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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

実験に惹かれてFRPの世界へ

カテゴリ:機械工学科
2020.04.06
 

 機械工学科 斉藤 博嗣 教授 テニスのラケットや釣りざおなどに使われているため、FRP(fiber-reinforced plastic,繊維強化プラスチック)はすっかり馴染みのある言葉となったが。しかし、どのような材料でどうやって作るかは、あまり知られていない。学生時代から実験を通じてそのFRPの奥深い魅力にとりつかれたという斉藤先生に研究の現状や課題をうかがった。

ーー先生は本学では珍しい京都工芸繊維大学のご出身です。京都工繊大の英語の表記はKyoto Institute of Technology で略称はKIT。本学と同じです。混乱しませんでしたか?

「ずいぶん昔のことなので、もう慣れました(笑)。」

ーー理系に進まれたのは何か理由がありました?

 「小さい頃から実験好きでした。"子供の科学"などの児童向け雑誌に載っていた実験に夢中になったのです。だから友達もみんな自然に理系に進むとものだと思っていました。そうしたら実際には2割しかいなくて。あれ?という感じでした(笑)。

 実験は今でも大好きで、学生にやってもらう実験も本当は自分がやりたいくらいです(笑)。」

ーー材料に進まれたのは?

 「学部3年の時に、授業でFRPというものに初めて触らせてもらいました。これは新しい材料でまだそんなに歴史がないという説明で興味を覚えたのです。

 私は破壊試験を担当しました。材料を作っては壊しみたいなことを続けます。金属だと、この部分にくびれが生じて亀裂が入って壊れると決まったプロセスで予想がつきます。ところがFRPはやってみると訳が分からなくて。それをどうやって解明するのかと迷いました。

 それが、なかなか奥が深いというか、分からないことだらけで、今でもよく分かりませんが、ただ、それをもうちょっとやってみようかなと思ったのが多分きっかけでしょうね」

ーー先生が最初に壊したFRPはどんな種類のものだったのですか?

 「今考えたら一番難しいのですけれど、ランダムにガラス繊維が入っているやつです。だから繊維の方向があちこちに向いているし、入っている場所もいろいろだし、無茶苦茶なのですよね。でも強くはなっている。プラスチックだとムニョーンと伸びるようなとこが、伸びないでブチッとちぎれる。しかもバリバリとね。

 今はガラス繊維ではなくほとんど炭素繊維を使っているのですが、当時は炭素繊維は高くて買えませんでした」

ーーそれで分からないという魅力に取りつかれたという感じですか?

 「そうですね。4年生になって、もうちょっと勉強しても良いかなと思って修士に進もうとしたのですが、先生が忙しくなられて別の先生を紹介されました。

 その方もFRPの権威で今でも恩師ですが、強烈な方です。進学して1週間ぐらいの時にいきなり"今度、外国のお客さんが来るから英語で発表しなさい"と言われました。"このスライドの中から選んで自由に発表しなさい"と。すごい研究室に入ったなと驚きました。でも修士2年の間に学会にも多く連れて行ってもらいましたし、国際会議にも行きました。すごいアクティブに動かれる先生で、ついて行くうちに"研究は面白いな"と思って、とうとう博士課程に」

FRPの試料を手に説明する斎藤先生ーー京都のKITから金沢のKITにダイレクトに来られたのですか?

 「そうですね。ドクターの一時期、ちょっと会社の研究所に行こうとしていた時期もありました。迷っている時に本学の金原勲先生(元副学長、現 研究支援機構顧問)がポスドクを募集していると、京都の先生から言われたのです。先生同士が知り合いだったのです。それで応募して、そのままずっと」

FRP製自動車が最終目標

ーー大学に見学に来た高校生たちには先生の研究対象のFRPについては、どのように説明されてますか?

 「FRPは何となくなく知っている高校生もいるのです。特にスポーツをやっている子は多いです。テニスのラケットは今ではFRPしかありません。軽いので。大昔は木材、ちょっと前は金属もありましたが。

 あと釣りざおもそうだし、ゴルフのシャフトもそうだし、探すといろいろなところでいっぱい使われている。

 飛行機の部材もどんどんFRPに置き換わっていますし、自動車の一部にも使われています。F1の車体などは元々ほぼオールFRPです」

ーーそれは高くても構わないからですか?

 「そうです。FRPは型を作った繊維にプラスチックを浸み込ませて固めて作ります。その浸み込ますというところが大事で、そこが効率的にできるかどうかでFRPが効率的にできるかどうか決まってしまいます。

 今だと特に自動車業界が最後の出口と言われていますが、ゆっくり作ると結局コストが合わないのです。軽くて良い材料なのですが、素材そのものも高いし、製造プロセスも遅いので全体としてコストが高くなってしまう。

 自動車の車体に使う金属だったらプレス機でガッチャンとやったら数秒で出来上がります。ところがFRPは1個につき数十分とか数時間とか時間をかけて作っているのです。全然、金属には敵いません」

ーーそこがネックになっている。

 「そうです。今やっている研究の1つはプラスチックを浸み込ませるプロセスなのです。そこをもう少し効率的にするような理論や方法はないかと模索してます。

 その方向は世界中の研究者、技術者が競っています。作り方も材料もいろいろあるので
どれがベストか簡単には答えは出ないのです。本学には複合材料の研究所がありますが、そこでも似たようなことをやっています」

「実験は今でも好きだ」と話す斉藤先生ーー他にFRPの課題は?

 「実はFRPはリサイクルとかリペアが非常に難しい材料なのです。そこは環境第一の時代にそぐわない。プラスチックの種類を変えて熱に溶けて再利用できるものにしようという動きがあります。この研究も世界中で行われています」

 自動車産業についてマスコミは自動運転、電気自動車、燃料電池の話題ばかり取り上げるが、既存の車の車体を軽くするFRPについては無関心だ。しかし、斉藤先生によると、安くてエコロジカルなFRP車ができれば大きなイノベーションとなるので研究、開発競争は世界中で行われているという。興味深い話だ。

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