知的創造システム専攻・1期では、火曜日の夜に、上條由紀子准教授による「技術標準化要論1」を開講しています。本授業は毎週火曜日夜に2コマ連続で開講され(5・6限、18:45~22:00)、本日が最終回です(第15・16回)。
「技術標準化要論1」は、2009年度に新規開設した「国際標準化戦略プロフェショナルコース」の最も基本となる授業。全16コマの授業を通し、標準・標準化活動全般に関する基礎的な知識を習得することを目標とします。
上條准教授は2000年より太陽国際特許事務所の弁理士として標準化実務の第一線で活躍しながら、東京大学先端科学技術研究センターの特任研究員や慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の専任講師を歴任。2009年の本コース開設とともに本学の准教授に就任しました。
15回目の授業となる1コマ目のテーマは「技術標準と知的財産権の関係」。
「標準を設定することで、技術を『共有』し、その便益を広く社会にもたらすもの(市場の拡散)」である「技術標準」。これに対し、「新たな知を生み出した者に対し、一定期間の独占権を付与して技術開発や市場開発の誘因を高める、という『専有』による便益をもたらすもの(私的財産の保護)」である「知的財産権」。
両者ともイノベーションを促進し、産業の発展に寄与する点では共通していますが、「共有」と「専有」という一見相矛盾する性質を持っています。
この両者をどう調和させながら、特許権者が最適な収益をあげていくのか?実務においてはさまざまな試みがなされていますが、このコマではこの点について概観します。
内容の説明に入る前に、まず上條先生から受講生の皆さんに質問。「あなたが標準化できそうな特許技術を保有している場合、どういった戦略を取りますか?」。この問いに対し、受講生の皆さんが自身で考え、答え、そしてディスカッションに発展します。他の授業でもそうですが、本来受け身的に座学で進めがちな内容でも、常に考え、発言することが求められるのがK.I.T.虎ノ門大学院の授業の特徴。
こうやって受講生の皆さんが自分の考えをもった後に、内容の説明に入っていきます。
まずは、標準化組織(ANSIやISO/IEC、ITU、ETSIなど)の知的財産権政策について。過去、そして現在においても、まだ試行錯誤の段階ですが、その取組や課題について俯瞰します。
続いて、知的財産の標準化実務において、その価値を高めるために広く活用されている「パテントプール」の説明。
技術標準にはそれに関わる複数の特許権者(ライセンサー)が存在するため、当該技術標準を複数のライセンシーに広く拡散させる場合は、多くの交渉コストが発生し、結果として技術標準や個別の特許の価値を下げることになるという問題が起きます。
パテントプール制度は、この問題を解決する制度で、複数の特許権者がそれぞれの保有する特許などを一定の企業体や組織体に集中(プール)し一括管理することで、知的財差の効率的な活用を実現するものです。
...といったところで、あっという間に内容の濃い1コマ目(90分)が終了。標準化は実務の最前線でも試行錯誤が続く正解のない領域だけに、受動的に学習するだけでなく、自ら考えることも求められ大変ですが、大学院において標準化戦略人材育成を行う専門のコースは日本初であり、この授業から日本の標準化戦略の担い手が育つことを期待します。