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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

研磨の"奥義"を極めたい

カテゴリ:機械工学科
2018.05.03
 

機械工学科 畝田 道雄 教授 畝田先生はもともと研究者になるつもりはなかった。修士課程を修了したら就職し、技術者としての道を歩むつもりだったという。それが恩師の勧めで博士課程にまで進み、防衛庁に勤務した後で再びKITに戻って来られて2013年から教授に。今までの研究の一端をうかがった。

――先生は昔から機械いじりなどがお好きだったのですか?

 「いや、特にそのような理由がなくて。僕の記憶が間違ってなければ、当時のKITの募集パンフレットの一番上が機械工学科だったので、それで選んで(笑)。でも、ずっと、この道を歩んできたということは性に合っていたということでしょう。

 最初はドクターまで行こうという気はなくて、学部にいるうちに修士までは行こうかなと考えるようになりました。

 そのような中で修士2年になった頃、指導教授で学長だった石川憲一先生(現 名誉学長)から"ドクターに残ったらどうか"と言われました」

――よっぽど石川先生に見込まれたのですね。

 最後に決めたのはよく覚えているのですが、ドクターとして学生の立場でもありながら、任期付助手で残らせていただけることになりました。そうなれば自分で稼ぎながら研究できますから。

 見込まれたのか、使い勝手が良かったのか、それは分かりませんけれども、でもありがたかったです」

――博士課程の時はどのような研究をしたのですか?

 「"回転薄刃による硬脆材料の振動スライシング加工"。要するに硬くてもろい材料を精密に切断する研究です。薄い砥石(といし)を使って研削をしながら切断します。このテーマを恥ずかしながら学部4年の時に石川先生からいただいて6年間一貫してやってきたのです」

――振動スライシングというのはどのようなものですか?

 「刃を振動させることで、もっと能率良く精度良く硬い材料を切断しようとする加工法です。加工する材料はセラミックスとかガラスがメインでした。例えばセラミック材は耐熱材料ですから、耐熱性が要求される機械構造部材などに使ってもらえれば良いなという研究です」

「研究者になるつもりはなかった」と畝田先生――博士課程終了後に防衛庁技術研究本部に入庁されますが、この研究を伸ばしていこうという考えもあったのですか?

 「いや、全くないです。仕事と専門性とは関係ないと思っていたので。僕が防衛庁でやっていたのはレーダーの信号処理の研究をしていました。機械工学でもありません。

 防衛庁技官という立場で、普段の職務ももちろんありますが、格好良く言えば、将来の日本の防衛のために今後の防衛技術はいかにあるべきかを考えるのが技術研究本部なのです」

――と言うと、レーダーの勉強はゼロからご自分でやり直したのですか?

 

 「はい。というか、配属が決まった時に、研究室長から"これを読んでおくように"と本を2冊渡されて、これで勉強してという感じで。KITで言うと電子情報通信あたりの分野です。室長から"大丈夫?"と聞かれましたけど、まぁ、何とかなるかなと思っていました。何とかなるかな、の結果としても、機械工学からレーダーへと専門分野は変わりましたが、幾つかの学術論文として、成果を発表することもできましたし、多くの出張の機会も恵まれました。それで、研究活動を含めて防衛庁技官としての職務に従事していたのですが、縁あってKITに戻ることになりました」

――石川先生ですか?

 「その通りです。出張先だった伊豆七島の新島にいたとき、私のケータイへ電話がかかってきました。履歴書を送ってくるように、と。さすがに出張、しかも1ヶ月の出張が始まったばかりの時期でしたから、直ぐには対応できませんでしたが。それでKITへ戻ることになり、2002年に戻ってきて1年間、「プロジェクト教育センター(当時は工学設計教育センター)」にお世話になりました。機械工学科に私の研究室が出来たのは03年からです」

研磨AIの構築を目指す

――その後はどのような研究を?

 「最初は機械の異常音を探知する信号処理に関わる研究や博士課程のときに行っていた振動スライシングの研究、研磨に関わるシミュレーションの研究などをしていました。レーダーと音では電(磁)波と音波の違いはありますが、波動方程式の考え方にそれほど差は無いと思いましたので、音の研究を始めてみました。

 今のメインはモノを磨く、粗研磨から超精密な研磨ですね。研磨という技術は広く使われています。スマホのボディの金属をピカピカにしたり、ハードディスクを精密な平面に仕上げることなどです。そこで現在は学会に「研磨の基礎科学とイノベーション化専門委員会」を立ち上げたりしています。

 現在、力を入れている研究の一つにダブプリズムによる接触画像解析があります」

――それは難しそうですね。簡単に説明していただけますか?

 「ダブプリズムというのは台型の形をしたプリズムです。このプリズムと研磨パッドの接触状態を測定すると研磨パッドの状態がわかるのです。

 研磨は不思議な現象です。要するにザラザラしたモノを使って、何でナノオーダーのツルツルした加工ができるのだろうということです。今、あなたが着ているジャケットの布、それを研磨パッドとして使ってうまくやれば超精密な加工ができるのです。でも下手にやればとんでもないことになる」

――その他にはどのような研究を?

 「LEDの基板には人造サファィアが使われています。この人造サファィアの研磨が結構難しいのです。研磨パッドの処理の仕方が違うだけで、様々な結果になってしまいます。

 今、学生たちと挑戦しているのは、AI(人工知能)です。研磨パッドの評価技術が可能になれば、反対に、こんな要求がある、そうすれば研磨パッドを含めた研磨条件はどうあるべきか分かるのです。そして、そのような研磨パッドはどう作り込めばいいのか示してくれるAIを学生と一緒に構築しているところです。研磨の基礎科学に留まることなく、先ほどのAIをはじめとして、学生と一緒にいろいろなアシスト応用研磨にも挑戦しています」

 学生を指導する畝田先生 鏡やレンズからスマホのケースまで、研磨はなくてはならない技術だ。この研磨技術の世界が奥深く、しかも広いということを畝田先生に初めて教えていただいた。これからますます注目されそうだ。

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