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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

驚異の技術、レーザー計測の普及を目指す

カテゴリ:環境土木工学科
2010.09.01
 

環境土木工学科 鹿田 正昭 教授 鹿田先生はKITの土木工学科の出身。最初は土質の研究をしていたが、70年代初めの米国の地球観測衛星「ランドサット」打ち上げなどをきっかけに関心はリモートセンシングへと向かう。コンピューター、情報処理を独学で学び、今は空間情報工学という身近ながら最先端を競いあうエキサイティングな学問の真っただ中にいる。

――空間情報工学は3Sといわれる技術が柱だそうですが。

 「3SとはGISとGPS、そしてRemote Sensingの3つです。GISはGeographic Information Systemの略で地理情報システム。GPSはGlobal Positioning Systemで全地球測位システムと訳し、衛星を使って地球上での現在位置を測定します。カーナビでお馴染みですね。リモートセンシング(以下リモセン)は遠隔探査です。

 この3つはどちらかというと独立した技術と見られていました。GISは注目されて出てきたけど電子地図に特化してました。リモセンは宇宙から地球を計測して何かするという。

 それぞれ特徴というかメリットがあるわけで、これらの良いとこ取りというかコラボレーション(協調)させて世の中にうまく使ってもらおうというのが空間情報工学といえます。

――具体的にはどのようなものですか?

 「例えばICタグを使って車いすを使っている弱者を誘導しようという試みです。ICタグは眼に見えないほど小さいチップ組みこんあるタグ(値札)で、読み取り装置の電波を受けて、自分の持っている情報を発信できるもの。建物の陰にいる時などGPSで位置情報が撮れない場合があります。そのような時、ICタグを使い、車いすに読み取り装置を付けてシームレスに位置情報を得ようというものです」

――応用は広いですが、基本にあるのは測量学とおっしゃているそうですね。

 「一年生の測量学の講義の初めに “グーグルアースの技術のメインは何か?” と聞くのです。電気、電子工学、宇宙工学、画像処理とかいろいろ答えがでてきます。でも、基本にあるのは土木工学というか測量がベースになっているというと皆びっくりするわけです。

 要するに衛星で撮った画像というのは単なる画像であって、そこに地図の要素や緯度、経度とか経路の探索とか最短距離などのいろいろな情報を入れる技術は測量がベースになっています。

 測量という実際に地上で直接測った地面のデータがあるから、宇宙から撮った画像と照合してシームレスにできるということです」

全学科対象の測量コンテスト参加をよびかける鹿田教授――しかも、その衛星からの情報は精度があがる一方です。

KITの図書館棟:左が写真、右が点群データ 「測量の精度も劇的に上がっています。今、一番の技術はレーザー計測といってレーザーを照射するのです。そうすると、1秒間に何十万発というパルスを出しながら回転してビューッと取っていくのです。これを点群データと言っていますが、1点1点、全部XYZのデータを持ってますから、それを画像表示すると、周囲の光景がきれいに再現できます」

――機械はどのくらいの大きさですか?

 「三脚に取り付けられるので人の背丈より少し高いくらいです。三脚を基点にして360度回転します。メーカーによって違いますが、真上から下から20~30度のところまで見られます。価格は1台1,400~3,000万円もします」

 鹿田先生から、その点群データを見せられて、驚いた。360度を精密に写し取ったパノラマ写真にしか見えない。建物や木々だけでなく立っている人物まではっきりと出ている。でも、これは写真ではない。あくまで測量の基点からレーザーが反射して返ってきた点までの距離と位置を示しているだけなのだ。

――何か測量以外にアートか何かで利用できそうですね。

 「実は話題になった3D映画 “アバター” ですでに使われているのですよ。人の形を計測してアバターに移し替えるとこなどにこのレーダー計測が使われている。

 それから、去年、日本のどこかのチャンネルのゴルフ中継で使われましたが、事前にレーザー計測でグリーンの凸凹を数mmのオーダーで全部計測しておきます。ゴルファーがパターを打つと同時にボールの速度、方向などを計測してホールに入るかどうか予測するということも行われました」

――実際の測量では何時ごろから使われるのですか?

 「実はまだ実験が始まったばかりで、日本では公共測量に使えません。公共測量作業規定という国土交通省が認めたものに入っていないのです。航空機で使うものはマニュアルがあるのですが、地上型はまだないのです。

 それで去年から地元のコンサルタントとKITの先生と一緒にマニュアル作りを始めました。日本には欧米から5種類のレーザー計測器が入ってきていて、日本製も1種で計6種ありますが、それが全部、北陸のコンサルタントにあることがわかり、つい最近、天池自然学苑に実験場をつくり、5台の機械を一斉に並べて同じモノを測ったのです。論理的にいえば同じ結果がでるはずですが、そういうことを日本でまだ1回も実証していないのです」

新型衛星の情報も利用

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月11日に日本初の準天頂衛星「みちびき」
http://www.jaxa.jp/countdown/f18/index_j.html
を打ち上げる予定にしている。この衛星はいつも日本の真上にいる軌道を通る測地衛星でGPSの精度が飛躍的にあがることが期待されている。鹿田教授は徳永先生、下川先生と共同でこの衛星を使った実験に応募し採択された。金沢を舞台に空間情報工学の新たな挑戦が始まる。

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