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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

都市鉱山の発掘を目指す  藤永 薫 教授

カテゴリ:応用化学科
2009.01.15
 

  応用化学科 藤永 薫 教授 「都市鉱山」という新しい言葉が注目されている。ゴミとして捨てられている使用済み携帯電話やPC、家電製品などの中に含まれている有用な資源(金、レアメタルなど)を回収し有効活用しようという動きだ。ゴミの山が新たな「鉱山」として生まれ変わるわけだ。

 独立行政法人、物質・材料研究機構が2008年1月に発表した推定によると、日本の都市鉱山はすでに世界有数の資源国に匹敵するほどの規模になっているという。例えば金は約6,800トンと世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%にあたる。銀は約60,000トンと約22%にもなる。さらにインジウム61%、スズ11%と一割以上の金属が続く。資源の少ないといわれる日本だが都市鉱山に注目すれば世界有数の資源国となる。
 
 さて、この「都市鉱山」から具体的に金属を"掘り出す"にはどうするのだろうか? ゴミとなった携帯やPCの一台一台に含まれている金属はごく微量である。
 
 そこで登場するのが藤永教授の専門とする溶媒抽出の技術だ。溶媒抽出は分析化学の古典的手法だ。固体または液体に適当な溶媒を加え、その溶媒に溶ける成分を溶かし出す分離法である。溶媒には水,酸、アルカリ、アルコールなど様々な液体が使われる。衣類についた汚れをベンジンで取るシミ抜きは溶媒抽出の一種だ。汚れをベンジンという溶媒に溶け込ませ抽出するからである。
 
 藤永教授と溶媒抽出の出会いは25年近く前にさかのぼる。藤永教授は当時在籍していた島根大学から米国ツーソンにあるアリゾナ大学に留学した。そこで出会ったのが溶媒抽出の世界的権威であるヘンリー・フライザー教授。教授の下で約1年間、溶媒抽出を研究した。その時、一緒にいた日本人研究者がKITの小松優教授で、その縁でKITに来ることになった。
 
 米国で溶媒抽出が盛んな理由は原子力で必須の技術だからだ。原子力発電所で燃やされた使用済み核燃料には核反応で生まれた多くの核分裂生成物が含まれている。この中から有用なプルトニウムやウランを取り出して再び利用するのが「再処理」と呼ばれる技術。日本では青森県で大規模な再処理工場が稼動準備中だ。ここでは使用済み燃料を細かく裁断した後、硫酸に溶かし何回もの複雑な溶媒抽出の工程でプルトニウムなどをとりだしていく。

「デザインと工夫にやりがい」

――溶媒抽出は他にどんな分野で使われているのでしょうか?

 「基礎から応用まで幅広く使われています。多いのは貴金属の回収とか精錬とかです。方法は取り出す金属に応じて、いろいろな濃度の酸を考え、抽出試薬や温度などの条件を考えます。例えば銅ですと、一回油の槽へ抽出しておいたものを、もう一回酸で逆抽出して後で電気分解して銅を取り出すといったプロセスになります」

――先生は特に得意とされる金属がありますか?

 「銅、ニッケル、コバルトなどポピュラーで馴染みのある遷移金属を中心にやっています。種類が多いのでいろいろなことを試せるのです。特にこれからやろうとしているのは
電池からニッケルとコバルトを回収することです。高価な金属ではないのですが量がすごいのでうまく行けば産業的なニーズがあります。
 
 電池は今、回収されているのですが、金属の回収はまだあまりやられていなくて廃坑に持っていって埋め立てたり溶鉱炉で鉄に混ぜて合金にしたりしているのです」

溶媒抽出実験――本格的な都市鉱山になれば良いですね

 「日本は資源がないから、これをやっていかねばなりません。今後、需要が伸びるだろうから学生にもまだまだやりがいがある部分だから頑張ってやれといってます。
 
 化学はもともと宝探しの部分があります。理論だけではだめで実験で思わぬ結果がでることがある ノーベル化学賞の白川先生や田中さんのように失敗の中から凄いものがでてくることさえある。

 私は、試薬の構造をちょっと変えただけで金属がくっついたり離れたりする、そのへんのデザインが楽しいというか工夫しがいがあるというかということでやっています。」

 インタビューが終わって「面白いものをお見せしましょう」と映像を見せていただいた。そこには熱せられたビーカーの中で突然、色が白濁し3つの層に分かれる液体が映っていた。温度を上げると相変化を起す特殊な溶媒で、普通の溶媒では抽出できないようなものが抽出できる可能性があるという。某企業が開発したもので、藤永教授が長年にわたって溶媒を研究していることをインターネットで知り、「何かに使えないか」と持ち込まれたのだという。

 工夫する面白さを研究のエネルギーにし「溶媒」という道具を駆使していけば藤永教授も都市鉱山で思わぬ宝の山を発見するかもしれない。

 

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