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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

心身の健康を増進するシステムを

カテゴリ:メディア情報学科
2011.02.16
 

 メディア情報学科 鎌田 洋(かまだ ひろし) 教授 90年1月9日付けの読売新聞1面トップは「色や形も認識 考えて動くロボット 無人作業に実用化 富士通 世界に先がけ開発」の見出しで「富士通研究所が人間並みにモノや形や色を識別するだけでなく、状況に応じてどう行動すべきかを瞬時に判断できる知能ロボットの試作に成功した」ことを伝える記事だった。 

 当時、鎌田先生は富士通でこのロボットの開発グループに所属し、最先端の研究に加わっていた。09年、縁あってKITに来られた。

——先生はもともと数学を勉強したのですか?

 「はい、静岡大数学科を出て大学院は広島大に行きました.専門は群論です。富士通に入りましたが、数学科からコンピューターメーカーへというのはあまり正統的なコースではなく普通は工学部から入ります。

 入社の時はコンピュータのOSの開発部隊に入るような話があって、てっきりそちらに行くものと思っていました。新入社員の工場実習で日誌を付けさせられました。その中で大学時代に読んでいた文字認識を数学的に解析する話を書いておいたのです。

 そうしたら、その情報が研究所のほうに行って、研究所がたまたま数学的な素養のある人間を欲しかったようで、うまく結びついて、私は研究所に入ったのです。厳密に言うと、富士通研究所と株式会社富士通とは独立しているのですが、採用は全部富士通株式会社で、研究所へ出向という形になります」

鎌田先生の富士通研究所時代の研究テーマを自己紹介のスライドから列挙すると——

*画像理解(2次元画像からの3次元復元)
 *ロボットビジョン(知能自動車の目)
 *文書認識(手書き、印刷漢字)
 *パターン認識(タブレット入力図形認識)
 *CG(タイム・リアリスティック・ソフトウエア)
 *ヒューマンインターフェース(透明タブレット)
 *教育システム応用(外国人留学生用)

 ロボットビジョンはまさに冒頭、紹介した記事のテーマだ。追突を防ぐ自動車は最新型の自動車に応用されている。その他、3次元画像といい、iPadのようなタブレット端末といい、鎌田先生が研究してきたテーマは今、最もホットな技術と結びついている。

——これらの研究の中で一番、楽しくできたのはどれですか?

 「そういう意味では画像理解は結構好きにやらせていただきました。これは名古屋の中京大学の人工知能高等研究所というところのサテライトラボに1年間だけいたときにやったものです。この研究所は富士通だけでなくいろいろな企業から研究者がきていました。
 
 これはどのような研究かというと、ビデオカメラで撮った物体の2次元画像から3次元画像の物体モデルを復元できるというものです。それも人間が2次元画像の上の任意の点を選ぶだけでシステムが自動的に復元してくれるのです」

——富士通にいらした最後の10年間はR&D戦略室にいらして広報も担当していたそうですね。富士通は昔から技術の広報に熱心で「富士通のテクノロジー読本」という分かり易い本も出していました。

 「研究所全体の取りまとめみたいなところにおりました。自分で開発してモノを作ったりするわけではないのですけれど、大体どんな話なのかは分かります。広報だけでなく技術的なマネジメントですので、どこからどれだけお金を持ってきてどう使ってとか、そういうところまで見て整理するのです。

 そのような部署にいたので今まで、このインタビューに出てきた富士通出身の2人の先生方、竹島先生、松尾先生はKITに来る前から皆さん存じ上げていました」

目の賢さを生かすには

——KITでこれからどのような研究を目指していきますか?

 「会社でずっと仕事をしてきたので、少し一人の人間に戻って考えたいなという思いがあります。なかなか世の中いろいろなところで厳しいですよね。ですから人の幸せということに少し思うところがあって、平たくいえば人の役にたつモノをつくりたいと思っています。

 もちろん会社の仕事も役にたっていますが、もっと直接的に人の心に結びつくようなことができればと。特に精神的にも肉体的にも健康になるにはと考えています。心と体が2つの大きな柱です」

「人の役にたつものを作りたい」と話す鎌田先生——それはもちろんコンピュータを使ってということですね。

 「そうです。私にできることはそれですので。例えば、まだ試行錯誤している段階なのですが、画面の前で体を動かすと、そうするとそれに対応する絵が出てくる。その絵を見て感じるものがあれば、それを基にして動いてということを繰り返して、どんどん体を動かしたくなるような反応をするようなものを考えようと」

——良くゲームセンターなどで太鼓を叩いて盛り上がっていますね。

 「いろいろな応用があると思うのですけれど。例えば学生に北陸の学会で発表してもらったものは、画面の前で手を振るという単純なものです。元気よく振れば振るほど画面が明るくなります。逆に元気がないと少し暗い不快な画面になるというものです」

——基本的にはコンピュータに目になってもらうということですね。

 「人は目から多くの情報を見て判断して行動しているというのがベースにあって、それをコンピュータにもできるようにすると、いろいろ面白いことができるでしょうという発想なのです。

 人間の目というのは脳と結びついていてすごく賢いのです。それを人間は意識していませんけれども。その役にたつところを見つけるというところは一つの研究要素だと思うのです。体を動かすと反応を返してという話ともうちょっとダイナミックに走り回って全身運動みたいにするとか。さらにそれをゲーム化するような話とサイネージとか」

 サイネージとはsinageで街角の広告のこと。すでに自販機で買おうとする消費者を男か女か若いか年長かなどを判断しておススメ商品を示すものまで出ている。

 学生を指導する鎌田先生 鎌田先生が企業で得た技術の総合的な企画力とKITの若い学生たちの新鮮なアイデアが結びついて面白い開発が出てくることが期待できそうだ。

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