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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

SDGsの推進を!

カテゴリ:経営情報学科
2019.05.07
 

経営情報学科 平本 督太郎 准教授 KITのホームページを見るとカラフルなデザインで、SDGs(エスディージーズ,Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)に記事がいろいろ載っている。国連に加盟する193カ国が合意した17の目標、169 のターゲットのことだ。KITは全学をあげて、このSDGsに貢献しようとしている。平本先生はSDGs推進センター長として、その先頭に立っている。

――先生はもともと何を勉強されたのですか?

 「慶應義塾大学の環境情報学科で建築や都市計画等の空間デザインを専攻しました。修士からは政策メディア研究科に移り、その後野村総研在籍中に、メディアデザイン研究科にて博士課程を修了しました。

 いまはビジネスを専門にしていますが、学部・修士ではずっとデザイン畑でやっていたのです。デザインの中では本当に設計することが得意な人もいますが、建築も都市も持続させなくてはならないので、マネジメントの方、いかにお金を回していくのかを考える分野もあるのです。私はどちらかと言うと、このマネジメントを得意としておりまして、非常に企業経営とも近いのです。

 でも、大学院の中に1級建築士を取れるプログラムがあり、私も一応修了していますので、1級建築士を受ける資格はあります(笑)。」

――卒業して野村総研に入られたのは、何か理由が?

 「大学で外資のコンサルタントの方の講義を聞いて興味を持ったのと、父親が三菱総研にいたので研究員の方々との接点が多く興味を持ち始めました。そこへ、たまたま野村総研のインターンシップがあり、応募して参加させてもらったのです。

 野村総研のコンサルタントには、私が当時考えていたことと同じことを考えて、すでにビジネス化されている方がいらっしゃいました。

 どういうことかと言うと、まず社会システム自体を変え、新たなルールを作ることで、結果として民間企業も課題解決に関わりやすくなり、お金も回るような仕組みを公共と民間で協力して作らなければならないという考えです。

 野村総研は実際にいろいろな実績がありましたので、それならば、私は修士で公共関係はやってきたので、公共ではなく民間の経営コンサルタントとして雇ってください、とお願いして入れていただきました」

――ご経歴を見ると、野村総研でのお仕事の1つにBoPビジネスと書いてありますが、これは何ですか? 初めて聞きました。

 「 Base of the Pyramid の略です。世界の所得の総額による階層をピラミッドで表すと三層に分けられます。一番上が富裕層、その下は中間層ですね。一番下の最も所得が低い層をBoP層と呼ぶのです。

 このBoP層というのは今まで援助とか寄付の対象ではあったのですが、ビジネスの世界とは全く接点がありませんでした。しかし、1990年代の終わりに米国の研究者たちがビジネスの手法を使って、このBoP層の人たちが抱える課題を解決しようとする試みを始めたのです。

 その一人の先生と野村総研がたまたま共同で研究することになり、私もBoPビジネスという言葉を初めて聞き、これは絶対に取り組まなくなくてはと確信し、行動しはじめました。そのうちリーマンショックが起き、日本企業がそれまで無関心だった新興国にぐぐっと目を向け始めたのです。そして新興国を向いた時、誰をターゲットにしていくのかという際にBoPビジネスというのが1つの核になりました。

 経済産業省、外務省などと連携して取り組もうとしている企業の後押しをしようということで、そういった推進策を作りながら実際に企業さんと一緒に途上国へ行ってビジネスを立ち上げるようなことをやってきました」

SDGsポスターと平本先生――BoPビジネスの具体的な例をあげてください。

 「分かりやすい話ですと、パナソニックが作ったソーラー・ランタンをアフリカで普及させる取り組みなどにご一緒しました。昼間ソーラーパネルで電気を蓄え、夜に光るので電気が来ていない農村でも夜に明るい所で生活できるのです。ほかにはヤマハ発動機と一緒に農村に簡易浄水施設をつくる事業もご一緒しました。小型の浄水施設を設置することで、多くの人が飲料水にアクセスできるようになるのです。」

――そうした流れでSDGsにつながっていくのですか?

 「そうです。BoPビジネスよりももっと大きな視野で、途上国の環境や貧困などの問題だけではなく、日本のような先進国が抱える課題の双方を2030年までに解決していこうというのがSDGsなのです。2015 年9月の国連サミットで採択されました。KITは学部、学科を超えた体制で、このSDGsを支援しています。2017年12月には内閣府が実施したジャパンSDGsアワードでは日本一のSDGs教育推進大学として内閣官房長官省を受賞しています」

入社時に10年後に辞めます

――先生がKITにこられたのは2016年。どのようなご縁があったのですか?

 「野村総研時代に金沢のある企業の社長さんと親しくさせていただいていたのです。そのご縁です。元々、野村総研に入った時も私は10年で辞めて教員になりますよ、と会社には言ってありましたので」

――野村総研も太っ腹ですね。よくそんな若者を採用しました(笑)。

 「実践型のアカデミック志望とでも言いますか。一度、社会へ出るけれども、また大学に戻って若い人たちと一緒に新しい価値を創る、それが当時接していたデザインを教える先生方が持つ当たり前の価値観だったのです。それで、野村総研に在籍しながら博士論文を書いているときに、今後大学教員になる予定だという話をその社長さんに話したら、それならピッタリの大学があるとKIT をご紹介いただいたのです。

 学会等でも他の大学の先生方と話す機会は多いのですが、懇親会等で本音を話し合うと、自分の好奇心を満たすために研究をしているので、できれば教育はやりたくないと話をされる方が予想以上に多いです。

 これが象牙の塔というものかと不満を持っていたのですが、KIT で話を聞いたところ、うちは教育が最優先であって、充実した教育をするために研究を頑張っていると言われたので、そんな大学があるのかと驚きました。それで家族を説得して、こちらへ来た次第です」

平本先生は「実践型アカデミック志望」 平本先生の話は筆者の苦手な経営、ビジネスがらみだが、どれも新鮮で面白かった。若くて教育に熱心な先生はKITにも新しい風を吹かせそうだ。

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