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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

環境土木工学科 の最近のブログ記事

白山は危険な山

カテゴリ:環境土木工学科
2013.12.18

 環境土木工学科 川村 國夫 教授 2013年の日本は大雨による災害が目立った年だった。中でも10月に起きた台風26号の記録的な大雨による伊豆大島の土砂災害は多数の死者・行方不明者を出すという甚大な被害をもたらした。川村先生は長い間、石川県で防災研究の第一線に立って来られた。先生によると大雨による土砂災害は日本の宿命で北陸も例外ではなく、日本三大名山の一つとしてしられる白山も実は危険な山なのだという。

----先生は愛知県のご出身で岐阜大学において修士を取られました。修士では何を研究されたのですか?

 「実はその時も白山。白山の石川側は北側ですよね。岐阜は南側です。やはり白山の噴出物が岐阜方面にも相当積もっています。白山は今でも活火山ですが大昔、バーッと真っ黒な火山灰をまき散らしたのです。各務原台地という地域は"黒ぼく"という黒い土がずっと堆積しています。成分としては雲母系と言われています。

 この土は、農業には良いのですが土木の材料にはあまり良くない。それで土木系の材料として、これをどのように改良したら良いかと地盤工学や土質工学をやりだしたのがきっかけです」

----そうすると、白山は今では樹木に覆われていますが、火山灰が積もってできたとすれば大雨が降れば伊豆大島のように危険ですよね。

 「ご存知のように、白山は富士山、立山と並んで日本三大名山として有名で全国から登山客がやってきます。あるいは降った雨は100年ぐらい経って川として出て来て名水として有名です。その名水から良いコメが育ち、名酒が生まれました。加賀百万石を支えた金沢平野はほとんど白山から恵みをもらっていると言っても過言ではありません。でも実は危険な山なのです。

 噴火は今すぐにはしませんが、高さ1400mぐらいのところでゆっくりとした地滑りが今も起きているのです。これはかなり以前から起きています。今の白山ができた直後からでしょう。私がKITに来たのは1981年からですが、当時でも年当たり30cmぐらい動いていたような地滑りなのです。われわれ地滑りを専門とする研究者の中では、白山において大規模で急激な地滑りが起きると、下流部ではかなり危ないと言われています」

----最悪のケースで起きるとどのようなイメージなのですか?

 「ちょっと想像できないと思いますが、大体1億m3という山体がどっと崩れてきますので、まず白峰村を襲います。次に手取川ダムに来ます。このダムは石を積んだロックフィル・ダムですからオーバーフローしたら一発で決壊するのです。こうした一番危険なケースを常に念頭に起きながら、国交省などと防災を考えています。

 地滑りを構造的に説明しましょう。山体に降った雨はとうとうと地下水となって流れています。実はこの水が土砂を上へと浮力をかけるのです。浮力がかかるということは山が非常に不安定になります。ものが高いところから低いところへと滑ろうとするのは重力の原理です。そこで、この浮力を少しでも減らそうと井戸を掘って地下の水を抜いているのです」

----今までに被害の出た地滑りは起きているのですか?

環境土木工学科 岸井 徳雄(きしい とくお)教授 2011年9月、台風の影響による集中豪雨の影響で紀伊半島を中心に広い地域で土砂崩れや洪水による大きな被害が出た。東日本大震災以来、地震や津波ばかりにわれわれの注意が集中しがちだが、台風や豪雨はますます巨大化になり被害は大きくなる傾向にある。岸井先生は国の防災科学技術研究所(防災研:http://www.bosai.go.jp/ )で長年、洪水を中心に自然災害防止の研究をしてこられた。

——先生は大学で土木の構造力学を学ばれてすぐ国の防災研に入られたそうですが、かなり珍しいケースなのでは?

