小橋先生の専門は内燃機関や燃焼工学。しかし、今は電気自動車やハイブリッド・カーの全盛時代になろうとしている時である。筆者のような素人は今更エンジンの中での燃焼なんて研究する余地があるのか、もうやり尽くされているのではと思ってしまうが、小橋先生によれば、まだまだ研究すべきことは沢山あるのだという。
――エンジン関連の研究に進むきっかけは?
「実は自動車自体に興味があったのですが、特にエンジンに興味があったわけではありません。
同志社大学4年生で研究室を選ぶときに、先生とその研究室の雰囲気、それと一番厳しい研究室はどこかなどと考えて“多分、ここが僕に合うだろう”と、選んだところがたまたまエンジンを研究していたのです。
でも、それまでの勉強とは違って自分たちのやることが直接世の中の役に立つというのを痛感しました」
――勉強から研究で、目が開かされたわけですね。
「特に、私が入っていた研究チームの中には博士課程の方もいらっしゃいました。その方たちが海外の学会で発表する時には私たちの実験データも入っているのです。
これにも刺激を受けました。私はずっとスポーツをしてきました。小・中学は野球、高校はハンドボールといった具合に。でも、せいぜい県大会レベルなんです。全国区になることはまずなかった。ましてや世界レベルは夢のまた夢。
ところが、研究では一挙に世界なのです。4年生で何も知らない私が出した実験データが世界に出て行くと思わなかった。研究だと海外の学会まで行けるのかと思い、のめりこんだといっても良いでしょう」
――その当時の実験とはどんなものだったのですか?
「エンジンを模擬したような基本的な装置を使って、いろいろな燃料を試してみるのです。
例えばガソリンと軽油というのは全く性質が違う燃料なのです。ガソリンは揮発性が高いのに、火花点火なしに燃焼するのは難しく、軽油は自身の化学反応によって燃焼を始めることができるのに、揮発性が低いといった具合に。それぞれ、長所、短所があり、これを混ぜると、片方の短所を片方が補って理想的な燃料になるのではと実験していたのです。
こうして私はエンジンの中の起きている燃焼自体に興味を持ち始めたのです。もともと学部はエネルギー機械工学というところだったのですが、機械工学というよりサイエンスの世界が見えてきてどんどん面白くなってきました。燃焼というのは物理でもあり化学でもあり、流体力学的な混合や熱力学的な相変化もあれば化学反応もあるといった具合です」
“やんちゃな”研究を目指そう!
――しかし、内燃機関の長い歴史の中で、燃焼はほとんど調べ尽くされてはいないのですか?
「おっしゃる通りです。基本的なところはやはり調べられています。ですから、われわれが逆に新しいものを入れるべきではないかと思っています。
私の同志社時代の恩師・千田二郎教授が常に言っておられたのは私立大学の研究というのは新しい発想で新しいものを取り入れていくことだと。同志社もKITも私立ですし、同じだと思います。
ちょっと表現を変えると、やんちゃなところが私立の特徴というのが私のイメージにありまして、何か新しい考えを組み込んで今以上のところを目指したいです」
――具体的には今、どんな研究に取り組んでいますか?
「例えば電気系の先生と共同でプラズマをエンジンに応用できないか考えています。多くの方がやっているのはエンジンにプラズマの発生装置を付けて、ガソリンの火花点火の代わりにそこから着火源を作ろうというものですが、私の方はプラズマを使って燃料の改質ができないかと検討しているのです。
ただ、自分の力だけではやはり力不足のところもあるので、専門の先生に教えていただきながらできたらいいなと思っています」
――バイオ関連の燃料はどうなのですか?
「情報系や化学系の先生方とご一緒させていただきながら次世代のバイオ燃料も検討しています。最近注目されているのはジャトロファという植物です。トウモロコシなどの作物は食糧として使えるので燃料にするとまずいのですが、この植物は毒性があって人間は食べられない。
また、水分や栄養分が少ない場所でも良く育つのです。これにメチルエステル化という処理をすればディーゼル燃料になります。これでエンジンを回して性能評価をし、また排気ガスの一部を取り出して、有毒なものが出ていないかなどを化学系や他大学の先生方に調べてもらったりしています」
小橋先生はその他、高速撮影用のCCDカメラでエンジン内部の燃焼の様子など詳しく調べてより効率的なエンジンの開発も目指しているという。シュミレーション全盛の時代だがこうした地道な実験から思わぬ副産物がでてくるかわからない。31歳という若い小橋先生の「やんちゃな」研究から何が飛び出してくるか楽しみだ。