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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

知識を生かす経営手法の探求 加藤教授

カテゴリ:経営情報学科
2009.07.01
 

経営情報学科 加藤 鴻介 教授 パリッとしたスーツの着こなし方、立て板に水の弁舌――。東京・丸の内あたりをさっそうと歩いている商社マンの雰囲気である。それもそのはず加藤教授はつい3年前までIBMで第一線のコンサルタント組織を率いるパートナーを務めていた。世界を相手にしている百戦錬磨の先進企業ビジネスマンたちを説得するにはそれなりの「見た目」も必要なのだろう。

 加藤教授がIBM時代に駆使していたのがナレッジマネジメント(knowledge management, 知識管理または知識経営、以下KMと略)という経営手法だという。

――KMとはどのような考えなのですか?

 「一口で言えば企業の知識、組織の知識をいかに組織として活用するかということなのです。

 人間というのは知識が頭の中にありますよね。大半が頭の中ですよね。あの人は仕事ができても、この人はできないというのはその人の知識によります。でも個人の頭の中にあることは他人には分からない。

 仕事ではベテランは分かっても新人は分からないことがあります。分からないと失敗したり、遅かったり、無駄をしたりと、要するに経営にとって非効率な面がたくさん出てくるわけです。そういうことをできるだけ少なくしましょう、最小化しましょうというのがKMの一つの考え方です。

 その中で、会社の中に今あるものはどこかにおいて使えるようにしましょうという知識共有という観点です。知識共有を進めていくと個人が接することのできる範囲が飛躍的に広がるのです。さらに個人の能力も高まり、今まで3年かからないと一人前になれなかったのが半年でなれたといった事例もあります。」

――具体例を教えていただけますか?

 「コンサルティングというのは基本的に守秘義務がありますね。要するに、発注しているお客さん側にすれば、同じことを他社にしてほしくない。もちろん宣伝効果のほうが大きい場合は公表するケースもありますけれども」

ナレッジマネジメントについて説明する加藤教授 加藤教授が中心になってまとめて解説書「100語でわかるナレッジマナジメント」(工業調査会刊)にその具体例が載っていた。米国の世界的な総合化学メーカーであるモンサントはKMの先進的企業として知られている。モンサントは新ビジネスを速いスピードで開拓するためには同社がすでに持っている知識をいかに活用するか鍵であると考えた。KMの導入でバイオテクノロジー分野において「ボルガード」という新しい綿の開発に成功した。米国での綿の死滅原因の80%を占める害虫に耐えられる製品だという。KMの仕組みができてから半年の間に4つの革新的な製品の開発に成功したという。

――ビジネスにおける知識の定義が必要ですね。

 「それは5W1Hという表現で表されます。Know What, というのが一般的な知識の表現ですよね。書かれた何かを知っているということ。また、あることをどうやって実施するのかというKnow How(ノウハウ)があります。これらに対して書かかれてないのにだけれど、あの人なら知っているというのはKnow Who, なのです。Know Who, というのも知識です。つまり人脈も知識です。人脈があれば、いざとなったら聞けばいいんじゃないのと言う仕組みを、みんなができる会社にしようと。

 さらにどこの必要な知識があるかを知るKnow Where, その知識をいつ使用すべきかというKnow When, などがあるというわけです。」

――そうした知識をコンピュータにどうやって取り入れるのですか?

 「簡単なのです。サポートするツールはグループウエアやウエッブですでに存在しています。共有する情報は常に正しくて最新のものでなくてはいけません。となると、最初から共有のスペースで仕事をすればいい。ちょうど、自分のパソコンにあるフォルダーをサーバーに置いてあるようにする。他の人は欲しいものがあればそこに見にくれば良いわけです。こうすれば膨大な量の書類が節約できます。

 もちろん全員が全部の資料にアクセスできるのが正しいわけではないですから、必要な人が必要なところにアクセスできる。機密情報の管理は当然しますが、それも今は簡単にできるのです。」

知識の共有化の方法を説明する加藤教授 KMの活用によって、会社は書類作りなどの雑事から解放され、生産性や創造性をあげることができるわけだ。加藤教授は現在、金沢医大と共同で医師の視点を組み込んだレセプト作成のシステム作りなどのプロジェクトを手がけている。

大学改革に有効なのでは

 加藤先生の興味深いお話をうかがっていて、KMは本来ビジネスでの概念だが、一番必要なのは日本の大学ではないかという気がしてきた。数年前から「ITを軸とした日本の変革」や「21世紀の科学技術イノベーション」などに関する取材をしている。経済活性化にはイノベーションを起こすしかないが、それが期待できるのは「知識」が一番集積した大学のはずだ。異種の「知識」が出会い刺激することによって全く新しい「知識」が生まれる場なのだ。

 ところがその大学では分野ごとの縦割りが進み、先生方は雑事、事務仕事に追われて忙しいのが現状だ。KMの考え方を導入すれば、大学はいろいろな人間が集まり智慧を出し合う「梁山泊」のような場になる可能性がでてくるのではないか。せっかく加藤先生がいらっしゃることだしKITは是非、大学のKM化の先頭に立ってほしい。

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