今回のKIT虎ノ門サロンでは「なぜ、いまイノベーション人材と新しい働き方が注目されるのか」と題し、立命館大学大学院 先端総合学術研究科 特別招聘准教授の西田亮介氏にご講演いただきました。
冒頭、自身が研究されている社会環境や公共政策を絡めた話の中で、イノベーションが起こる環境とはどのようなものか、1980年代前半から現代までの社会環境の変化と、その時代時代の新しい働き方について、代表的な事例を交えお話しいただきました。
80年代前半には「キャプテンシステムとテレワーク」が流行り、80年代後半から90年代前半には「SOHO(Small Office /Home Office)」が脚光を浴びました。90年代後半からは「フリーター(フリー・アルバイター)」という言葉も出始め、今ではフリーターと聞くとあまり良い印象は受けないかもしれませんが、当時は、逆にポジティブな意味でとらえられ、各雑誌などでも、その働き方に注目が集まっていたという話があり、時代とともに我々の働く環境やスタイルが変化していく状況を知ることができました。
さらに、2000年代に入るとインターネットや携帯電話などの普及により「スマートモブズ(賢い群衆)」という言葉が出てきました。これは、現在我々のライフスタイルを見れば一目瞭然ですが、個々が情報端末を持ち、いつどこでもすぐに情報を入手し・共有できる集団を意味します。このような社会環境の変化というのは、実際問題いつどのようにして起こったのか?西田氏の話では「このような流れは産業界と経済界の要請に起因した政策誘導により、社会環境の変化が繰り返し発生してきた」とのことでした。
さて、グローバル社会が叫ばれる昨今、若い世代はますます安定志向に走り、公務員の人気はうなぎのぼりの状況です。このような流れの中で、今後日本はどのような社会を目指すべきなのか?という問いに対し「もともと日本は環境の変化を幾度となく繰り返し、今も変化を行うための準備をしている最中である。しかし、戦後の復興から内需拡大に伴い、その考え方も薄れてきている。本来であれば既に行動に移し、新たな日本社会を考え築いていくべき時ではあるが、普通に暮らすことが出来ているため、具体的な行動に移れないのではないか」と西田氏は分析されていました。
続けて「お隣の韓国では、内需だけでは国民を養っていくことが出来ないため、海外へ出て稼ぐというマインドセットが出来ている。スタート時点から異なる状況下にあるわけで、それらを無理やり日本の状況と比べるのは難しいと思う。しかし、日本はいったいどのような社会を目指すべきなのかを明確にし、新たなステージへの移行について具体的な指針を示さなければならない」という話もありました。
また、西田氏からはそのような中で日本社会が考えるべきことは「経済的な面だけでない豊かな社会像」の探求こそが必要であると言います。「技術的要素と非技術的要素を統合した政策デザインを担える人材が必要であり、それこそが日本に新たなイノベーションを起こす起爆剤となる」と熱いメッセージをいただきました。
最後に、質疑応答の中で出た話で面白かったのが、ソーシャルメディアの利用規約について。日本ではFacebookやTwitterなどを会社内では使用しないように、すなわち秘密保持第一というところが多いようですが、欧米では逆に、新しいものは積極的に学び、それらを社会へ還元することが重要であるという考えだそうです。こんな些細なことからも学ぶべき点はありそうです。
一方、日本の近代史から学ぶことも多く「もっと日本の優位性を理解し、これからのグローバル社会の中で戦っていくプランを一つではなく、プランBとその具体策も用意しておく必要がある」との言葉がありました。
皆さんご承知の通り、日々の暮らしぶりを振り返ってみると、日本の生活環境はまだまだ安定しているように見えます。だからこそ、様々なメディアで報道される危機的状況も一日経つとすぐに忘れてしまうのかもしれません。しかし、日本国債の格付けが低下し人口も減少する中、間違いなく内需拡大の期待は難しく、我々の目の前には避けては通れない厳しい現実があるのだということを、今回のサロンを通じて改めて実感させられたような気がします。
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