 「そうですね。特に理由はないのですが公務員試験を受けたら防災研で人が足りないからということで。防災研は1963年創立で出来たばかりでした。その前の59年に伊勢湾台風という大きな被害を出した台風がありました。当時は堤防では農林省の規格があり、建設省の規格もあるということで省庁バラバラだったのです。それではとても災害を防げないということで科学技術庁(当時)が音頭をとって各省庁共通のものを作ろうということでした。

 ところがいざ出来てみると、省庁の権限争いがすごくて、わが役所の権限を別の組織に移すのはもってのほかと、最初は大変でした。いざ就職したら構造はやらないでいい、水害や洪水の専門家がいないのでぜひそちらをやってくれと頼まれたのです」

——今回の震災の被害の大部分は津波で、先生のご専門は洪水ですが、同じ水の災害という意味では共通していますよね。

 「水災害が専門なので大きな関心を持っています。でも最近はいわゆるハードというか、防波堤や堤防などで災害を防ぐというのは100%無理だということがだんだん分かってきました。今回の震災で“想定外”という言葉が何度も登場しましたが、常に設計を超える外力というか、波の高さや洪水の量が必ず来るのですよ。ですから、100%安全な堤防を造るとなると無限に高いようなものを造ることになり、とても財政的に持たないのです。

 やはりソフト的な情報をいかに早く住民に知らせるとか、いかに避難を早くするなどが重要なのです。日頃住んでいる土地をいかに安全にするかなど、そういうソフトと兼ね合わせないと、堤防なら堤防で造れば良いという時代はもう過ぎているのです」

——何時頃から、そのような考えが出てきたのですか?

 「20~30年前からでしょうか。だんだんソフト重視の傾向が強くなってきたのです。構造物でもって自然と対峙するのは限りがあるといいますか、防ぎきれないということです。ただ、一般の住民というのは堤防なら高ければ高いほど、安心といいますか、もう大丈夫だろうと思ってしまうのです。今まで堤防の近くには住まなかったのですが、やはり安心だと思って家を建てたりしてしまいます。

 堤防といっても土でできていますし、100%安全ではないのですから、時たま崩れることだってあるのです」

「ハードで対応するのは限りがある」と岸井教授——先生は堤防をより頑丈にする研究をしているのではないのですか?

 「私はどちらかというと、大雨が降った時にどれだけの量の水が下流に出てくるかということを、モデルを使って予測しているのです」

——というと、上流で急に大雨が降って下流のキャンパーが流される事故などの対策も含まれるのですか?

環境土木工学科 鹿田 正昭 教授 鹿田先生はKITの土木工学科の出身。最初は土質の研究をしていたが、70年代初めの米国の地球観測衛星「ランドサット」打ち上げなどをきっかけに関心はリモートセンシングへと向かう。コンピューター、情報処理を独学で学び、今は空間情報工学という身近ながら最先端を競いあうエキサイティングな学問の真っただ中にいる。

――空間情報工学は3Sといわれる技術が柱だそうですが。

 「3SとはGISとGPS、そしてRemote Sensingの3つです。GISはGeographic Information Systemの略で地理情報システム。GPSはGlobal Positioning Systemで全地球測位システムと訳し、衛星を使って地球上での現在位置を測定します。カーナビでお馴染みですね。リモートセンシング(以下リモセン)は遠隔探査です。

 この3つはどちらかというと独立した技術と見られていました。GISは注目されて出てきたけど電子地図に特化してました。リモセンは宇宙から地球を計測して何かするという。

 それぞれ特徴というかメリットがあるわけで、これらの良いとこ取りというかコラボレーション(協調)させて世の中にうまく使ってもらおうというのが空間情報工学といえます。

――具体的にはどのようなものですか?

 「例えばICタグを使って車いすを使っている弱者を誘導しようという試みです。ICタグは眼に見えないほど小さいチップ組みこんあるタグ(値札)で、読み取り装置の電波を受けて、自分の持っている情報を発信できるもの。建物の陰にいる時などGPSで位置情報が撮れない場合があります。そのような時、ICタグを使い、車いすに読み取り装置を付けてシームレスに位置情報を得ようというものです」

――応用は広いですが、基本にあるのは測量学とおっしゃているそうですね。

 「一年生の測量学の講義の初めに “グーグルアースの技術のメインは何か?” と聞くのです。電気、電子工学、宇宙工学、画像処理とかいろいろ答えがでてきます。でも、基本にあるのは土木工学というか測量がベースになっているというと皆びっくりするわけです。

 要するに衛星で撮った画像というのは単なる画像であって、そこに地図の要素や緯度、経度とか経路の探索とか最短距離などのいろいろな情報を入れる技術は測量がベースになっています。

 測量という実際に地上で直接測った地面のデータがあるから、宇宙から撮った画像と照合してシームレスにできるということです」

全学科対象の測量コンテスト参加をよびかける鹿田教授――しかも、その衛星からの情報は精度があがる一方です。

環境土木工学科 徳永 光晴 教授 徳永先生は大学で応用数学を専攻された。それが、現在は環境土木工学科で教鞭をとられている。「数学」と「土木」を繋ぐものは何か?

