田中先生は、元々、機械工学科で複合材料の基礎研究をされていた。最近はそれに加えてバイオマテリアル、バイオメカニクスなど生体関連の研究もされているという。二つの異種領域にまたがる、最もイノベーションが期待できる分野の一つだ。
――先生は奈良県の進学校で有名な東大寺学園高校のご出身です。私はこちらの卒業生には初めてお会いした気がします。やはり東大寺の近所にあるのですか?
「はい、元々は東大寺の南大門を入ってすぐ左側にあったのですけれど、狭くて不便なので、私が高校に行く頃は高の原という山の方の広い所を買って、そちらの方へ移っていました。
東大寺が運営をしているというか、理事の方に僧侶がいらっしゃる。学校の運営には全く口出しはされないのです。スパルタ教育ではと思われる方がいらっしゃいますが、かなり緩いところです。当時は、雨が降ったら生徒の半分は登校しません(笑)。放っておいてもみんな勉強するので」
――京都大学の機械工学科に進まれますが、何かきっかけはあったのですか?
「数学や物理は元々好きでした。中学生の頃、友達がテレビのF1中継を見はじめまして、それに影響されて自分も見始めて、面白いなと。時々、メカニックに日本人がいたりして。格好良いなと思い始め憧れました。」
――順調に大学院まで行けたのですか?
「学部でそれなりの勉強はしたのですけれど、マージャンにも熱中してしまいました(笑)。5~6人の友人グループがあったのですが、マージャンは4人なので1~2人余るではないですか。ゲームで負けた人がレポートの課題をやり、残りの友人に教えるというルールにしたのです。必死で勝ちに行くのですが、負けたら仕方がないから一生懸命勉強して、みんなに教えられるようにしました。意外とマージャンも勉強も両方できたりして(笑)。」
――修士ではどのような研究を?
「学部4年で研究室に入った時に複合材料の研究をしているところに入りました。最初はセラミック繊維というものです。
ジェットエンジンのブレードとか発電に使うタービンのブレードとかは、耐熱性のある金属を冷却システムを使って冷やしているのです。材料そのものに耐熱性がもっとあれば、もっと高温で使えて効率が上がるわけです。
そうなるとセラミックぐらいしか候補がないのです。セラミックはお皿などと一緒でちょっと傷があれば割れてしまいますよね。ブレードが割れたら大変なことになります。けれど、それに繊維を入れることによって、亀裂が来ても繊維の方向に逃がすというか、一気に割れないようにする複合材料があったのです。」
――簡単に言うと高温にもショックにも強い材料ですか?
「そうですね。そのような新しい材料が出てきたので、当時の恩師から"田中君、新しい材料をある会社がくれると言っているから、引っ張り試験をやってみないか"ということになりました。そんな材料は高温の炉などすごい設備がいるので研究室では作れません。企業との共同研究のおかげです。この研究は博士課程まで続きました。」
――京都大学の助手から07年KITにこられました。何か縁があったのですか?
「元々、京大の機械工学科が、よほどの研究業績を残していないと内部から上へは上げないという内規を作ったのです。外部から新しい人材を入れるという意味だと思います。それで、どこか他の大学に行かねばと思っていました。
どうせ、外に行くのだったら学会などでいろいろディスカッションしている中で一緒に研究をしてみたいという人のところに行きたいと思っていました。そのような方が4人いまして、そのうちの1人がここの金原 勲先生だったのです。KITから最初にお声をかけていただいた時は、金原先生と一緒にやるという話ではなかったのです。勝手にご一緒にやれたら良いなと思っていまして、来たらなぜか金原先生と同じ研究室になっていました。」
理論と実験のバランスを
――先生は現在、バイオ関連の研究もしているのですか?
「複合材料関連の研究も当然、続けています。その知識を再生医療用の材料を作ったり、微細構造を制御したりするのに使っています。それを体の中に入れなくてはならないので、うまく細胞と共存したり、細胞の挙動を制御できないといけないので、そのために細胞の研究もしているところです。」
――材料とバイオという2つの領域の研究しているのですか?
「そうですね。今2本の研究の柱があって、真ん中にバイオマテリアルみたいなものがあるのですが、最後にこれを合体したいのです。それがゴールです。
例えば生体の持っているような、自分で治るとか、もっと環境に適応するとか、こちらの方が多分、難しいのですけれど、そういう機能は人工の材料ではなかなかありません。それを模倣というか、真似するにはどのような原理が必要か。そのようなモノを作ったり、逆に骨そのものを複合材料を作るように作ったり。そうなると再生医療ではなくて、体の一部なくなったところに、その材料をただ置けば良いだけになると思います。そうやって一見違うような2つの学問を合体したいと。」
――京大と比べてKITの学生はいかがですか?
「コツコツやるタイプの学生さんが多いです。数学などが苦手なので実験をやりたいという学生が多いのですけれど、できれば両方バランス良くやってほしいと思います。ただ、京大の学生には絶対にやらせられないという作業もここでは辛抱強くやってくれるのです。
例えば、材料の断面を見るのに0.5mmずつ磨いて、顕微鏡で見て、また磨いて見てというような作業は京大の学生は絶対に嫌がるのです。僕も自分でやるのは嫌なのです(笑)。そのような作業も、"これはこのような意味で必要だ"と説明すると、一応、頑張ってくれるのです。それはとても良いところです。
そうすると、特に丁寧にやる学生は、本人は気づいていなくても、かなり新しい発見につながるような結果を出してくれる学生もいるのです。これが京大だと手を抜かれて終わりだなというところはあります。」
――学生には今後、どんな研究を期待したいですか?
「繰り返し自己修復材料です。壊れても何回でも勝手に治るという夢の材料です。マイクロカプセルに修復材を入れて、使って修復したら、また毛細管のようなネットワークで
補充するといったことを考えています。今はまだ何もやっていませんが、これから学生にも挑戦して欲しいです。」
田中先生は教員録の近況欄に「本質をとらえた研究テーマの設定と、誰にも真似のできないアプローチを通して、地球と人類の存続に貢献したい」と書かれている。視野の広い、素晴らしい「研究宣言」だと思う。