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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

道路などの老朽化診断にAIを

カテゴリ:環境土木工学科
2021.11.06
 

 環境土木工学科 田中 泰司 教授 環境土木工学科の宮里心一先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2008/11/post-1.html )はこの連載インタビューの第1回目。田中先生は土木学会などで学生の頃から宮里先生とは旧知の仲。その縁でKITにこられたという。お二人の強力なタッグで、KITの環境土木工学科は土木学会の中ではかなり有名な存在になったという。

――田中先生はどうして理系に進まれたのですか?

 「中学生の頃なのでよく覚えていないのです。結構数学が得意で、逆に国語が苦手でした。高校は富山県の高岡高校でしたが、自然と高校の理数科コースに入り、クラス全員が理系でした。

 高校の時は、おしゃれで格好がいいし夢があるから建築家になろうと思っていました。ところが東大に受かっても建築学科に進むのはとても難しい。当時は安藤 忠雄さんという有名な建築家が教授でいらして大変人気があったのです。そこでやむなく土木に」

――そうですか。高校入学前の中学生の時にすでに理系か文系か選ばされるというのは相当早いですね。東大に入られても建築学科は難しかった。今でも同じ状況なのですかね。

 「聞くところによると、今は建築の人気は下火で土木の方が人気とのことです。また、今の学生たちは、国際機関や海外ファンド系の金融機関、ディベロッパーなどが就職先として人気があります。今の学生さんは何かそういう国際貢献とか人のためみたいなことに興味があるみたいです」

――でも、先生は土木に興味を持たれ、大学院まで進まれて研究者の道へ。大学院ではどのようなことを研究されたのですか?

 「僕はコンクリート構造が専門なので、耐震構造とか耐震部材の研究をしてました。コンクリートは使っているとどうしてもヒビが入る。このヒビを制御して粘り強い構造ができないかという研究です」

――2004年には新潟県にある長岡技術科学大学の助手に。

 「故郷が富山県なので新潟であれば隣県で近くて良いなと思い、公募にチャレンジしました。長岡技科大は1976年に設立された新しい大学で丘陵地にありキャンパスがまとまっていて隣に職員宿舎があり本当に徒歩2分で通えました。

 長岡に移ってからは構造物の老朽化の研究をやりました。新潟とか北陸は冬が厳しい環境なので関東とかと比べると建物の劣化が早く進むのです」

――いったん、東大に戻られた後、2018年からKITにこられました。何かご縁があったのですか?

 「こちらの宮里心一先生から声をかけていただいて応募させていただきました。宮里先生とは私が学生の時から同じ学会で、20年前からのお付き合いになります。

 同じ学会なので分野はすごく近いのですけれども、宮里先生はコンクリートの材料自身を研究されています。私はそれを使った構造体、その強度とかいった研究を専門にしているので、"コンクリート業界"の中では結構両極端で、一応住み分けはできています。おかげさまでKITの本学科は土木学会の中ではかなり有名になっていると思います(笑)」

――その構造体の中で、先生が特に力を入れているのは?

 「道路橋床板(しょうばん)ですね。見ての通り、コンクリートで出来ている道路の床ですので、トラックなど大型車両のタイヤが直接載ります。それが激しい所だと1日何万台と通りますので、やはり痛みが激しいのです。

 この痛み具合を今は人間が上から目で見たり、叩いたりしてチェックしているのです。しかし、これでは内部がどのくらい傷んでいるのかということは全然分かりません。それでレーダーを使ったり、いろいろな非破壊検査機器を使ったりとか、あと写真を基にAIに判定させるといった研究をしています」

田中 泰司 研究室の実験風景――なるほど、その中で一番難しいのは?

 「内部のヒビを見つけるのが一番難しいです。小さく、しかも外から見えません。鉄筋の位置だったらレーダーなどで見えるのですが、中のヒビを直接、見るという方法はなかなか開発が難しくてネックになっています」

――ヒビがもし発見された時はどうやって補修するのですか?

 「基本的には今は取替えです。昔、どうやって補修するかというのを頑張って研究した時代が20年間ぐらいあったのですが、もう何をやっても無理だというのが分かってきました」

――話は横にそれますが、2007年アメリカ・ミネアポリスで高速道路の橋が崩落するという大事故があり、つい、最近(2021年6月)ではフロリダでマンションが崩落して多くの犠牲者が出ました。アメリカはこうした事故は起きやすいのですか?

 「フロリダは建築で専門外なので詳しいことは分かりません。建築が40年くらいで崩壊するというのは普通では考えられないです。ただ、リゾート地にあったので塩害の被害を受けていたという報道もあり、そうすると北陸地方でも気をつけなければなりません。

 ミネアポリスの高速道路崩落事故は、橋が鉄骨造で、補修・補強工事に問題があったと聞いています。

 ただ米国はなんだかんだ言ってもインフラの老朽化対策は結構進んでいるのです。ちゃんと予算をつけ、補修方法の研究開発も行われています」

――ヨーロッパはどうですか? 米国より古いインフラが多そうですが、インフラ崩壊事故はあまり聞かない気がします。

 「それが結構起きているのです。2年くらい前にイタリア・ジェノヴァで斜張橋が壊れて何十人か亡くなっています。特にイタリアは多いです。火山国ですし塩害もあるしで日本と似ています。経済的にもドイツやフランスに比べると弱いので、お金がなくてメンテナンスに苦労していると聞きます」

COIにも参加

――先生は2018年にKITに来られて、こちらで新たに展開されている研究はありますか?

 「KITの中でいろいろなプロジェクトがあるので、それに参加しています。その一つがFRPの研究。本学のCOI( Center of Innovation, https://www.icc-kit.jp/coi/organization/index.html )で安価なFRPを作っているのですけれども、それを土木建造物の中に使って永久に錆びない、永久に劣化しない構造物を作ろうというものです。

 具体的に言うと、洋上風力発電の構造体をFRPとコンクリートのハイブリッドで作る、これを日本の海に浮かべて2040年までに火力発電所30基分の電力を作ろうという計画です。これには学生も参加しています」

 橋やトンネルなど老朽化のため起きる事故はこれから増える一方だ。事故の度に大きく報道されるが、現場の管理者や田中先生たちのような研究者の地道な努力は報道される機会が少ない。ネットなども活用しもっと伝えるべきだろう。

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