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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

環境汚染からバイオマスへ

カテゴリ:応用化学科
2011.06.02
 

応用化学科 土佐 光司(とさ こうじ) 教授 都市工学を学んだ研究者というと、都市計画を立案するデザイナ−系の先生かあるいは橋や道路を設計する土木系の先生の2種類しか思い浮かばなかったが、土佐先生はそのどちらでもなかった。

——若い頃から水質を研究しようと思ったそうですが、そのきっかけは?

 「私はガンダム世代なのです。テレビアニメ・機動戦士ガンダムでは宇宙の植民地、スペースコロニーが出てきます。番組の一番最初が“人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた”というようなナレーションで始まります。中・高校生ぐらいまではスペースコロニーを作りたいと思ってました。

 しかし、コロニーはそこで何万人か何百万人か設定は忘れましたが巨大なものなのです。大学に入る前には、ちょっと生きている間には実現しないだろうことはわかってきました。そこまで行く前に、地球に問題がおきるはずだという考えで」

——なるほど都市計画的なものを目指す志はあったわけですね。

 「出身の東大では教養課程で専門が決まらないのです。教養を終え専門を選ぶ時の一番の考えはやはり困っている人の役に立ちたいと。途上国や貧困などの問題を解決するような仕事、しかもエンジニアでできたら良いなと思ってました。いろいろな学科を調べているうちに多分、都市工学科がそれに一番適していると思いました。 

 もう一つは、地球は人がどんどん増えてきて人口問題が出てくる。そうすると資源や水、いろいろなものが枯渇するわけで、そういうことに関わりたいなと。そして決まった専門がほとんど水を扱っている研究室ばかりだったのです」

——それで環境衛生の中で水をやろうということに。

「若いうちは小さなことからコツコツ行こうと。実際に専門をやっていて思ったのは大きなことをやろうとすると、結局、自分ではできないのです。シミュレ—ションになってしまって。そしてシミュレーションをやろうとすると、ここのデータがないとか、ここがわからないからできないとか、そういう事がたくさんでてくるのです。

 それで出来る事をやっているうちに、気がついたら、どちらかというと実験屋になっていました。ある先生に“君はコンピュータを使う方が得意なんじゃないの”と言われた事もありますが」

——水処理技術は今や輸出に繋がると注目されていますね。

 「あれは技術的というよりは、商売のためのマネージメントの問題で技術自体はある意味完成しているのです。それをシステムとして組み上げて、売り込んで、かつ売った後のメンテナンスを引き受けて儲けなければならないのです。

 その仕組みがなかったということで、東京都は水ビジネスとして売り出そうとしているのです。恐らく能力として一番持っているのは東京都の水道・下水道だということでやっているのでしょう」

——なるほど、技術ではなくマネジメントの問題なのですね。

 「今から売り込むのは途上国ですよね。途上国にはそれほど高級なシステムは売れないではないですか。日本だったら土地代が高いですからできるだけコンパクトなシステムにするのです。コンパクトでエネルギーをたくさん使っても良い。

 一方、途上国は土地がたくさんありますから、コンパクトでなくてもいいから、エネルギーを使わない、処理コストの安いシステムを求めるわけです。途上国は時間をかけても良い、日本は人手をかけずに機械でやる。

 といった具合に、途上国と日本では同じ水処理システムといっても求められるものが違うので簡単にはいかないでしょう。

 そこを考えると、逆に日本の昔の技術を復活させて持って行く手もあるでしょうし、あるいは、もっと進んで改良し省エネ化した技術を持って行くということも考えられます」

——水の浄化という分野でも特に何がご専門なのですか?

 「KITに来る前は水の中の微生物がメーンだったのです。水の中の大腸菌とか、最近だとノロウィルス、あるいは寄生虫とかいろいろいます。こうした生き物をどうやって駆除というか消毒するかということです。

 薬品を使うこともありますし、何かフィルターのようなもので濾過して物理的に取り除くこともあります。最近日本にやってきた微生物などは水の中にどれくらいいるか分からないので、それを調べるために川に行き、川をさかのぼって行くと牛の畜舎があるので、試料を採らせて下さいとお願いして断られてとか。下水道局にお願いしてまた断られて、また別の下水道局にお願いして、やっと許可を頂くとか」

学生の実験を指導する土佐先生——KITに来られてからは化学物質も研究されていますが。

 「KITに来た時にいらしたある先生に“一緒にやらないか”と誘われたのです。その先生は水の中の化学物質をやっていた方ですが、その後、国立環境研究所に移られてしまいました。それで残された測定機械などを使ってダイオキシンと環境ホルモンなどの研究を続けてきました」

カキ殻や竹チップの利用も研究

——最近はバイオマス(生物由来の有機性資源)にシフトされているそうですが。

「はい、ずっと環境汚染の研究をしていたのですが、最近は注目されない、研究資金もつかないのです。世間一般が今、環境問題というと、ほとんど温暖化と資源・エネルギ—問題になっているわけです。社会の要求に合わせて、ある程度私も変わらないと」

「社会の要求に応える研究を」と土佐先生——具体例をあげてください。

 「地元の廃棄物関連の関係者などと話しているうちにバイオマス関連の仕事が増えてきました。石川県らしいのはカキ殻。能登に行くとカキ殻が山になっているのです。それを何とかしたいという声がありまして白山市の建設業者さんと一緒に、カキ殻を焼いて建設材として使ってみるとか、化学反応させて融雪剤として利用するとかを研究してます。これには七尾市にもご協力いただいています」

 土佐先生はその他、竹をチップとして利用したりアフリカ・モザンビークの植物ジャトロファをエネルギーとして使うなど多種多様な研究に挑戦している。生物学も化学もこなすなど領域を軽々と越境して社会貢献を目指す新しいタイプの研究者だ。

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