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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

視覚情報でロボットを制御する

カテゴリ:ロボティクス学科
2010.10.02
 

ロボティクス学科 河合 宏之 准教授 河合先生は金沢大学電気情報工学科の出身。専門分野は制御工学だ。改めて「制御とは何か」と聞かれるとなかなか難しい。「ある目的に合うように、モノに必要な操作を加えること」などと答えるとかえってややこしくなってしまう。英語でいうと「control」(コントロール)となり分かりやすい。

−−なぜ制御工学をやろうと思ったのですか?

 「もともと僕は磁気浮上という、磁気でモノを浮かす研究をしたいと思っていたのですが、研究室の先生が代わってしまい。新しい先生は小さな二自由度のロボットを持ってこられて、それをやってみないかという話になったのです。二自由度というのは簡単に言えば自由に動く二つの関節を持っているということです」

−−なぜ磁気浮上に惹かれたのですか?

 「どうしてでしょうね? 僕らが高校生ぐらいの時はリニアモーターカーが結構、話題になっていた時期でして。モノを浮かせるというのはマジックみたいで不思議で面白いと思ってました。

 その頃、もう一つ超電導というのが流行っていて、抵抗の温度を絶対零度にしてやると、電流を流しても損失がなくて磁界だけ作れて磁気浮上に使え、リニアにも使えるということでした。それにも興味を持ち名古屋大学にその専門の先生がいるとのことで話を聞きに行ったのですが、原理的で基礎的な研究だとわかって諦めました。僕は超電導を使って何かを作りたかったのです」

−−磁気浮上とロボット制御というのは、かなり隔たりがありませんか?

 「確かにモノとしては違います。外から見るとおっしゃる通りなのですが、結局、中で使っている制御理論を突き詰めていくと、最後は数学になり同じ数式を使うことになるのです」

 河合先生は数式を見せてくれて詳しく説明してくれたのだが、このブログはできるだけ易しく書くことを目的としているのでここでは省略する。

 筆者なりに説明してみよう。制御工学の初歩ではよくシャワーの温度の調節の話がでてくる。シャワーを浴びてて熱いと思ったら手で冷水の蛇口を回し調節する。皮膚で感じた「熱い」という情報が脳にフィードバックされ、脳から「手に蛇口を回せ」という指令が送られて制御がうまく行く。

 これを自動で行うにはこの一連の動きをシミュレートした「モデル」を作る必要があり、これは結局、数学となり数式で表されることになる。こうしたモデルでは電気回路もモノの自然落下なども数式となり、さらにロボットの制御や磁気浮上とも繋がっていくのだという。

−−ロボットの動きも数式化できるのですか?

 「はい。学生も4年生になると、数式を見ただけでこれはロボットだと分かるようになるのです。もちろん1年の時はピンとこなくて何を言ってるんだという話になるのですが」

−−ロボット制御では特にどのような分野を研究しておられるのですか?

 「カメラなど視覚情報を使った制御をメーンにやってます。ロボットの手先にカメラを付けておいて、近くにモノがあって、それを見たい時にはロボットがカメラの情報を使って自分でどう動いたら良いかを考えて、そこのカメラを持って行くというようなことです。

 学生を指導する河合先生 研究室でやる実験としてはとりあえず、自由度は2つなのですが、理論的には3つでも6つでも可能です。

 かなり難しい話ですが、自分が思うように動かそうとすると、こうした理論を理解しておかないとできないのです」

 河合先生のこの研究の英語の論文は2008年に米国の電気電子学会(IEEE)から優秀論文賞を得て、国際的に評価された。

手術ロボットに応用も

−−その研究は人間の神経系をシミュレートしようということですか?

 「いいえ、そういうことではなくて単純に制御してロボットを動かそうという話です。人間はもちろん視覚情報を受けて脳の中にモデルがあって、それを予想しながらいろいろ動いていくことをしています。最近の制御の研究では人間の脳が絡んでくるものも行われています。私も将来はそういう方に進みたいと思っていますが、まだ、そこまで踏み込めていません」

−−応用はどのような分野が考えられますか?

 「最近では、手術用の腹腔鏡把持(はじ)ロボットを学生と一緒に作りました。もちろんまだ手術に使えるものではないのですが。患者さんの体を大きく切らないで小さな穴をあけるだけで手術ができる腹腔鏡手術です。

 その時、組織を押さえる鉗子(かんし)という器具を使うのですが、この鉗子の先にマークを付けておいて、手術部位を変えた時に鉗子を動かすと鉗子の挟むところを追従するようにカメラが動きます。こうすればここが常に視野の真ん中にきて手術がしやすくなるわけです。

 この制御の部分をわれわれが担当しています。金沢医科大学のお医者さんにアドバイスをもらいながら、もうちょっとちゃんとしたものを作ろうと、今、動いているところです」

 若さが売り物の河合研究室 ロボットがより生き物に近づくのにはどうしたら良いか? 生き物は周囲の光、音、匂いなどのさまざまな情報を利用している。中でも、光=視覚の重要性は大きい。そこで、河合先生は視覚をもち自分で行動できる知的ロボットを目指すわけだ。先生はロボティクス学科の中で一番若いという。これからの活躍が期待できそうだ。

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