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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

研究は"ひらめき"と"寄り道"だ!

カテゴリ:応用化学科
2010.02.15
 

応用化学科 露本 伊佐男(ツユモト イサオ)准教授 「研究者にとって、研究予算に恵まれるのは誠にありがたいことである。必要な設備、装置を整えることができ、意志の赴くままに研究が進められる。しかし、改めて研究を見つめ直し、よくよく考えてみると"研究者がすごいのではなくて、実験装置がすごいだけじゃないか"と思えてしまう研究も少なくない。きわめて高価な実験設備で得た研究成果の背景に、研究者自身のアイデア、独創性といったものが全くみえてこないのだ」

 この大胆ともとれる発言は露本准教授が09年に仲間の研究者と書いた「よみがえれ!科学者魂――研究はひらめきと寄り道だ――」(丸善株式会社、著者:佐々木聡氏らと共著)からの引用だ。露本准教授はさらに続ける。
 
 「公的資金から拠出された大型予算で研究を進める場合、当初提案した研究目的を達成することが求められ、失敗はもちろん許されないし、わき道にそれることも許されない。研究の途中で見つけた偶然の産物、輝けば光る宝物を捨てていかざるを得ないのである。このような硬直した研究環境では、研究者自身のアイデアを生かすどころか、研究は単純労働となり、研究員は作業員と化してしまう。

 当初の研究目的を達成することは重要であるが、研究者自身のアイデアを生かせる風土、セレンディピティを尊重する姿勢も大切である」

 "セレンディピティ"(serendipity)とは偶然発見したモノの価値を正しく評価できる能力のことだ。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏や白川英樹博士は失敗したと思われた実験から賞につながる大発見をしたことで有名だ。
 
 この著書での発言のように露本准教授は日本の研究者には珍しくはっきりとモノを言うタイプとお見受けした。この本は専門書ではなく一般人向きだが、露本准教授は以前にも「図解雑学 ダイオキシン」(ナツメ社刊)という、もっと易しい解説書を書いている。さらには共著だが「うんちとおしっこの100不思議」(東京書籍刊)などというのもある。廃棄物関連の研究をしていた時に書いたという。研究室には専門書の他に講談社の科学入門書ブルーバックス・シリーズなどがずらりと並んでいる。

  科学普及書もずらり揃えている―― 一般書も多く書かれていますね。

 「もうかるわけではないので(笑)、ほとんど趣味の領域ですが、いろいろな人に科学を普及させるという意味では重要ですから」

 日本では専門の論文以外のこうした本は研究者の業績として評価されないが、米国では科学普及の功績として評価されるという。日本もこうした普及活動をきちんと評価すべきだろう。

――研究は多方面にわたっていますが。

 「環境化学科が応用化学科に変わったことも少しは関係あるのですけれども、これまで見つけたことをどんどん展開させていこうということで、大きく分けて燃えないプラスチック、無機材料の新しい合成法の開拓、化学センサー、この3つのテーマで走ってます」

――燃えないプラスチックというのは建材か何かですか?

 「そうです防災用です。ウレタンフォームは一部、成功して商品化しています。表面が焦げて炭化層ができ、それが内部を保護している感じです。燃えてしまうものは、ガス化して、それに火が点く。

 燃えないものはいろいろ試していたら、たまたま何種類か見つかりました。メーカーがダクトを巻く断熱材として売っています」

――新しい合成法というのは?

 「例えばセラミックは乳鉢の中で材料を擦りつぶして1000度以上で焼いて作ります。それを水溶液の中で沈殿させて創ってしまおうという試みです。少しは熱を使いますが600度とか700度でできるようになります。低温ですので省エネになります。また、高温だとナノ粒子同士が反応して大きな粒子に成長してしまうのですが、低温だと小さいままなのです。そうするとチタン酸バリウムなどはセラッミック・コンデンサーとして使えるようになるのです」

新型化学センサーの開発も目指す

――化学センサーの研究はどんなものですか?

 「毒性のある有機塩素化合物は今まで簡単な検出法がなかったのです。ガス警報機はガスが燃える、つまり酸化されやすいから素子の上で検出できるのですが、有機塩素化合物は燃えないので検出できなかったのです。検出するにはガスクロマトグラフィーのような大きな装置が必要でした。それを小さなセンサーで検出できるようにしたのです」

研究には広い視野と柔らかい頭が大切と語る露本准教授――それはすごい。どんな原理なのですか?

 「電気を通す導電体と電気を通さない絶縁体を混ぜてペレットとして固めます。この割合がある値を超えると急に電気が通ったり通らなくなったりするパーコレーションという現象があります。有機塩素化合物を吸って膨らむ粘土鉱物とこの現象を利用したのです」

 インタビュー時は特許出願中でこれ以上詳しく聞けなかったが、どうなったのか結果が楽しみだ。

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