2011年、いよいよデジタルTV放送への完全移行が行われる年を迎えましたが、昨今、映画業界においてもデジタルシネマ化が急速に進んでおり、広告業界でもデジタルサイネッジが公共交通機関や店舗内外など、私達の身近な生活環境に浸透しつつあります。
こうした社会的背景を踏まえ、K.I.T.虎ノ門大学院では欧州のデジタルシネマ、デジタルサイネッジの現状と新たな世界市場開拓戦略について、Arts Alliance創業者&CEOのトーマス・ホ-グ氏をお招きし、グローバルな視点からご講演頂くシンポジウム開催しました。
ホーグ氏はノルウエー出身の演出家でリレハンメル冬季五輪の閉会式や、2006年横浜みなとみらいにて世界最大の屋外マルチメディアパフォーマンス"タリエYokohama"の芸術監督・演出を手掛けるなど、世界各地でマルチメディアイベントを制作。シリコンバレーのITベンチャーキャピタリストとしても著名で、イギリスのArts Alliance Mediaを本拠に欧州最大のデジタルシネマサービスや世界規模のデジタルサイネッジプラットフォーム「YCD」などを経営されていらっしゃいます。
まず始めにホーグ氏から、映画産業の未来と、映画館の将来的なあり方についてお話頂きました。既存映画館にデジタルシネマシステムを導入することができれば、映画以外のコンテンツを放映する事が容易に可能となり、新たなビジネスチャンスを創出することができます。例えば、平日朝にはビジネスマン向けの教育コンテンツ、平日夕方にはティーンネージャー向けのファッションショー、週末夜にはサッカーや野球などのスポーツイベントを上映するなど、「細かな上映スケジュール管理と、ターゲットの選定を適切に行うことができれば、映画館の売上増加に寄与できる」と、ご説明いただきました。日本国内では大規模シネマコンプレックス「新宿バルト9」などで新たな試みがなされています。
技術的な観点で見ると、デジタルシネマシステムへの移行は簡単そうに見えますが、「映画制作会社、配給会社、興行会社(映画館)の利害関係のぶつかり合い、なかなか前に進まない」と、重要な問題についてもご指摘いただきました。
さらに、デジタルシネマ機材は大手シネコンや興行会社を対象に設計、販売されているため、小規模の劇場(ミニシアター)ではコスト的にも物理的にも導入が困難です。したがって、更にコンパクトかつ低価格な商品群の普及が急がれます。
一方、広告分野においても、マイクロソフト、インテル、シスコシステムズなど大手IT企業がデジタル・サイネッジ事業部を立ち上げましたが、コンテンツの配給基準、フォーマットの統一が図れていない等々、解決しなければならない問題がまだ数多く存在します。
シンポジウム後半にはパネルディスカッションも開かれ、ホ-グ氏を交えながら、ブロードメディア株式会社の代表取締役社長 橋本太郎氏、株式会社東急レクリエーションの取締役社長 佐藤仁氏、シンガポールより国立南洋工科大学のアン・ペンワ教授の3名にご出席頂き、世界市場に於けるデジタル・プラットフォームの実情や今後の動向について、北谷賢司教授をモデレータとして自由闊達なディスカッションが行われました。
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