太田先生は、当時学生運動の盛んだった京都大学から防衛大学校に入って研究を続けられるというユニークな道を歩んで来られた。マサチューセッツ工科大学留学の際、タイタニック号探索で世界的にも有名な米国ウッズホール海洋研究所で研究されたこともある。研究歴の一端をうかがった。
――先生は京都大学の理学部を卒業されて、すぐに防衛大学校数学物理学教室の助手(教員)になられています。京都大学は学生運動の本場。珍しいケースですね。
「在学時、京都大学の学生運動のピークはもう過ぎていましたが、入学式や卒業式では途中から赤ヘルの活動家が入ってきて妨害したりすることはありました。とは言っても流血騒ぎにはなりませんでしたが、オーケストラ構成の学生が脱兎のごとく会場から逃げ出していったのは今でも覚えています。もちろん大事な楽器のためです。
理学部在学中は素粒子の研究も夢見ていたのですが、古典力学や流体力学など勉強するうちに美しく完成された数式に惹かれ、また防衛大学校教員採用のための公務員試験に合格したこともあり、そのようなことが研究できるかと防衛大学校の教員として入庁しました。」
――防衛大学校の助手というのは学生に何か教えるのですか?
「その学科の物理実験の指導などを行います。このとき応用物理学科と数学・物理学科の二つの学科から募集があったのですが、数学・物理学科の教授が大学の先輩だったこともあり、そこに入ることになりました。その教授の元では私が8人目の採用と知らされ、理由の詳細は定かではありませんが、前任者達は皆どこか別のところに転出していったようです。そこでの研究対象は放射線関係だったのですが、前述のように自分の興味のある分野ではなかったこともあり、結果的には私も1年で防衛技術研究所の方に移らせてもらいました。」
――そこではどのような研究を?
「ソーナー、水中音響の研究です。SONARとは"Sound navigation and ranging" の略で水中を伝わる音波を使って水中を探る装置です。海中では深度方向の圧力と水温変化により音速が大きく変化し、また海面反射や海底反射の影響で海中音場は複雑に変化するのですが、それを予測するためのシミュレーションの開発やその検証のための海上実験などを行い、論文に載せるほどの成果が得られたところで、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学することになりました。博士課程に受け入れてもらうためにはQualifyの試験をパスしなければならないのですが、当時は力学、数学、音響など5科目の筆記試験と3科目の口頭試験に加えて研究成果の発表などがあり、大学受験の時以上に勉強した記憶があります。口頭試問では黒板に書かれた問題を見て、その場で解答。当然ですがQ&Aは英語、最も緊張した場面でした。」
――でも、それに無事合格されたわけです。