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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

半導体製造からペットボトルまで 作道 教授

カテゴリ:電気電子工学科
2009.07.15
 

電気電子工学科 作道 訓之(さくどう のりゆき) 教授 1942年に設立されて以来、日本の企業研究所の代表的存在として知られる日立製作所の中央研究所。かって、そこの研究員だった作道教授の業績は研究所のサイトで「歴史」の「主たる出来事」の欄に「1979年 有磁場マイクロ波プラズマエッチングの開発」として堂々と掲載されている。( http://www.hitachi.co.jp/rd/crl/history.html

 他の歴史的出来事としては、毎年ノーベル賞候補として噂される有名な外村彰氏の「1982年 電子線ホログラフィー技術」などが並んでいることなどから、作道教授の研究の影響力の大きさ、日立が評価している度合いが類推できるだろう。

 では、その「有磁場マイクロ波プラズマエッチングの開発」とはどのような技術か?

 エッチングとは簡単に言えば半導体の加工技術である。まず半導体の基板に微細な回路が描かれたマスクをプリントする。いろいろな方法でマスクのある部分は残し、ない部分を腐食させて"削り"取っていくことで回路を作り上げていくのがエッチングだ。

 当然ながら半導体の集積度が増すに連れ、線幅が細くなり加工が難しくなっていく。作道教授が開発したのはマイクロ波で作ったプラズマ内に基板を置くというもの。プラズマとはイオンと電子が混ざり合った状態だ。この中で電位の差が生まれ、イオンが基板に引きつけられて垂直にぶつかって行くため、正確にマスクどおりのエッチングができるという。

――微細加工が可能になったわけは?

 「イオンという非常に小さなものを使っていることと、そのイオンの方向を非常に正確に揃えられるということです。化学的な溶液でエッチングするとマスクの脇に回り込んだりしてマスクと同じ形になりません。その前にもプラズマを使ったエッチングはあったのですが、イオンの進行方向が揃っていませんでした。揃うのは私のマイクロ波を使った技術で初めてできたのです。

 当時〈1970年代初め〉、半導体は回路幅1μm(μmは1mmの1000分の1)が壁といわれ、キチンと切るのが難しかったのです。これを使って初めて可能になりました。私は基本特許をとり、日立製作所は半導体製造分野でシェア1位となり儲けることができました」

――半導体レーザーの中村修二さんのように日立に「もっと分け前を寄こせ」とおっしゃらなかったのですか?

 「中村さんはモノの特許で、これは製造装置ですから。金額は中村さんのほうが大きいですよ(笑)。でも1991年の全国発明表彰では最高位の恩賜発明賞をいただきました」

実験設備を点検する作道 教授――特許は1974年で発明賞は1991年と間が開いていますが。

 「特許を出願した頃は4kビットDRAMの時代で、線幅が8μmもあり差し迫った話ではなかったからです。線幅が1μm以下、サブミクロンのLSIが本当に作れるかどうかわからない時代でした。でも、現場からのニーズに従って研究するだけでは遅すぎるのです。現在ではサブミクロンよりさらに細いナノの単位となっています。」

 作道さんは94年にKITの教授就任。プラズマ技術を半導体以外の分野に展開しているという。

――現在はどのような研究をなさっているのですか?

 「ペットボトルの改良に取り組んでいます。ペットボトルは普通、機械で洗ってから飲み物を詰めていきます。その場合、新品のペットボトルでも必ず滅菌をしてから入れないといけないのです。それが従来の方法では過酸化水素水で洗って乾かすということをやっていましたが、そうすると、有機物は中に液体や気体を含んでしまってボトルの中に浸透してしまうのです。

 ガラス瓶なら洗浄した後、蒸留水で洗って乾かせば良く、乾かす時も温度を少々上げても大丈夫です。しかし、ぺットボトルは温度に弱いので温度を上げて乾燥することもできません」

――どうすれば改良できるのですか?

 「ボトルの内面をプラズマで処理することで可能です。ペットボトルの原料は細い線状構造の分子が固まってできているのですが、プラズマ処理でダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)という非常に固くて、液体や気体が浸透しにくい構造に変えることができます。同時に滅菌もできてしまうのです。だから過酸化水素水で洗う必要もないわけです。そういうことで、滅菌がどれくらいできるかというデータを取っているところで、大体めどがついています」

共同研究者の池永 訓昭 研究員(左)と打ち合わせをする作道 教授破ろう常識、超えよう限界

 半導体製造に使われていた技術がペットボトルの改良に結びつくとは意外で面白い組み合わせだ。作道教授はその他、ダイヤモンドの膜をコーティングして非常に摩擦抵抗の少ない材料の開発や石川県と富山県が共同で行っている国のプロジェクト「ほくりく健康創造クラスター」で動脈硬化診断用素子の研究にも加わっているという。

 作道教授の研究は全貌をここで紹介しきれないほど多方面にわたっている。しかし、教授の今までの研究生活をうかがっていると、一貫している姿勢は「破ろう常識、超えよう限界」という、新入社員で入った日立製作所中央研究所の標語なのかも知れないという気がしてきた。

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