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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

「IBM」・「グーグル」の経験を「教育」に

カテゴリ:情報工学科
2015.12.14
 

情報工学科 中野 淳 教授 中野先生は東大大学院で物理学(宇宙論)を専攻した後、日本IBMに入社、米国イリノイ大学アーバナ・シーャンペン校に留学。IBM退社後、今度はグーグルに入社という多彩な経歴の持ち主だ。「宇宙論」、「IBM」、「米国留学」のお話も興味深かったが今回は「グーグル」に焦点を合わせて紹介したい。

----先生はグローバル最先端企業、グーグルで働かれました。グーグルは「知の世界を再編成する」とも「世界をググる」とも言われ、その動向が常に注目されています。先生はIBM時代にスカウトされたのですか?

 「いいえ、それまでいたIBMで留学までさせてもらったのですが、向こうで取ったコンピュータ・サイエンスのPh.D.(博士号)をより良く活かせる仕事を求めて、転職先を探したのです。

----グーグルにはいつから?

 「2006年からです」

----では日本でもグーグルはすでに有名だった?

 「有名でした。ただ、東京のオフィスではまだ、エンジニアは30人ちょっとしかいない時代でした。日本での立ち上げ初期には立ち会えなかったのですが面白かったです。IT業界にいる人から見ると"すごい、よかったね"といわれましたが、親世代になると良く知らないとなります。今でもよく使われてはいるけれど、何で儲けている会社なのか知らない人が大部分ではないでしょうか?」

----私も良く知りません。タダで検索させて、何で儲けているのですか?

 「広告です。インターネットの広告。検索の時にでてくる広告や検索しなくてもブログサイトに行ったら出てくるようなバナーの広告とかありますよね。ああいうのをユーザーがクリックするたびに5円とか10円とか50円とかが広告主から支払われるのがチリも積もれば山となるので。

 「医療保険」や「自動車保険」を検索した時、横にでてくるのはもう少し高くて1回クリックするとより大きな額が入ってくる。広告主間の競争が激しいからです。また、すごくマイナーな同人コミック雑誌を検索した時に出てくる広告も、少額ではあるけれども広告費が入ってくる。」

----グーグルは相当、儲かっているという話は良く聞きますね

 「インフラにはものすごい投資をしていますが、1回インフラができてしまえば、ある程度は惰性でも収益は上がる。ただ、やはり競争はあるので常に品質は向上させていかなければなりません」

----"グーグルの秘密"のような解説本を読んでも今ひとつ分からなかったのですが、少し分かりかけてきました。

 「決算書とかを見ないと正確には分からないですが、今でも95%以上は広告だと思いますよ。この収益で先進的な実験プロジェクトをやっているのです」

----先生はグーグル時代、どのような仕事を担当されていたのですか?

 「最初は検索の急上昇ワードというプロジェクトで、テレビなどでタレントが美味しい食べ物や面白い商品があると言ったら、みんなが検索しますよね。今、何がホットな検索ワードなのかというのを表示するようなプロジェクトが最初です。今は同じ形では残っていませんが、形を変えながら生き延びていると思います。
後は先ほどの検索の時に出てくる広告で、ユーザーが検索した時にどういった広告を出すと一番クリックされやすいか、ユーザーにとって関連性が一番高いかどうかを判定するようなものもアルゴリズム(計算手順)ですが、その部分に携わっていました」

立ち机での仕事を語る中野先生----それを実際に先生がゼロから開発した?

 「いいえ。連綿と開発されてきた、かなり巨大なシステムがあって、それを少しずつ改良していくという感じです。例えば、ユーザーが自動車保険で検索したとして、保険会社の会社名が出てくるのは分かりやすいですが、そうではなくて、微妙なつながりをもっていてなおかつユーザーが興味を持ちそうな広告などがあったりすると、いかにそういうスコアを正しく評価するかということをやっていました」

感性はできるだけ排除

----その広告を選ぶのは技術だけでなく感性も当然あるわけですね。

 「感性というのは、なるべく排除する社風なのです。だから、"これ良いかな"と思ったら、とにかくライブエクスペリメントといって実験するのです。要は新しいアルゴリズムを適用したページを見せられたユーザーと、そうでない従来のページを見せられたユーザーを比較してクリック率がどれぐらい変わってきたのかということを定量的に測ってクリック率が良くなるようだったら、こっちの改良版を採用という感じなのです。ホームページのデザインにしてもフォントの色や位置の微妙なピクセルなども、基本的に実験でどちらが良いか決めます」

----それは徹底していますね。さすがです。

 「ただ、一方で落とし穴としては、そういうちょっとずつ良い方、良い方に移ったとしたら、結局、最終的に全く別の形の可能性はなかなか試す機会がなくなってしまいます。とは言っても、時々、グーグルもホームページなどはデザインがガラリと替わることがあります。そのような時も一応、慎重に段取りを踏みながらやっていることはやっているのですが、通常の運転モードだと本当に微調整、微調整です。それでも、例えば広告の場合、微調整でクリック率が1%上がるとしたら、年間ではものすごい額の増収に繫がっていくのでめちゃくちゃ重要なのです」

----グーグルの話は興味がつきませんが、ここら辺で。縁あって2014年からKITにこられました。KITではどのような研究を。

 「実は教育に興味を持っています。私自身がMOOC(ムーク:Massive Open Online Course)というオープンで世界的な講義の枠組みでいくつもの科目を勉強してきたのです。ありとあらゆる科目が教えられていて、なおかつほとんど無料です。講師陣も例えば私が最近取っていた物理学、宇宙関係の科目はノーベル賞学者が先生をしていました。一応聞きっ放し、見っ放しっではなく、時々ウェブ上で課題や選択クイズなどの問題に答えたら、ちゃんとあなたは何%できたので合格ですと。日本でも関連のgaccoというサイトができました。今後は提供する側として何かできないかと探っているところです」

「教育に興味があったので大学に来ました」と中野先生 中野先生が高校3年の時に物理学を目指したきっかけは予備校のゼミで聞いた山本義隆氏の物理学の講義だったという。山本氏と言えば約45年前の筆者の学生時代、東京大学全学共闘会議の議長として学生運動のカリスマ的存在だった。その山本氏の講義を聞いた高校生が大学、企業を経て今、「教育」の現場に立っている。歴史の流れを感じずにはいられない。

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