2017.12

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

造船で培った総合力で社会工学を目指す

カテゴリ:経営情報学科
2013.01.07
 

経営情報学科 武市 祥司 教授 武市先生はもともと造船工学の出身。しかし、コンピューターを使いこなしているうちにより総合的な社会システム工学やサービス科学といった、より広い世界を目指すようになったという。その背景をうかがった。
 
——先生は東大の船舶海洋工学科のご出身ですが、やはり海へのあこがれが進学された理由ですか?

 「いや、実は建築志望だったのです。東大の内部で学科を決める時に進めなくて。たまたまクラブ活動の先生が船の先生で第二志望として決まったのです。

 でもいざ進んでみると面白かった。25年近く前ですが、コンピューターを使って、いろいろな設計支援、生産支援をやり始めようということが、さまざまな産業で起きてきて造船でもあったのです。というのは船の場合は、第一次オイルショックから非常に不景気で、それが15年ぐらい続きました。このままでは駄目になる、新しいことをやろうというので業界がコンピューターに目をつけたのです。 

 入った研究室は溶接という金属同士をくっつける技術を研究するとこで、業界、学界全体でやっているのも興味を引きました。それで、マスターまで行き、造船会社に就職するつもりで半分ぐらいまで決まりかけていたのですが、多分、人が足りなかったのでしょう。先生がドクターに来ないかと言うので行きました」

——人が足りないとはご謙遜で、武市先生が優秀だったのでしょう。

 「ドクターまでいて、それから別の研究室で助手をつとめ、住友重機という会社に3年ちょっと働きました。そしたら東大でたまたまポストが空いたので戻って来いと声をかけられ、助手として戻ったのです。ただ、このポストは一時的なものでしたので縁あって09年からKITに来たのです。

  実はドクターを取るまでの研究室と、助手をやっていた研究室と、さらに助教授になった研究室が全部、別の研究室なのです。最初は溶接でしたが、助教授をやっていたのは流体関係の研究室でした。10年近く前にアメリカズカップというヨットのF1がありましたが、最後はテクニカルディレクターをやっていた宮田秀明先生の下で研究開発をしていました」

 アメリカズカップは1851年から現在まで続く、世界最高のヨットレースで、参加国の最先端技術のすべてが注ぎ込まれる。日本は1992、1995、2000年の3回、チャレンジしているが優勝はない。以前、インタビューした増山豊先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2010/01/post-23.html )もアメリカズカップに関係していらして、武市先生がKITに来られる「縁」となった。

——話が前後してすみません。造船で住友重機というのは申し訳ありませんがあまり聞いたことがないです。住友重機は三菱重工、石川島播磨などに続いて3番目ぐらいですか?

 「いえ、もっと小さいです。ただ歴史があって幕末に幕府が設立した浦賀造船所を、榎本武揚らが明治時代になって浦賀船渠という会社組織にしたのです。私が入社した時にすぐ創立100周年だったので、今は115年くらい。幕府の時代を入れるとさらに40~50年もさかのぼれるらしいです。住友系の機械の会社と合併したりしていますが、実はあまり大きくなくて、20年くらい前、造船大手7社と言われた時代で7番目くらい。大手というより中手のトップぐらい。」

「造船業は大手より中手が元気」と武市先生——なるほど、それであまりうかがったことがないんだ。

 「造船業は今いろいろ再編していて大手よりも中手の方が元気いいのです。大手よりも中手の方が建造量の多いところも何社かあるのです。

 なぜかというと、船の産業は労働集約型なので、人件費がダイレクトに効いてくるのです。船というのは大きく分けると3種類あります。第1に艦艇とよばれる軍艦はアメリカが今でも1番です。第2の客船など付加価値の高い物はヨーロッパが1番。客船は動くホテルといわれ、中の豪華な調度品は他の国では作れない。

 そして第3は鉄鉱石や穀物など荷物を運ぶ船です。日本、中国、韓国が得意なのはこの分野の安い船なのです。昔の数字ですが船の売値の3割から5割が人件費なのです。だから、韓国の人件費が上がったといっても、まだ日本の半分より少し上くらいですし、中国では場所によって違いますがざっと10分の1くらいです」

——それでは日本はかなわないですね。

 「そうです。日本の船は高品質だと言われていますが、世界の船主さんがみんな、そんなに良い船を必要としているわけではなく、一応荷物が運べて、10年、20年動いてくれれば良いというオーナーさんもたくさんいます。そうすると海外の安い韓国、中国になってしまうのです。日本の中手が元気なのは、一つは大手に比べて人件費が安いのです。現場は大手の7割くらい、設計にいたっては5割という話もあります。大手の人は年齢も高く平均年齢50歳くらい、中手の方は30歳代。

 造船は設備産業でもあるので、大きいクレーンをどかーんと入れて、溶接機器を入れ、工場レイアウトをきちんと考えると生産性はぐっと上がるのです。中手の造船所はオーナー社長が多いので決断が早く頑張れるのです。もう一つ、大手を定年で辞められた方が、中手に声をかけられて設計や製造のノウハウを持っていって頑張っている例も多いと聞いています」

電気の無駄のない使い方を探る

——造船という多くの人や設備が協調してモノ作りを行う生産システムを身をもって経験されて来たので、それをKITの経営情報学科で、生かそうとなさっているわけですね。

 「溶接のシミュレーションですと、ベテランの技師が1万通りの方法から4~5種類の適切な方法の中からベストを選ぶ、それを真似できるのです。

 例えば去年の卒論では省エネのシミュレーションとして、どのようなエネルギーのベスト・ミックスを選ぶかというのがあります。この辺りは自然エネルギー的には非常に恵まれています。風もあるし、水もそこそこ流れています。周りに高い建物がないので太陽光もあります。日本海側は日照が少ないイメージがありますが、太陽光は日射時間ではなくて日射量なので曇っていても結構それなりに発電するのです。そういうものと電力の需要量をうまくシミュレーションしていくのです。

 例えば、このやつかほリサーチキャンパスでは、電力としてどのような設備を入れると良いとか、電池を入れるとしたら、どれだけの容量で、どういう使い方をすると、一番賢く電気が使えるか。われわれとしては、電気を一番安く、社会的に見ても無駄なく使うキャンパスを目指せます」

学生を指導する武市先生 武市先生のお話をうかがっていると専門にこだわらず、次々と研究世界を広げて行くしなやかな好奇心を持った、新しいタイプの工学者を感じた。

< 前のページ
次のページ >