2017.12

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

パターン認識と人工知能の境界を

カテゴリ:情報工学科
2012.10.15
 

情報工学科 長田 茂美 教授 ちょっと前は「情報爆発」、最近では「ビッグデータ」など、膨大な情報をどう扱うかは社会的な問題となっている。中でも、効率良く必要な情報を取り出す(データ)マイニング(mining)という技術は最も注目されている。長田先生は長い間、富士通研究所でコンピュータの応用研究に携わり、KITの現在ではマイニングにも挑戦している。

——先生は九州の高校から東京工業大に進まれていますが、東工大を選んだのは?

 「東京に出たかったのが正直なところではないでしょうか(笑)。あとロボットに興味があったのでロボット研究の盛んだった東工大を選んだのです。

 私の恩師は梅谷陽二先生という方で、生物の動きを模倣したロボットで有名です。例えばヘビの動きは、きれいな数学的に定義できる曲線で動いているのです。研究室では、それを観察するために漢方薬屋からシマヘビを買ってきたりしていました。走行実験では、ヘビをつかんで走らせなければいけないのですが、私はヘビが苦手でつかめなかったんです(笑)。それで私はモノを見分けるパターン認識の方をやらせてもらいました。

 もともとロボットのメカというより、制御とかビジョン、あるいは脳とかに興味があったのです」

——卒業して77年に富士通研究所に入社されています。

 「パターン認識の研究はずっと続けて行きたいと思っていました。パターン認識は発展すればロボットの目、視覚になります。視覚処理とパターン認識というのは近い分野でかけ離れていません。当時、富士通は旧通産省(現 経済産業省)の大型プロジェクトで、OCR(optical character reader), 光学的文字認識装置で手書き文字の認識を担当していました。そこらへんの研究も続けられたらと富士通研究所に入ったのです」

 OCRは手書き文字や印字された文字を光学的に読み取って、前もって記憶されたパターンとの照合により文字を特定し文字データとして認識する技術。今ではパソコンにも付属する一般的な技術だが当時は最先端の技術開発だった。

 また大型プロジェクト(大プロ)は旧通産省が音頭をとった官民あげての研究開発制度。人工知能開発を目指した「第五世代コンピュータ」(82年開始)などが有名だ。

——第五世代などの大プロは成果は別としてアメリカを驚かせるほどのインパクトがありましたが、最近はあまり話題になりません。日本の技術力というか国力の反映でしょうか?

 「どうなのでしょう。私はKITに来る前、情報大航海という経産省のプロジェクトにかかわっていたのですが、あれも大型プロジェクトという感じではありませんでした」

——入社時の話に戻りますが、OCRの後は?

 「大プロは1年あまりで終わりました。それで文字の次は図形とか画像だろうということで、タイミング良く自分の新しい研究と以前から研究していたことが重なったので好きなことをやれました。

 まずやったのは文字から図面ということです。当時のCADのシステムは現在のように設計者が直接、インタラクティブに設計できません。設計者がまず設計図を鉛筆で製図機械にて描くのです。それをオペレーターに渡し、オペレーターがデジタイザーという機械で拾ってコンピュータにインプットするという、めんどくさいことをやっていたのです。

 それを設計者が描いた図面を自動的にスキャンし、認識してコンピュータに自動入力させる。オペレーターの替わりをする、そういうシステムをやりました」

——お使いになっていたコンピュータは大型、いわゆるメインフレームですか?

 「その時、メインフレームはもちろんありましたが、やはり周辺機器とか図面の入力装置とかそういうものを制御するにはミニコンとかマイコンでシステムを作っていました。

 ただ、ミニコンですからメモリは256KBとか512KB、そんな程度です。その頃、図面とか画像を扱おうとすると、ディスクから3行分くらいの画像を読み出しては、それを処理して格納する。ですから何か一つ処理させると必ず徹夜でしたね」

 長田先生はその後、人間の脳の神経細胞を模した人工知能、ニューラルネットワークやヒューマンインターフェイスなどさまざまな研究開発に参加し、11年にKITに来られるまでは主席研究員などを務められた。

簡単に欲しいデータを見つけられる

——今後はどんな研究を目指しますか?

 「そうですね。なかなか手がつかないのですが、パターン認識と人工知能の両方をやってきたので、その境界領域的なところ、つまりシステムが学習によって賢くなるような、それでより良く認識ができるような、そういうシステムを作りたいと思っています」

——具体的にはどういう分野でやるものですか?

 「例えば画像検索です。前に話した情報大航海というプロジェクトでやったのはテキストと画像を使ってやりましょうと。要するにテキストによる意味的な検索もできるし、画像による視覚的な検索もできる、そういったシステムを作りましょうという話です。

 インターネット上の検索ですが、例えば今度旅行へ行くのでこういうバッグが欲しいなと思ったとしましょう。ところが現在ではその形を入力することは出来ませんので、とりあえず“バッグ”とユーザーが入力します。そうするとクローラーという収集ロボットがweb上を走り回って“バッグ”というキーワードを含むwebページの中から画像と画像の周辺のテキストをペアで持ってきます。

 画像からは“白い”とか“長い”といった画像特徴を抽出し、一方、文字情報からも“今年の流行”といった良く出てくる、頻度の高いものが近くに集まるようにします。そうすると画面上に分かり易く現在の“バッグ”の状況が表示されることになるのです」

 言葉で書くと、もどかしいが先生の示す画面を見れば一目瞭然だ。膨大なデータの中から視覚的、感覚的に欲しいモノを探すことができる。

大画面にデータが分類されて表示されている——学生たちにはどのように指導していますか?

 「まずテーマとして自分がユーザーになれる、そういうテーマを探しなさいと。それから、私自身もそうでしたが、自分のアイデアがロボットの動きなり画像などで見られると分かり易いじゃないですか。どんな小さなアイデアでもやはり動いて自分で見られるという成功体験が重要です。その経験で研究が続けていけるのだと思います」

「自分がユーザーになれるテーマを」と長田教授 長田先生のモットーは「よく学び、よく遊ぶ」。話し方も楽しそうで若々しい。

< 前のページ
次のページ >