【授業レポート】知的財産管理・戦略特論1(丸島 儀一)

本授業「知的財産管理・戦略特論1」の到達目標は「知財経営における事業競争力強化の知財活動を理解し実践に役立つ知財活動ができる人財になること」で、1)研究開発段階から事業実施段階に亘る知財戦略について講義するとともに2)事業部門、研究開発部門、知財部門が果たす役割について講義します。

ご担当いただくのは知財戦略における第一人者、丸島儀一教授です。

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今日の授業が始まってまず先生がおっしゃったのが「皆さんのレポートは良く書けている。読んでいて楽しい」という一言。本授業は毎回2コマの講義内容についての「まとめ」、感想、質問、意見、要望等を記載した簡単なレポートを次回までにEメールで提出することが義務付けられている大変な授業ですが、皆さん熱心にレポートを書いておられます。

本日1コマ目の5限の授業は、そのレポートに記入された多くの質問に先生が答える形で進められました。先生の回答は、全て現場での豊富な経験に基づく実践的なものばかり。今日のレポートはその中から、印象に残ったものをいくつか箇条書きでご紹介します。

●交渉と契約の連動は重要。交渉は知財部門、契約は法務部門と分かれていると情報の連携が途絶えることがあり注意が必要。せっかく交渉で勝っても、法務部門が法的なYes/Noチェックしかせず、会社が得するか損するかという目で見ることができない場合は特に苦労する。長い目で商品のトレンドを踏まえることは、知財の交渉では重要だが、契約の場面でも重要。そうでないと交渉と連動し、技術の定義、製品の定義、特許の定義―これらの定義は最も重要―をしっかり踏まえた契約書は書けない。私も交渉の場にも契約担当者には同席してもらってきた。

●(先生の過去の交渉経験で上手くいったと思った最初の経験は?という質問に対し)最初アメリカにいってプレゼンで圧倒された。しかし、ディスカッションしたところアメリカ人の弁護士でもできる人とできない人がいた。アメリカ人でも交渉できる人とできない人がいたことで、アメリカ人劣等感が解消された。プレゼンではなく内容で勝てればよいと感じた。相手がプレゼンだけなら、勝つのは簡単。

●交渉前に考えるのは、「どうやって持って行こうか」「どこまでなら受容できるか」というシナリオだけ。交渉のやり方は実際に相手を見ながら考える。自分の考え方を先に言うのではなく、最初は黙って相手が何を考えているかを見る。その後に、考えを言うことで、交渉の重要ポイントである「一貫性」を保つことができる。

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●(技術について内容を徹底的に理解するまで知るべきか?という質問に対し)知財の視点からだけ分かればいい。技術について全てを知る必要があれば、それは膨大な時間が必要で定年を迎えてしまう。適切なところから情報を集め、迅速に動くという役割分担が大事。

●(プリンタのインクカートリッジの規格など、メーカーはもっと協調すればいい場面があるのでは?いう質問に対して)そうするとより良い商品を研究開発しようという意欲が無くなる。協調だけでなく競争もないと技術は進歩しない。ユーザーにとってより利便性の高い商品を作ろうという競争。

●(自身の後継者の育成について)私は上から後継者を育てろと言われた時に、すぐに決めるのは不公平だと思った。大器晩成型の人もいるので、ある期間は全員に平等にチャンスを与えて見守った。しかし、私は失敗した(笑)。立場を与えても動かなかった。知財本部の人間は誰を使ってもいいと言ったのに、人に頼んでやってもらう能力が無かった。これができることが長になる資質。固定した部下しか使えない人はダメ。

●機密保持契約で大事なのは2条項。1つは当たり前だが開示した情報は第3者に開示、漏えいしてはならない。もう1つ重要なのは目的以外に情報を使用してはならないということ。技術情報開示を受ける際に、プラスの効果はみんな理解できる。しかし、マイナスの効果を考えなくてはいけない。見てしまった情報、頭の中に入ってしまった情報は、他の目的に使えなくなってしまう。この制約から受ける影響の大きさを考え、最小化することを考えなくてはいけない。他のメーカーがこぞってある情報開示を受けた際に、私の会社だけ断ったことがある。事業を強くするのに技術力は重要だが、それだけでは一時のこと。技術の持続的優位性を保つのには知財力が必要。皆さんがいま勉強していることです(笑)。

...以上、まとめやすいものを抜粋してまとめましたがいかがでしょうか。実際の授業ではもっと多くの論点について具体的で内容の濃い、それでいて分かりやすい説明が次々となされました。丸島先生独特のユーモアも随所にあり、大変楽しい授業ででもあります。

今日は自身の仕事で長年悩んできた論点について、丸島先生ならどうする...という意見を聞くことができた生徒さんも。「早く会社に戻って過去の契約書をチェックしたい!」とおっしゃっていました(笑)。

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