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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

BIM、建築を3次元で考え、伝えること

カテゴリ:建築デザイン学科
2010.09.17
 

 建築デザイン学科 下川 雄一 准教授 建築・都市の分野でもデジタル化が進んでいる。この分野、以前はコンピュータで図面を書くCAD(computer aided design)ぐらいしかなかったがデジタル化はより広く、深く浸透している。その最前線にある技術の一つがBIM(building information modeling)だ。下川先生は目下、このBIMの研究に取り組んでいる。

――もともとはCADの研究をしていたのですか?

 「はい、学部4年、修士、ドクターとCADの開発をしていました。まだ、CADが出始めの頃でしたが、このソフトはいわゆる汎用で何にでも使えますよということで機械系の人も使ってました。線を引くとか基本立体を作るという単純なことしかできなくて不便で、それをもっと建築設計者が使いやすくできないかということをやっていたのです。

 僕は建築設計は専門ではなく、そういうツールの活用法とか、新しいツールを開発したり、それによって新しい建築を実現させるプロセスに関心があるのです」

――建築CAD学のようなものはまだないのですか?

 「建築学会の中に情報システム技術委員会というのがありますが、人数的にはそれほどではありません。

 これも難しくて構造計算のためのツール開発ですと、構造系の人がそこに半分、足を突っ込んだり、デザインをやっている人がそこに半分,入ってみたりしています。逆に情報システム技術部門でどっぷりやっている人というのは構造なのか計画なのかはっきりしないという部分もあるのです」

――先生が現在、研究中のBIMはCADとはどう違うのですか?

 「今、建築業界の中でもほぼ100%、CADを使ってますが、ほとんど2次元CADなのです。昔の設計図をコンピューターに入れただけの話で、ある意味まだアナログ的な世界なのです。その情報が劣化しないとか再利用が楽だという点では便利ですが。

 本来、3次元の立体である建築を3次元記述しないまま、平面図、立面図、断面図といろいろな見方の図面を書いているわけですが、ひょっとしたら矛盾が生じている可能性がわるわけです。事実,現場ではそれによって非効率な部分が結構でてきているわけです」

――BIMはそれを立体化するわけですか?

 「ただ3次元にするだけではありません。部屋の名称や仕上げ、部材・材料の仕様、コスト等、建物を構成する各部の属性情報を入れておくのです。

 こうすることで設計から建築へと移っていく過程がものすごく効率化できるのです。そして、図面と3次元モデルが連動しているので、コンピュータの中で実際に建てる時の矛盾が全部、明らかになり修正してしまうことができるのです。
 
 ウィキペディアによると、BIMの定義は「そのライフサイクルにおいて建物データを生成および管理するための行程である」と書いてあり、難しくて良く判らない。平たく言えば、建物を建てるときだけでなく将来、建物のメンテナンスをする時にも部材や行程などのデータがデジタル化して残っていれば非常にやり易いということらしい。

――このBIMの始まりはやはり米国ですか?

 「はい。米国は情報化がすごいです。なぜ、米国がこういうことを始めたかというと、連邦調達庁が国全体の何千という施設を管理していて、それらを効率よく管理をしていかなくてはならないからです。情報共有の不足によって年間何兆円もの無駄が発生しているということがわかってきたのです。そのビル、一つ一つの施設計画、設計、生産、維持管理、あるいは建て替えを全部、情報化すれば、その巨大な無駄が省けるというわけです」

3次元設計がこれからの主流に

――お話を聞いていると、数年前やはり米国の国防総省が物品の調達効率化のために導入したCALSというシステムを思いだしましたが。

 「まさにCALSなのです。名前を読み替えているだけです。日本がCALSと言い始めたのは米国の10年後ぐらいでものすごく遅かったのです。今回はまだ2~3年遅れているくらいで、それほど遅れているわけではないのです。米国でもBIMはまだかなり注目されています。

 日本でも大手ゼネコンや組織設計事務所がここ2~3年ぐらいでワーッとBIMをやり始めています。むしろ、そういう状況に対して教育の方が遅れています。大学ではまだ一生懸命手書きで教えていてCADといっても2次元でやっているほうが多いのです。

 産業界からも3次元設計できる人が欲しいとよく言われるのです。われわれもそうした要求に応える人材を育てないといけないと思っています」

 BIMはこれからの主流と下川先生 下川先生はその他、アルゴリズミックデザインにも興味を持っている。このデザインはコンピュータプログラムを作りながら、いろいろな形を作り出していき,その過程で条件整理や最適化などを一緒にやってしまうという最新の方法だ。今までの建築よりもより有機的な複雑な形が効率的に生成可能となる。

――アルゴリズミックデザインは若い学生には人気がありそうですね。

 「雑誌などに結構載っているので、学生も言葉だけは知っているのです。やりたいという声はたまに聞きますが、ただプログラムやる自信ある? 何かしら形にしようとするなら3ヶ月はかかるんじゃないかなと言うとちょっと尻込みしてしまうという状況です。」

月見光路のデザインも手がける下川先生 下川先生は、鹿田先生に登場したレーザー計測で「西茶屋街」を計測して伝統建築の3次元アーカイブを作ったり、「月見光路」にも参加するなど多彩な研究活動を展開している。BIMやアルゴリズミックデザインなど建築・都市分野へのコンピュータ応用例を聞かせていただくと、その多彩な広がりに驚くばかりだ。この分野へ進む人はかなり応用範囲が広くなりそうだ。

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