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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

基盤技術が未来を作る

カテゴリ:電気電子工学科
2016.07.25
 

電気電子工学科 漆畑 広明 教授 漆畑先生は長年、三菱電機で燃料電池、リチウム電池の研究開発に従事されてきた。その経験から「基礎技術の蓄積こそが大事」と力説される。そして、「どんな開発も度重なる失敗の上に初めて実現する」とも。

----先生は静岡県の高校から東北大に進学されました。東京の大学なら分かりますが何故、東北大学なのですか?

 「静岡では意外と東北大は人気があったのです。理由は分かりませんが。高校のテニス部の先輩が東北大に進んでいたりして割と身近な存在でした。特別な理由はないのです」

----東北大では電気化学を専攻されます。

 「3年で専門科目が入って来て一番面白そうなのが電気化学でした。電気化学ってみんな嫌いなんですけど。

 化学屋さんにとって電気化学というのは、外から電気的なものが入って来て反応がどう動くとかというようなことをやるので少し違和感が出てくるのです。一方、電気屋さんからみると化学的な部分が入ってくるので、とっつきにくい所が出てくる。今、KITで電気系を教えていますが、学生は化学をやっていないので、4年生になって少し勉強してもらい、化学も教えながら進めているのです」

----現実のエレクトロニクスの分野では電気化学は電池をはじめとしてかなり重要な分野ではないですか。

 「そうですね。例えば腐食なども電気化学です。酸化還元反応で鉄イオンとかが溶けていくわけですから。あるいはガスを吸着して、その濃度を測るセンサーとか。電圧が変化するので、その電圧をモニターして吸着量を調べたりするのです」

----腐食というのは、今、橋や道路の劣化を防ぐメンテナンス工学の中でも重要な課題ですね。

 「はい。腐食は昔からそのような部分で重要なのですが、なかなか表に出て来ない。でも企業の中では腐食に携わる人たちは大勢いるのです。今日もちょっとある大手企業のインターンシップの募集を見ていたら"腐食、電気化学の分かる人"と出ていました。現実にはさまざまなモノづくりの中で大切な分野です。

 派手で脚光を浴びているのは燃料電池やリチウム電池などの分野ですが、ベースのところでは重要なのです」

----でも先生は東北大の博士課程で燃料電池を研究され、ダイレクトに三菱電機に入られた。随分、時代を先取りされていたのでは?

 「70年代の後半から80年代にかけて燃料電池が注目されてきていたのです。今、思い出すと当時、燃料電池は論文の上にしかなかったのです。ドクターに残るという話もありましたが、ちょっと企業に出てモノを作ってみたいと」

----三菱の中央研究所に入社されて、次に先端技術総合研究所のエネルギー変換技術部部長になられていますが。

 「研究所の名前が変わっただけですね。変わって統合していった過程です。中央研究所の時点では半導体研究所とか産業機器研究所とか、その中でも分かれていたのです。他社がそうした研究所を分社化していった時に、三菱は全部まとめて一つの先端技術総合研究所としたのです。シナジー(相乗)効果といって一人の人間がいろんな部門を横断的にやることによって、こっちの技術をあっちに展開したりとかできるわけです。一人の人が家電から宇宙までやっているわけです。一人というか皆というか、分担していますが。

 私も部門を統括していた時は、宇宙はあるし、鉄道はあるし、半導体デバイスもあるしといった具合でした。もう何でもかんでもやるわけですよ。その代わり、それぞれの部門の中で尖った人間がいるのです。そういった優秀な人材が複数の領域に関わっている。

 ちょうどバブルが崩壊した時に、他社は研究所をどんどん分社化していったのですが、三菱電機は逆の方向に行ったのです。私は当時、なぜ三菱だけ逆なのかと思いましたが今、考えると統合は良い判断だったと思います」

「イノベーションと騒ぎ過ぎ」と漆畑先生開発は失敗の上に築かれる

----先生は2013年からKITに来られました。学生にはどのようなことを重点的に伝えたいですか?

 「企業でやってきた経験をできるだけ伝えたいと思っています。研究のあり方とかものの考え方とか。

 モノづくりというのは性能だけでなく、コストと品質の3つが必要なのです。そして、それを支える技術は何ですかというと、ここの専門科目で、さらにさかのぼると、数学と物理。特に電気系の場合は制御とかいろいろな技術が入ってきます。しかも電気の技術はほとんどそれが、そのまま製品につながっていくのです。就職すると自分たちがやった授業の内容が製品設計に繫がる場合が多いのです。

 ですから、私がいつも学生に言っているのは"基礎が大切だよ"ということです。基礎技術の蓄積があってモノができると。それなしにはモノはできないと思います。

 長いこと会社の中でやってきて思います。研究所が一番大切にするのは基盤技術なのです。材料の基盤だったり電気だったり機械だったり、いろいろありますが基盤を強化しているのです。単に新しい製品だけを見ているだけでなく、基盤技術の上にそれが乗っているわけです。だから、ここを強化、基盤技術をすごく大切にします。結局、技術者というのは基礎学力がないとやっていけない」

----最近はなんとかの一つ覚えでイノベーション、イノベーションですが。

 「どこでもイノベーションと言い過ぎですよね。僕から言わせたら、単に改良を重ねただけのものがほとんど。

 イノベーションを支えるためには、僕は基盤技術、基盤。わざと基盤と言っているのは基礎と言うだけでなくて、モノづくりの基盤になるという意味で。もうちょっと三菱電機風に言えば共通基盤技術という考え方です。研究所は家電から宇宙まで支援しているわけです。ここに対して、全てに共通する基盤技術があるのです。例えば電気回路の設計とか。これは家電だって宇宙だって同じなのです。その技術を高度化することが企業全体の技術力を高めることになるわけです。それをずっと見て来たので、やはり基盤技術が未来を作っていくのだと思います。それさえやって行けば、どこへ行っても怖くない」

「技術者は基礎学力が必要」と強調される----イノベーションはiPodのようなヒット商品だけではないと。

 「iPodみたいのはアイデアだけで作れる、組み合わせの製品です。ところが、燃料電池は私が大学を出た80年代が世界中で研究が始まって、ようやく今になってできてきているのですから、製品が出るまでの30~40年間もかかっているのです。これまでのことを思うと涙がでてきますよ」
 
 イノベーションについては筆者も少し学んだことがある。これを技術革新と訳したのは官僚だが、この影響からか単なる発明、製品改良も技術革新とされイノベーションという言葉が矮小化されてしまったきらいがある。これについては漆畑先生とも同じ意見で筆者も意を強くした。

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