金沢市の中心市街地に「あかり」のオブジェを展示し、幻想的に演出するKITの「月見光路(こうろ)プロジェクト」が、日本産業デザイン振興会の2009年度グッドデザイン賞を受賞した。空洞化が進む市街地の活性化を目指し、学生たちが地元商店街と連携して2004年度から続けられてきた。このプロジェクトを指導してきたのが川崎准教授だ。
――学生たちのグッドデザイン賞受賞は快挙でした。
「この賞はどちらかというと工業デザインというイメージがありますよね。でも、まちづくりのような活動も視野に入れておられるという事だし、活動も6年目に入ったので応募しました。
その時、デザイナーを学生にしたのです。普通、デザイナーというと主導的な立場の個人名が出るのです。KITグループは建築科の学生が主。地元、教職員はどちらかというとディレクターという形で。デザイン対象は金沢の街というキャッチフレーズで行きましょうと。なかなか、そういう応募はないですから。」
――その狙いが見事、的中した。
「グッドデザイン賞と言う全国的にも有名な賞をいただいたということで、月見光路をずっと応援していただいた金沢市中心地区の人たちも喜んでくれました。地域と大学が協力して行ったことがデザイン的に評価されたということですから。それもOBを含めてです。学生もやはりこの活動に参加して非常に良かったと思うでしょう。
他市に就職した学生たちも、毎年は無理なのですが、月見光路の頃の9月には金沢に帰って来たいと良く言います。そういうことも含めて、今非常にうまく回っていると思います。金沢の街にもう一度戻ってきて楽しみたいという人を増やしているということです」
川崎准教授は2001年にKITに来る前は大阪大学工学部助手、京都大学大学院助手、米ハーバード大客員研究員などを務め、主に大学を活動の拠点としで設計、研究活動を行ってきた。
――先生は特にどんな分野の建築を手がけられたのですか?
「ずっと大学にいまして、福井県立大学の小浜キャンパスの基本設計とか、そのような建築設計プロジェクトにいわゆる大学のスタッフとしてずっと参加していました。また、同時に京都の地下鉄の駅舎のデザインとか、阪大の環境工学のときには兵庫県淡路島の浮き桟橋の設計とかもやりました。
私はどちらというと、環境工学で建築単体というよりも環境と建築の間の設計というような感じです」
――設計にコンピュータグラフィックス(CG)を使った草分けと聞いていますが。
「そうですね。ちょうど大学院のころにCGが急激に出てきましたので建築や都市景観の研究に使い出しました。今では当たり前ですが昔は最先端と言われました。
関西空港のコンペでレンゾ・ピアノが勝った時、まだ建築が出来る前にレンゾ・ピアノの事務所からデータをもらって、内部はこうなるというイメージを作り、雑誌に発表したりしたのです。
もちろん、コンピュータだけでなく実際に手で図面をかくという作業も積み重ねていました。また、今度は阪大の助手の時代にインターネットという技術がドーンと出てきたのでネットワークの共有化をワークステーション上で試みたりしました」
――ITの進化をずっとデザインと結び付けてこられたわけですね。
「昔、ワークステーションでやっていたものが、小さなPCで処理能力も2桁ぐらい違ってできます。以前は、1回ボタンを押したら絵を描くのに30時間もかかって、研究室の留学生と地球の裏側まで行けると話したりしたのですが、今では数分。逆に仕事が次から次へと休む暇がなくなりました。
そのような経緯もあって京大ではプレゼンテーションだけではなく、目の知覚というか見える現象の研究も始めました。例えば京都の山並みが霞んでいく様子をどのようにすれば数値化できるかなどコンピュータを使って研究し学位論文も書きました」
美をつくるオールラウンドプレーヤー
――研究と実際のデザインの両方に挑戦している?
「そうです。研究もやっているのですが、ペーパーだけでは何も伝わらないですし、実感も湧きませんし、次の技術への着眼点も出ません。それでできるだけ学生と街へ出て実際に美しいものを作っているわけです。
あと、私はコンピュータを使っていましたので図形的な研究、図学という視点も持っていて図学会の理事もやっています。さまざまな糸を紡ぐことでできる面、線織面とか月見光路のとき21世紀美術館でやって好評だった星型の面体など図学的発想をかなり取り入れているのです」
最後に「ちょっと自慢をしていいですか」と川崎先生が見せてくれたのは先生らが編著者となって若手教員グループが共同執筆した設計の教科書「テキスト建築計画」(学芸出版社)。2010年2月に出版されたばかりだ。パラパラとめくっただけだが、ライフスタイルが変化していく中で、これからの建築のあるべき姿を意識しながら学生たちに設計を教えていきたいという方向性が感じられた。
川崎先生はこれからの大学のあり方についても一家言持っていて、研究、設計、地域活動、教育と多方面に活動の場を広げているオールラウンドプレーヤーだ。