 その答えは「リモートセンシング」。

 リモートセンシングは人工衛星のデータを解析して地球環境と資源を調べる技術。宇宙から撮影された可視光、赤外線などさまざまな種類の膨大データを分析するには数学の知識が欠かせない。

――大学で数学を勉強して、就職したのは資源探査会社だった。

 「資源の探査を人工衛星でやりたいということでした。すぐやらされたのはアメリカの砂漠地帯での金鉱探しでした。金鉱が見つかった地域のデータから、新しい未発見の金鉱を見つけることができないかと一生懸命研究しました。

 データ分析というのは結局全部数学。画像処理もデジタルの数字が意味を持ってくるのは結局、数学なのです。

 私は大学でコンピューターを使って微分方程式を解くのに熱中していました。紙と鉛筆では解けない方程式なのですが、コンピューターを使うと当たらずとも遠からずの答えが出てくるのです。それが面白くて・・」

――それで金鉱は見つかったのですか?

 「金はあったのですけれども、残念ながら含有量が少なくてペンディングという形ですね。金というのはトン当たりに何グラム入っているかという世界ですので」

 その後、徳永先生は東大の生産研究所に移り、そこで研究員から講師となる。2002年からKITに来られた。その直前の東大時代、徳永先生は貴重な体験をしている。タイにあるアジア工科大学(AIT:Asian Institute Technology, http://www.ait.ac.th/)に3年間も派遣されたのだ。

――AITは日本ではあまり知られていませんが、どんな大学なのですか?

 環境土木工学科 宮里准教授 今から25年近く前、米国の女性ジャーナリストらの書いた「America in Ruins:The Decaying Infrastructures」(瓦礫のアメリカ:崩壊するインフラ)という本が日本でも話題になった。先進国・米国の誇る橋や道路が経年変化と劣悪な維持管理の下で崩壊の危機に瀕しているという警告の書だった。著者は来日してゼネコンなどを講演に回ったのを記憶している。

 こうした警告もむなしく、2007年8月ミシシッピ州の高速道路の橋が崩落、9人が死亡、100人以上が負傷するという大事故が起きてしまった。この橋は1967年建造の鉄骨トラス橋でちょうど補強工事が行われていた。事故を受けて日本でも国土交通省が調査を行ったが多くの自治体で橋の点検を行っていない事実が浮かび上がってきた。
実はこの大事故の起きる前から、米国はもちろん日本でも散発的にこうした問題は起きていたのだ。ただ、インフラは完成時には大々的に報道されるが、維持管理という地味な分野はマスコミでも注目されなかっただけなのだ。

 しかし今や橋に限らず、古い水道管や下水、道路など土木・建築の維持管理は重要かつ緊急の課題として注目されている。

 KITでも学生に人気の高いという宮里心一研究室はまさにこのインフラの維持管理、とりわけコンクリートを専門としている。宮里准教授は童顔でニコニコしていて、大学の先生というよりバイト先の先輩という感じが受けているのであろうか。

 宮里准教授が土木を専門にしようと思ったきっかけは、高校時代にある。土木技師だった祖父の葬儀に故郷・沖縄に帰った。その時、参列者たちが口々に「おじいさんはあの橋を作った」、「あの道も手がけてくれた」と話してくれた。「亡くなった後でも人に喜ばれる仕事で良いな」と同じ職業を目指すことにした。大学で土木技術を学び、日本各地の港湾やダムの現場を見学して地域と結びついた、この学問にますます魅せられていったという。

 このため宮里研究室は徹底した「現場主義」と「実験重視」である。

 「できるだけ学生を現場に連れて行きます。現場で初めて具体的に問題を眼にすることができますし、担当の技術者と話し合える貴重な機会もあります。どんどん実験をさせますが失敗は許します。そして成果が出れば海外の学会で積極的に発表させて自信をつけさせるのです」
 
 「現場」と「実験」を通じて学生を育てることに全力をあげているのだ。