2017.12

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

防災科学はソフト重視へ

カテゴリ:環境土木工学科
2011.09.05
 

環境土木工学科 岸井 徳雄(きしい とくお)教授 2011年9月、台風の影響による集中豪雨の影響で紀伊半島を中心に広い地域で土砂崩れや洪水による大きな被害が出た。東日本大震災以来、地震や津波ばかりにわれわれの注意が集中しがちだが、台風や豪雨はますます巨大化になり被害は大きくなる傾向にある。岸井先生は国の防災科学技術研究所(防災研:http://www.bosai.go.jp/ )で長年、洪水を中心に自然災害防止の研究をしてこられた。

——先生は大学で土木の構造力学を学ばれてすぐ国の防災研に入られたそうですが、かなり珍しいケースなのでは?

 「そうですね。特に理由はないのですが公務員試験を受けたら防災研で人が足りないからということで。防災研は1963年創立で出来たばかりでした。その前の59年に伊勢湾台風という大きな被害を出した台風がありました。当時は堤防では農林省の規格があり、建設省の規格もあるということで省庁バラバラだったのです。それではとても災害を防げないということで科学技術庁(当時)が音頭をとって各省庁共通のものを作ろうということでした。

 ところがいざ出来てみると、省庁の権限争いがすごくて、わが役所の権限を別の組織に移すのはもってのほかと、最初は大変でした。いざ就職したら構造はやらないでいい、水害や洪水の専門家がいないのでぜひそちらをやってくれと頼まれたのです」

——今回の震災の被害の大部分は津波で、先生のご専門は洪水ですが、同じ水の災害という意味では共通していますよね。

 「水災害が専門なので大きな関心を持っています。でも最近はいわゆるハードというか、防波堤や堤防などで災害を防ぐというのは100%無理だということがだんだん分かってきました。今回の震災で“想定外”という言葉が何度も登場しましたが、常に設計を超える外力というか、波の高さや洪水の量が必ず来るのですよ。ですから、100%安全な堤防を造るとなると無限に高いようなものを造ることになり、とても財政的に持たないのです。

 やはりソフト的な情報をいかに早く住民に知らせるとか、いかに避難を早くするなどが重要なのです。日頃住んでいる土地をいかに安全にするかなど、そういうソフトと兼ね合わせないと、堤防なら堤防で造れば良いという時代はもう過ぎているのです」

——何時頃から、そのような考えが出てきたのですか?

 「20~30年前からでしょうか。だんだんソフト重視の傾向が強くなってきたのです。構造物でもって自然と対峙するのは限りがあるといいますか、防ぎきれないということです。ただ、一般の住民というのは堤防なら高ければ高いほど、安心といいますか、もう大丈夫だろうと思ってしまうのです。今まで堤防の近くには住まなかったのですが、やはり安心だと思って家を建てたりしてしまいます。

 堤防といっても土でできていますし、100%安全ではないのですから、時たま崩れることだってあるのです」

「ハードで対応するのは限りがある」と岸井教授——先生は堤防をより頑丈にする研究をしているのではないのですか?

 「私はどちらかというと、大雨が降った時にどれだけの量の水が下流に出てくるかということを、モデルを使って予測しているのです」

——というと、上流で急に大雨が降って下流のキャンパーが流される事故などの対策も含まれるのですか?

 「そうですね。あのようなことをちゃんと予測することと、もう一つ予測した結果をいかにキャンパーなど関係者に早く伝えるかというのも大事です。予測しただけで、それがみんなに伝わらなければ何にもならないのです。昔はラジオやテレビしか手段がありませんでしたが、今は携帯でも受信できるような仕組みがどんどん広がっていますから。

 例えば金沢市でも携帯にそのような洪水の情報を送るシステムはあって、加入料は無料ですがあまり使われていないのが現状です」

——2、3年前ですか、浅野川でも洪水がありました。

 「最近どうもあのような狭い地域にドカッと降るゲリラ豪雨が全国的に増えているようです。地球温暖化と関連があるのではと言われています。台風というのは規模が大きいから案外1週間前とか3日前などでどのような雨が降るか予測可能なのです。ところがゲリラ豪雨というのはいつ、どこで降るのかという予測が難しいのです。小粒なのでどこに出没するか判りにくい。

 気象庁がアメダスを全国に展開していますが、それでも全国に二千何百カ所しかなくて、平均17kmに一台くらいの雨量計があるのです。そうするとゲリラ豪雨はたかだか数kmの大きさですから、全然センサーにかからないこともあるのです」

——でもアメダスほど細かくやっているのは世界でも珍しいのでは?

 「日本が一番細かいでしょうね。アメリカなどでは広すぎるのでレーダーを利用してカバーしています。ただ日本でもレーダー調査が進んでいます。金沢でも手取川近くで国交省がゲリラ豪雨を観測しようというレーダーを備え試験をしています」

——先生の大雨と洪水の予測はどのような手法でやるのですか?

 「一つはシミュレーションです。雨量、流域の地形、勾配、地表面の状態、地質や土壌です。地質によって雨が染み込みやすい所とそうでないのがありますから。それから土地利用と言いまして、森林なのか住宅地なのか農地なのかでも違います。そうして情報を入力する必要があります」

都市は危険なところ

——そのような手法で分析されて、先生が危ないなあと感じられるのはどのような場所ですか?

 「やはり都市ですね。日本は一応、都市化が一段落していますが、中国がすごく都市化が進んで、それに引きずられて東南アジアも。都市化するというのはどうしてもリスクが集中するのです。人が増えるし財産は貯まる。いったん事があると被害は大きくなります。人はみな経済合理性でお金が儲かるからといって都市に出て行くのですが、都市というのは非常に危ないところなのです。

 日本全体で10分の1の平地に人工の5割が住んでいて、資産の75%が集中しているのです。日本は大変リスクの高い国なのです。そして都市に住んでしまうと高いビルなので周りの様子が分からない。昔は見渡しが良いから、あの高い丘に家を建てれば安全、あそこは低いから注意と自分で判断できたのですが、今はそれが出来ないのです」

全国の河川の水害を調査する岸井教授 何十年も防災科学を研究してきた先生の“都市化の危険性”の指摘は説得力があった。誰かが守ってくれるだろうではなく、いつも自分の身は自分で守るという心構えが必要だ。

< 前のページ
次のページ >