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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

「スイッチ」から「プラズマ」にスイッチ

カテゴリ:電気電子工学科
2014.04.30
 

 電気電子工学科 大澤 直樹 准教授 普通の人が朝起きて夜寝るまで、一番多く接触する電子部品は何か? それは恐らくスイッチだろう。朝一番にメールをチェックする人はスマホのスイッチを、お湯をわかす人は電気ポットのスイッチを入れて一日が始まる。また夜寝る時は、部屋の電灯のスイッチを切らなくてはならない。これほど身近な部品はないのではないか。ところが、同じスイッチでも我々に電気を供給してくれる巨大電力システムのそれはほとんど馴染みがない。馴染みがないどころかスイッチ(遮断器)が存在することも知らない人ほとんどだろう。大澤先生は大学からずっと、このスイッチの研究をしてこられた。

----先生がスイッチの研究に入られたきっかけは何ですか?

 「地元・石川県立加賀高校からKIT電気電子工学科に入って博士課程まで行きましたが、指導の先生が大電力用スイッチの専門でしたので、それがきっかけです」

----大電力のスイッチの研究は何が課題なのですか? やはり火花が出るのを防ぐとか衝撃を止めるとかですか?

 「衝撃はそんなにないです。すごい放電はどうしても起きてしまいます。重要なのは小型にすることなのです。日本は変電所の地面が狭いので、いかにコンパクトにするかが勝負になります。最近は地下の変電所も多いので中に収めるには小型の方がいいのです」

----要するに放電は起きてしまうわけですね。

 「はい起きます。このときの電流が大きくて、最大で数万アンペアというとんでもない値なのです。この一瞬に2つの電気接点を離して、電流を切るのです。

 放電というのはどうしても高温になります。これをいかに冷やすかというのも課題です。冷たくすると電流は流れにくくなりますので、放電の周りにガスを吹き付けて、これをいかに冷やすかというのも勝負になります」

----そもそも家庭に電力を供給するシステムになぜスイッチが必要なのですか? 工事の時以外、ずっと電気は流れっ放しなのに。

 「例えば送電線に雷が直撃し送電線が短絡すると、大電流がそのまま送電線を通って変電所に流れ込んできます。最悪の場合、変電所にある変圧器が壊れてしまうのです。壊れると電気を輸送できなくなりますので、それを防ぐためにあるのです」

----そうか落雷事故防止が目的なのか。

 「雷ですと、どこかに落ちれば近くですぐスイッチを切ってしまって、また入れれば復旧できますので、それを瞬間的にやります。大体まばたきしている間に開いて閉じてというのができます。そのぐらいのスピードでポンポンとやっています」

----落雷は主に変電所で感知するのですか?

 「送電線の各所にさまざまな検出器があります。それをつかって落雷などの事故が判断できればすぐにスイッチを開いてまた閉じて、復旧すればそのまま流れていますし、復旧できなければまた開いてというのをパッパッと繰り返していきます。ですから日本ではほとんど停電がないのです」

「日本の電力システムは世界のトップクラス」と語る大澤先生----基本的なことですが、雷がどこかで落ちますね。落ちたというシグナルが変電所に行くのと、雷の電流が流れるのとほとんど同じではないのですか?

 「いや、やはり雷の方が早いのです。それと雷は一瞬です。雷そのものではなくて、雷で送電線が切れて、それが地面に着いたとなるとショートの電流が流れます。これが流れ続けると壊れるので、これをいかに早く切るかなのです。雷よりも早く切るのは早すぎて無理です。落ちたと判って切れれば良いのです。

 停電の少なさでは、日本は世界でトップクラスです。また、家庭の電圧は100Vですけど、その100Vがちゃんと許容範囲で出ているというのもトップクラスの安定性ですし、周波数50Hz、60Hzがちゃんと許容範囲で出ているのもトップクラスなのです」

排気ガスもクリーンに

----先生はKITから日立製作所に入られて、電力用のスイッチを研究、07年から母校に戻られました。しかし、現在は別の研究に挑戦しているそうですね。

 「今は低温プラズマをやっています。固体の氷を温めると水になり、水を温めると水蒸気になり、さらに水蒸気を加熱すると電子やプラス・イオン、マイナス・イオンがごちゃ混ぜの状態になります。これがプラズマです。プラズマには熱いプラズマと冷たいプラズマがありまして、熱いプラズマは電力の遮断器(スイッチ)で発生するような放電で現れます。

 冷たいプラズマというのは、デレビのプラズマディスプレイとか、ああいう風にガスの温度は常温に近い温度なのに、電子だけが非常に活発に動き回っているというのがありまして、それを研究しています」

----低温プラズマは何の役に立つのですか?

 「半導体処理などに使われています。ただ処理する空間全体にプラズマ処理装置をつけるためには真空装置が必要になり、設備も高くメンテナンスも大変です。研究の大きな流れとしては、大型の装置でより高性能なものを作ろうという方向もありますが、同じものをいかに安く、真空ではなくて大気圧中でも同様のプラズマ処理ができないかと考える方向もあります。

 私が考えているのはまさに後者で、大気圧の低温プラズマです。半導体処理への応用ではなく環境浄化技術への応用を考えています。空気中ですから、空気の中には酸素がありますので、酸素が電子と衝突すると解離という反応の高い状態になっています。そこでオゾンのような強力な酸化剤が出来たりします。

 このオゾンをディーゼルの排気ガスの中に入れると、分解できないやっかいものの一酸化窒素(NO)を酸化して、二酸化窒素(NO2)に変えてやることができるのです。またNO2は水に溶けるので簡単に処理できるのです。これでディーゼルの排気ガス問題が解決します」

----具体的にはどうやって低温プラズマを作るのですか?

 「バリア放電といって、電極と電極の間にプラスチックやガラス、セラミックスなどのバリアを入れて放電させるのです。われわれの研究は、バリアの材料を工夫することでムラのない良い放電ができ、プラスチック処理などにも使えることを発見し、ヨーロッパの学会で発表して注目されました。これが今一番調子良くいっているテーマです」

実験システムを説明する大澤先生----先生の大学時代と比べて今の学生はどうですか?

 「昔は元気があってやんちゃな学生もいましたが、今は学部1年の時から将来はこんなエンジニアになりたいと意識し活動していてすごいなと思います。私は学部の時はそこまで考えていませんでした(笑)」

 大澤先生の方針は「わかりやすく」と「楽しく」。学生たちにとっては頼れる兄貴分のような存在だろう。

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