2011年9月、台風の影響による集中豪雨の影響で紀伊半島を中心に広い地域で土砂崩れや洪水による大きな被害が出た。東日本大震災以来、地震や津波ばかりにわれわれの注意が集中しがちだが、台風や豪雨はますます巨大化になり被害は大きくなる傾向にある。岸井先生は国の防災科学技術研究所(防災研:http://www.bosai.go.jp/ )で長年、洪水を中心に自然災害防止の研究をしてこられた。
——先生は大学で土木の構造力学を学ばれてすぐ国の防災研に入られたそうですが、かなり珍しいケースなのでは?
「そうですね。特に理由はないのですが公務員試験を受けたら防災研で人が足りないからということで。防災研は1963年創立で出来たばかりでした。その前の59年に伊勢湾台風という大きな被害を出した台風がありました。当時は堤防では農林省の規格があり、建設省の規格もあるということで省庁バラバラだったのです。それではとても災害を防げないということで科学技術庁(当時)が音頭をとって各省庁共通のものを作ろうということでした。
ところがいざ出来てみると、省庁の権限争いがすごくて、わが役所の権限を別の組織に移すのはもってのほかと、最初は大変でした。いざ就職したら構造はやらないでいい、水害や洪水の専門家がいないのでぜひそちらをやってくれと頼まれたのです」
——今回の震災の被害の大部分は津波で、先生のご専門は洪水ですが、同じ水の災害という意味では共通していますよね。
「水災害が専門なので大きな関心を持っています。でも最近はいわゆるハードというか、防波堤や堤防などで災害を防ぐというのは100%無理だということがだんだん分かってきました。今回の震災で“想定外”という言葉が何度も登場しましたが、常に設計を超える外力というか、波の高さや洪水の量が必ず来るのですよ。ですから、100%安全な堤防を造るとなると無限に高いようなものを造ることになり、とても財政的に持たないのです。
やはりソフト的な情報をいかに早く住民に知らせるとか、いかに避難を早くするなどが重要なのです。日頃住んでいる土地をいかに安全にするかなど、そういうソフトと兼ね合わせないと、堤防なら堤防で造れば良いという時代はもう過ぎているのです」
——何時頃から、そのような考えが出てきたのですか?
「20~30年前からでしょうか。だんだんソフト重視の傾向が強くなってきたのです。構造物でもって自然と対峙するのは限りがあるといいますか、防ぎきれないということです。ただ、一般の住民というのは堤防なら高ければ高いほど、安心といいますか、もう大丈夫だろうと思ってしまうのです。今まで堤防の近くには住まなかったのですが、やはり安心だと思って家を建てたりしてしまいます。
堤防といっても土でできていますし、100%安全ではないのですから、時たま崩れることだってあるのです」
——先生は堤防をより頑丈にする研究をしているのではないのですか?
「私はどちらかというと、大雨が降った時にどれだけの量の水が下流に出てくるかということを、モデルを使って予測しているのです」
——というと、上流で急に大雨が降って下流のキャンパーが流される事故などの対策も含まれるのですか?
