2017.12

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

形状記憶合金研究で日本は世界トップレベル

カテゴリ:機械工学科
2014.02.19
 

機械工学科 岸 陽一 教授 岸先生はもともと教育学の「技術教育」で修士課程を終えられた変わりダネ。しかし、ご自身の研究を追求するうちに、今では形状記憶合金の専門家に。研究の関心がどのように変わってこられたのかをうかがった。

----岸先生は新潟のご出身でKITの機械工学科を出て、金沢大学教育学部の大学院で技術教育を専攻されています。不勉強ですみません。「技術教育」という専門分野は初めて聞きました。

 「要するに中学校の技術の先生になるための修士課程です。もちろん学部卒でもなれるのですが、教員の免許には一種と専修とあり、大学院を出ないと専修免許は取れないのです。真面目に勉強しようと思っていたのです。本当に真面目だったのです(笑)」

----修士の後、今度は金沢大学の自然科学研究科の博士課程に進まれます。

 「技術教育といっても結局、本当に教育学として専門に勉強する人がいます。それとは別に技術教育の中で、電気関係のこと、機械関係のこと、材料関係のこと、それぞれ専門家として勉強していかなければならないのです。

 私が指導を受けた先生はたまたま材料関係のことをやっていたので、そのまま材料をやろうと博士課程までいきました。博士課程での最終的なテーマはアルミニウム合金です。その中に超々ジュラルミンという航空機材料がありますが、その材料はいろいろ欠点があるので、最近話題のレアアースをちょっと添加してみましょうかと。そうした材料をメーカーの人に協力して作ってもらって、その特性を調べたりしていました」

----そこまで行くと、教育とは関係がなくなってしまうのですか?

 「そうですね。ドクターになると完全に研究だけになってしまいましたね。ただ、研究者になろうとは全然考えていなかった。

 就職をする際には先生も誰も斡旋してくれませんでしたが、埼玉にある私立の日本工業大学が材料試験研究センターの助手として採用してくれました。仕事は毎日、電子顕微鏡を操作したり、X線回析実験の装置をばらして組み立てたり、学生に使い方を教えたりしていました。

 あの大学は面白く工作機械に代表される産業用機械を実働できる状態で展示している立派な工業技術博物館もあります」

----その後、母校KITから声がかかり金沢に戻って来られて、今度は形状記憶合金の研究を始めますね。

 「それを始めた理由は清水謙一先生という大先生がいらっしゃったことが大きいです。清水先生は大阪大学からKITへ2000年に着任されたいろいろとすごい先生です。いわゆる形状記憶合金はどうやって形状を記憶するのかという、原理原則を突き止めた先生なのです。そういう先生と一緒に仕事ができるので形状記憶合金をやりましょうと」

----形状記憶の原理はどういうことなのですか?

 「形状記憶合金は基本的に熱を加えたり冷却したりすることで、結晶構造が変わるのです。結晶の構造、組み立て(原子の配列)が温度を境にしてある構造に変わり、それに伴って形状も付随的に変わるのです。ただし、基本的には加熱をした時にしか形は元に戻らない。

 原子の配列替えが起こるのは、日本刀に焼きを入れると硬くなるのと同じ原理なのです。原子の組み合わせを変えると、形が変わる現象が起きる」

「原理は刀の焼き入れと同じ」と岸教授----そうした現象はいつ発見されたのですか?

 「見つかったのは1950年代ではなかったかな。初めは確か金-カドミウム合金です。その時は良く分からないわけです。何か特別な現象だろうと。その次にチタン-ニッケルで、今主流となっている材料です。

 それを見つけたのはアメリカの海軍の研究所です。もともとは海軍の潜水艦とか戦艦の材料を探していたのです。チタンは耐腐食性が良いです。潜水艦だったら振動を伝えにくい材料が良いわけですね。そうやって研究していくと、チタン-ニッケル合金が良いだろうと行き着いたのです。ところが、この合金に熱を加えると形が元にもどることが判った。1960年代です」

----Yシャツの襟とかメガネのツルとか、いろいろな商品で宣伝されましたが、最近はあまり聞きませんね。

 「基本的に清水先生が、形状記憶合金というのはこういう原理原則を守れば必ずできますと言われたのが1968-69年です。その原理原則であらゆる原子を組み合わせて一番良いのは何かと探索が始まり、いろいろな材料が爆発的に増えて関連特許の件数は1万件を超えたのでは。

 でも最終的にはチタン-ニッケル合金が良いだろうと落ち着いたのです。扱いやすさや加工のしやすさ。あと、何回も動きを繰り返しているとボケでしまうのですが、このボケもおきにくい、耐久性もあるなどで、基本的にいま使われているのはチタン-ニッケル合金です」

2方向形状記憶も開発中

----先生は現在、どのような研究をしているのですか?

 「あまり知られていませんが 清水先生がいらっしゃることもあって形状記憶合金の研究では日本が研究者の数も多く、内容も世界のトップレベルなのです。

 差し支えがあって詳しいことはまだ言えないのですが、私はちょっと特殊な処理をすると2方向形状記憶、暖まった時と冷えた時の二つの形を覚えているものを開発しています。やり方自体は分かっているので、ちょっと応用を考えましょうと、ある会社に提案して、特許を取れるように頑張っているところです」

----先生は同時多発テロ(2001.9.11)の時に米国にいらしたそうですね?

 「首都ワシントンの近くにあるメリーランド大学にいました。近くのペンタゴンにも落ちましたし大学は騒然となりました。追悼集会などで1週間ぐらいは落ち着かなかったです。スーパーマーケットでは米国を讃える愛国CDとかをいっぱい売っているし、車には小さな国旗を付けたりして、元気を出そうと賢明でした。3.11のことも考えると日本人のほうが冷静に対処するような気がします。

 でも大学の研究環境は非常に良かったです。開放的で隣の研究室の学生と一緒にミーティングをしたりサンプルを交換したりを頻繁にやっていました」

形状記憶合金のデモをする岸教授 岸先生によると、材料関係は学生に人気がないという。学生の関心を引くために先生は形状記憶合金のデモンストレーションを行ったり、動画をみせるなどの工夫をしているという。昔、専攻した「技術教育」の知恵が活かせそうだ。

< 前のページ
次のページ >