衣食住、生活全般で自然素材が見直されている。住では「無垢の木」、「漆喰(しっくい)」などがひそかなブームになっているという。この漆喰は消石灰を主原料にした仕上げ材でその下にあるのは土壁だ。浦教授はブームになる以前から土壁の研究に取り組んでいる。
――最初は何を研究されていたのですか?
「もともとは強いコンクリートを作ろうとしていたのです。普通のコンクリート強度が3-400kg/cm2のところを、3000kg/cm2近くを出そうとしていたのです。材料の練り混ぜとか配合を工夫して、われわれがやったのは2800kg/cm2ぐらい出したのです。
ものすごく強いので皆で喜んでいたのだけれども、逆にものすごく脆いのです。特にある幅以上の温度差に弱くて割れることがわかった。それからずっと、壁土なのです。やはりすごい強度を売っていたのに、何かちょっとしたことでスパッと割れるということに対してむなしさと言うか、諸行無常を感じてしまったのです」
――それで土壁に?
「金沢は伝統建築が多いものですから、伝統技術をずっと継承していったら良いのではということで、研究費をいただいて調査を始めました。最初にやったのが左官屋さんです。ちょうど1992-3年です。
左官屋さんにKITに来てもらって、壁に塗る前の材料の柔らかさを調べるのです。底のない茶筒のような金属の筒に材料をいれて、筒だけを引き上げると中の材料が崩れて円形に広がります。柔らかければ柔らかいほど広く広がるのでその直径を計ります。
その時、一番感動したのは、土と水の配分を何通りも変え、練り方の回数を変えても、左官屋さんが"そこで良い"という、柔らかさの程度があるのです。
そこで材料の柔らかさを測ると、材料の広がりは必ず13.5cm。ミリで言うと135mmプラスマイナス10でほとんど収まるのです。
それを左官屋さんは目で見るだけ目視で判断できるのです。伝統技術の経験とか勘というのは凄いと思いました。これをきっかけに土壁に興味を持つようになりました」
――土壁の土は陶器の土のように特別なものを使うのですか?
「普通のそこら辺にある土で良いのです。田んぼの中にあるような。ただ、現在、能登半島の土を調べていますがここら辺と全然違います。大学院生がNPOに加わり、能登半島地震で被害にあった輪島市の住宅の土壁を補修しています。そこから補修用の土をもらってきて調べると全然違うのです。手に取ると、薄くクリームを塗ったような感じです。すごいなと思いました。
それは細かいということなのですが、細かいと今度は粘りがものすごく出てくるのです。そうすると、作業スピードがとても遅くなるのです」
――土壁が今、注目されてきているのは何故ですか?
「急に花形になってきて、おかしいな、こんな泥臭いものがと、半ば驚いているのです。利点の第一はゴミが出ない。使わなくなった後でも、そのまま水を加えて混ぜればまた使えるのです。次に有害物質も放出しませんし、断熱効果もある。地球に優しい材料というわけです。
あと、揮発性有毒ガスのトルエンとかホルムアルデヒドなどの吸着性が良いのではといわれているのですが、我々自身はまだそこまで調べていません。これがきちんと実証されればシックハウス症候群の子供を持つ家では土壁でやろうかという話になりもっと普及するのでしょうが・・」
――欠点は?
「壁に塗ってから乾くまで時間がかかります。一番、薄く塗った場合でも一週間はかかります。今は拙速でも何でも速くできることが評価されるので、なかなか普通の住宅で使うのは難しい。
われわれは絆創膏のように、柔らかいものを壁にパタッと貼れるようなものはできないかと考えてはいるのだけれども、なかなか思うようには。
昔、どこでも使われていたのに、今使われていないのは、基本的に他に安いものがいっぱいあるからだと思います。壁は材料に糊と釘があればできるではないですか。
あえて土壁でやる人は趣味的になりますよね。でも本当は外壁を土でやれば街並みがからっと変わると思うのです」
日干しレンガにも挑戦
浦研究室では輪島産の土で作った、日干しレンガの強さを調べているという。日干しレンガは土を固めて日に干すだけで作る。焼かないで作るのでエネルギーを使わないのだ。
――日干しレンガは発展途上国で耐震建築を作るときに有効ではないですか?
「面白いと思います。真ん中に竹を通して竹筋の隙間と目地を壁土で固めれば良い。実は数年前に他の先生と一緒にロータリークラブが基金をだしてラオスに学校を作りに行ったのです。われわれは竹や壁土など現地の材料を使いたかったのですが、現地の人には逆に絶対コンクリートにしてくれと言われてしまいました」
今年になってハイチ、チリと大きな地震が続いている。安価でできる耐震住宅を日本が開発すれば大きな国際貢献になるのだが、現実はなかなか思うようには行かない。浦研究室の今後に期待したい。