KITでは多くの先生に留学経験がある。でも、そのほとんどが社会人になってからの企業派遣や研究者として一人前になってからの留学だ。田嶋先生はまだ博士課程の学生の時にフランス政府の給費留学生という珍しい留学を経験されている。しかも行かれたのがトゥールーズという日本人にはあまり馴染みのない都市にある国立の研究所だ。田嶋先生にはそのいきさつからうかがった。
——先生は北海道大学から直接フランスのトゥールーズ国立科学研究センター(CNRS、http://www.cnrs.fr/index.php )に留学されたのですか?
「ちょうど学部1年生の時に日本全国で大学紛争という騒ぎがありました。あちこちの大学で学生がストライキや授業ボイコットをしたのです。北大でも入学式が中止になって授業も4月からなくなってしまいました。そこで部活でもやろうかと思っていたところに、たまたまフランス語研究会が勧誘にきまして、それでちょっとフランス語をやったら、英語よりも面白そうだということで、そのまま入ってしまいました。
そのフランス語研究会の2、3年上の先輩が、フランス政府給費留学生というのを受けてフランスに行ったのです。先輩が行ったので自分もと試験を受け、幸い奨学金をいただくことができ、博士課程に入ってから1年の予定で行きました」
——トゥールーズというのは名前だけ聞いたことがあるような気がしますが。
「日本人にとって一番馴染みがあるのはサッカー・ワールドカップで98年に日本が初出場、初試合をした都市としてです。
フランス南部のスペインとの国境から100kmくらい北に上がったところで地中海と大西洋との中間点ぐらいです。フランスの航空産業の一大拠点都市でエアバスの本社、工場がありますし、ひと昔前はこの街で超音速旅客機コンコルドを造っていました。
北大では自動制御工学講座にいたので、いろいろ文献を調べてトゥールーズに政府系の研究所がいっぱいありまして、その中で制御工学専門の研究所長に手紙を書いてお世話になったのです」
——観光的にはどうですか?
「歴史も古く昔はスペイン系やイスラム系の文化があって、すごく良いところですよ。屋根が赤いレンガで統一されていて。
ただ、私は海外どころか自宅から出て生活するのも初めてで。ちょっと情けない話ですがすぐホームシックになってしまいました。24時間フランス語ですし、街も金沢と同じくらいの人口だったと思うのですが日本人は4−5人しか会いませんでした。一年の予定を早めに切り上げて日本に帰ってきてしまいました」
——それは残念でした。それでまた北大に戻られてどのような研究を続けられたのですか?
「ちょっと抽象的な話で分かりにくいのですが、システムアイデンティフィケーションといって、制御工学のダイナミックシステムの数学モデルです。インプットデータとアウトプットデータがあれば微分方程式でシステムのモデルを推定できますよ、という研究です」
——その後は富士通の国際情報社会科学研究所に入社されます。KITでは竹島卓先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2009/06/post-13.html )、松尾和洋先生( http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2010/05/post-32.html )がこの研究所のご出身ですね。そこではどんな研究を?