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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

コンクリートの維持管理の研究を息長く

カテゴリ:環境土木工学科
2020.06.12
 

環境土木工学科 花岡 大伸 准教授 KITの先生方にインタビューするという、この連載が始まったのが2008年の11月。以来100人以上の先生に貴重なお話を伺ってきた。記念すべき第1回に登場いただいたのが環境土木工学科の宮里心一先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2008/11/ )。今回の花岡先生はその宮里先生の教え子だという。

――和歌山県ご出身の先生にお会いするのは多分初めてです。KITにこられたきっかけはあったのですか?

 「今時の学生によくありがちなというか(笑)。高校の先生が勧めてくださったのが一番ですね。和歌山なので大阪とか近辺に理系の大学はたくさんあります。当然、そのような近くの大学も受かったのですが、先生が"金沢工大が良いのでは"とおっしゃるので"先生がそう言うなら、良いか"みたいな感じです。

 出身高校が御坊商工高校(現 紀央館高校)と言って商業科と工業科がありました。もちろん工業科です。高校時代はどちらかというと機械系で全然土木ではなかったです。車のエンジンを分解して組み立てたりとかというのを教わったのですが、いまいち興味がなくて」

――KITの評判が和歌山の先生にまで伝わっていたということですね。どうして土木に興味を?

 「たまたま自宅近くで、高速道路を作っている現場があって。その仕事を見ているうちに"土木は面白そうだな"と。前から形に残る仕事をしたいなとも思っていたので」

――それで無事、KITの土木に入って学科の授業で宮里先生と会うわけですね。

 「それが、実は私は宮里先生の授業は受けことがないのです。当時は定員も多かったことや学科内部のコース分けの関係です。研究室を選ぶとき時に別の先生(木村先生)と相談していると、その先生(木村先生)が"宮里先生のところが良いよ"と勧めてくれ、直ぐに宮里先生を訪ね、面白そうだと思い研究室を決めました。結局、高校の時と同じで先生の勧めで進路を決めています(笑)。」

――それはまた珍しいケースですね。それで宮里研のどこがよかったのですか?

 「今でこそ、外の企業と産学連携とかを結構頻繁にやっていますが、私が学生の頃は学科も周囲もそうではなかったです。その中で宮里研は積極的にいろいろな人に会わせてもらったり学会にも出させてもらったりで、広い勉強ができたのが良かったです」

――先生は一旦、企業に勤務されたのですか?

 「はい。東亜建設工業(株)という東京に本社がある会社に7年間勤めました。どちらか言うと海の工事が得意。空港とか埋め立ての防波堤とか。もちろん陸の工事もやっていますけれど。7年の半分は横浜市の鶴見にある研究所で。残りの半分は北陸新幹線の建設現場にいました。富山の高岡です」

現場での実習体験――研究所ではどんなことを? 基礎的なことですか?

「いや、何でもやりますね。本当に新しいものの開発もしますし、現場で困ったことを解決しに行くようなことも。入札というか工事を受注するため支援も行ったりもします。もちろん大学との共同研究もあります。

 そもそも東亜に入ったのも学生の時に共同研究をしていて、そこで知り合いになったというのもあります。後、博士課程の時にインターンで東亜に行っていました」

――企業での研究内容をもう少し具体的に教えていただけますか? 今ひとつイメージが湧きません。材料開発などでしょうか?

 「材料開発もありますし、私のいたところでは港湾構造物(桟橋など)の維持管理やリニューアルに関する研究開発を主に行っていました。老朽化した構造物の点検方法や補修方法に関する研究開発を行ったり、最近、流行りになっているメンテナンスや点検をどのように進めるかとか」?

――鉄筋コンクリートが塩水でボロボロになるのは今でも防ぎきれないのですか?

 「最近、作ったものは比較的、対策がとられているので、きちんと施工されていれば多分10年や20年でやられることはないと思うのです。しかし、1950年代に作られた構造物がすごい数になっているので、それをどうしていくかが最大の問題です」

――最近のものはどうして耐えられるようになってきたのですか?

 「例えば塩分が入りにくいようなコンクリートで最初から作るとか。あるいは錆びないように塗装した鉄筋を入れる。場合によっては鉄の替わりにステンレスを使う。さらに最新のものではFRPを補強材に使う例もあります」

――コストがかかりそうです。

 「初期コストはかかりますね。なのでケースバイケースです。最近の事例ですと羽田空港の拡張工事。あそこはやはりすごく重要で航空機の発着陸の頻度も高いので、もう最初からお金をかけて良いものを使ってます。後のメンテナンスもできるだけ避けたい。
 
 作った後で10年20年30年とちょくちょく直していくとコストが階段状に上がっていきます。やはり初期コストが重要。最初に何百億円かけて良いものを作ってしまえば後はそれほどかからない」

センサーの数、位置が問題

――2016年にまたKITに戻ってこられて、今は特にどのような研究をされているのですか?

 「学生の時からやっていた鉄筋コンクリートの維持管理、補修ですね。耐久性とか、どのように劣化するのか、それをどのように直していくかなどです。最近ではセンサーを付けてそれをモニターできないかと。

 それと廃材として出る古い屋根瓦を新しい材料として再利用でないかなどの研究もしています」

研究での試験体による実験――モニターはどうやって測るのですか?

 「電気化学的な領域になるのですが、鉄が錆びると電位が上がるのです。それをセンサーで検知します。

 そうしたセンサーを使おうとすると、どうしても1回埋めないといけません。すでに作ってあるものなら、一旦、コンクリートを一部壊してセンサーを近くまで入れてまた埋め戻す。最初からセンサーを入れて新しく作る時は、どこに何個入れれば良いのか?

 まだまだ未解決の問題が多いので研究しがいがあるわけです」
 
 橋や道路など土木構造物のメンテナンスの研究は息の長い地道な領域だ。2008年にインタビューした宮里先生から、また若い花岡先生に研究がしっかりと継続されていて頼もしい限りだ。

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