 これを書いている2022年1月に日本から約8000k離れた南太平洋のトンガ島で海底火山の大規模噴火が起きた。これに伴う空気の衝撃波により津波のような海面の異常潮位の波が起き日本の海岸にも被害を与えた。非常に珍しい現象だという。スケールは全く違うが液体と気体が関わる思わぬ物理現象はまだまだ解明されていないことはありそうだ。杉本先生のミクロのスケールの研究でもこれから何が生まれるか分からない。

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