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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

遺伝子組換えで麹菌に新たな利用を

カテゴリ:応用バイオ学科
2019.04.02
 

応用バイオ学科 佐野 元昭 教授 今までKITの多くの先生にインタビューしてきたが、自らの進路を小中学生時代の適正調査で決められたという方には初めてお会いした。しかも、そのままバイオテクノロジーの研究職に進まれ、麹菌というライフワークのテーマ、一筋に歩んでこられたという。
先生のこれまでの歩みの一端を伺った。

――先生が研究職を選ばれたのは何かきっかけがあったのですか?

 「小、中、高校が筑波大学(旧教育大)附属という一貫の国立実験校でして、多分、小学か中学ぐらいの時に、将来どのような職業が向いているかの進路調査をされたことがあります。その結果、基本的には専門職系で規模が20人くらい一番適するというデータが出たのです。それ以上の大きいところだと、補佐する役には向いているけれど、リーダーとしては向かないという結果が出たのです」

――そんな低学年での調査の話、初めて聞きました。面白いと言っては失礼ですが、それは筑波大学の心理学とかの先生の研究の一環なのですか?

 「あまり記憶は確かではないのですが、生徒全員がやらされたわけではないと思います。筑波大の先生のところに行って、大学生のお兄さん、お姉さんと一緒に。我々、生徒たちが学生さんにあれこれ指示を出す形で、向き不向きを見ていたようです」

――余計なお世話という感じもしますが(笑)。

 「その結果を信じまして、"それなら"ということもあって、大学で研究しようという感じです。バイオテクノロジーが華やかになり始めたころで、遺伝子組換えとか、そのような分野にいければと思いました」

――それで大学は東京理科大学に進まれて、大学ではどんな勉強を?

 「理工学部の応用生物学科です。4年生で教授からはかなり自由にやらせていただきました。その時は放射線抵抗細菌といって、放射線を当てても死なない微生物の研究をしました。放射線の照射をする必要があるので群馬県高崎市にあった原子力研究所まで行って実験させてもらいました。」

――放射線は何を使うのですか?

 「ガンマ線です。ガンマ線滅菌という方法では、通常の菌はほとんど死ぬのですが、その中でも生き残る特殊な菌がいたのです。4年生の1年間だけですので、研究はあまり進みませんでしたが、その菌は遺伝子の修復系が異常に強かったと思われます」

――大学院からは東大に進まれました。

 「入った研究室では、教授が昔やっていた麹菌の研究をやらないかということで、それから、ずっと今日に至るまで主に麹菌関連です。

 通常でしたら、途中で研究テーマが変わるのですが、うまい具合に産業技術総合研究所(産総研)にポスドクで行けました。当時、産総研もゲノム解析ができるようになっていたので、麹菌のゲノム解析をやらせてもらえたのです。麹菌の取り扱い、遺伝子解析に慣れている人が欲しいとのことでした」

――それはラッキーでした。

 「また、産総研での麹菌のゲノム解析が終了して、次はゲノム、遺伝子情報を使って遺伝子組換え実験をしようと思っていたら、こちらにゲノム生物工学研究所ができるということで、05年からKITに来たのです」

――麹菌しか研究しなかったのですか?

 「基本的にはそうです。ただ、なぜか良く分かりませんが、カシミヤ標準化を頼まれてやったりしました。あの高級セーターに使うカシミヤです。

 よく言われるのは、世界中で販売されているカシミヤは本物のカシミヤの総生産量の3倍あるそうで、3点に2点ぐらいは偽物だったりするのです。そう言うと、某メーカーの安価なカシミヤは大丈夫かと聞かれるのですが、本物のカシミヤにもグレードがピンからキリまであって、下の方だと安価な製品も作れます。

 当初はDNAで分析、判別していたのですが、抜け道が出てきたので今度はペプチドタンパク質でやろうということになり、それが国際標準になりそうです」

「麹菌一筋できました」と佐野先生――今は麹菌でどのような研究をしているのですか?

 「麹菌は通常放っておくとマリモみたいに丸まってしまうのです。これを遺伝子組換えで丸くならない麹菌ができないかを他の大学と共同研究しています。

 丸くなると何がいけないかと言いますと、モノを生産させるレベルまで麹菌を増やして2階建の部屋ほどのタンクに入れて羽で攪拌するのですが、丸いと抵抗が広がってきてやりにくくなるのです。ヒモ状にした方が攪拌しやすい。麹菌は攪拌し、空気をどんどん入れてやった方が生育が良いのです。それで遺伝子組換えで何とか丸くならない麹菌を作れないかと」

安価な美白化粧品も可能に

――その他には麹関連ではどんな研究を?

 「麹菌が作り出す微少化合物に麹酸があります。これに肌を白くする美白作用があることがわかり注目されています。しかし、麹菌はものすごく特殊な培地でないと麹酸を作らないのです。この特殊な培地を作るにはかなりの費用がかかるのです。そのため、研究レベルなら良いのですが工業レベルだとかなり高くつき、今のところ高級化粧品にしか麹酸は使われていません。麹酸入りの化粧品は50mlで数万円もします。

 我々はもっと安価に、例えば米ぬかとか小麦フスマのような廃材でも、その培地にできないか研究しているのです。これが可能になると、コンビニで売っている安い化粧品にも麹酸を入れることが可能になるのです。

――麹菌は日本酒、味噌、醤油などには欠かせないもので古くから日本人には馴染みがあるものですが、さらに薬品などの用途が増えてくるのは嬉しいですね。

 「麹菌は微生物と言っても、我々と同じ真核生物なので遺伝子を1万個ぐらいも持っていて、そのうち3分の2ぐらいは機能が分かっていないのです。これらを調べていけば色々な用途に使えるのではないかと思っています。

 私がなぜ麹菌にこだわるかと言えば、食べても安全ということです。基本的にアメリカの厚生労働省に当たるようなところでも安全性が認められています。認可されていますので、例えば遺伝子組換えの宿主に使う際にも使いやすいということもあります」

慣れた手つきで実験を解説する佐野先生――学生さんには研究室をどのようにアピールをしていますか?

 「基本的に遺伝子組換えをやっている研究室は少ないので、興味のある人は是非。私立のKITは国立の大学、研究所に比べフレキシブルに動けると思います」

 古くから日本人の生活に深く関わってきた麹菌の用途が最先端のバイオテクノロジーでどのように変化していくのか、佐野先生の研究の進化はとても興味深い。

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