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小泉成史 (こいずみ せいし)
早稲田大学理工修士。1974年読売新聞入社。1984年マサチューセッツ工科大学ヴァヌ―バー・ブッシュ・フェロー。米国歴史博物館客員研究員。2002-06年テレビ朝日コメンテーター。03年より金沢工業大学客員教授。著書「おススメ博物館」(文春新書)など。

2008年12月 アーカイブ

応用バイオ学科 袴田 佳宏准教授

納豆は人類を救う!

 ウエッブで「納豆」を検索していたら「納豆学会」という「ハーフ・シリアス、ハーフ・ギャグ」と自称する"学会"のホーム・ページが出てきた。学術学会ではなく、かといって「トンでも」系でもない、新潟県の熱心な納豆ファンによる納豆私設応援団のようだ。この学会のキャッチフレーズが「納豆は人類を救う!」

 バイオ・化学部応用バイオ学科の袴田佳宏准教授の納豆菌の研究はうまく行けば、人類とまで行かなくても日本人を救うことになる。袴田准教授は納豆菌を大量に培養して飼料として利用することを目指しているからだ。

 今、世界的に家畜の飼料が高騰している。影響を受けてスーパーや食肉店の豚肉や牛肉が確実に値上がりしている。食肉を取った後の動物の体を粉砕してつくる肉骨粉などの動物性飼料はBSE問題などで使用量が減少している。一方、植物性肥料の元となる穀物はバイオ燃料としての需要が高まり、価格が高騰してしまっている。日本は飼料をほとんど輸入しているのでリスクを負ってしまっている。どこの国も自国優先だ。この先、天候不順などで日本がいくら金を出しても飼料が入手できなくなる可能性は高まるばかりだ。

 しかし、納豆菌を大量に培養できれば安全で安心な飼料を自国でまかなえることになる。

――なぜ納豆菌に目をつけられたのですか?

 「金沢工大に来る前、18年間、花王の研究所で洗剤に入れる酵素の開発をしていました。酵素は枯草菌(こそうきん)という細菌に作らせるのですが、この菌体が大量にとれるのですが使った後は廃棄されています。

 何かに利用できないかといつも思っていました。メーカーではそのような研究はできませんので、金沢工大に来て研究しようと考えたのです。納豆菌は枯草菌の仲間というか親戚みたいなものです。枯草菌の培養技術を生かして納豆菌を安く大量に取れれば肥料や家畜用の飼料になります」

――どうやって増やすのですか?

 「納豆は安全な食品で千年以上食べられています。市販納豆の1パック中に菌は数十億個もいます。栄養源は高価では意味ありません。今は近くの納豆メーカーから大豆の煮汁をもらってきています。

 大豆の煮汁はとろみがあって、ものすごい栄養価があります。この煮汁の中で大量に培養したあと乾燥して破砕します。問題はコストでより安く作るのが課題です。そのためにはより増殖しやすい変位株を見つけることが重要となります。」 

  機械工学科 諏訪部教授 長い間、新聞社で科学技術の記事を書いていた。その間、最先端の素子やチップ加工の話題を書いたことは何度もある。しかし、そのチップの基となるウエハーをどうやって切り出しているのか全く知らなかった。不明の極みである。
 
 ウエハーはシリコンなどの半導体素材の種結晶を円柱状に成長させたインゴット(塊)を薄くスライスしたものだ。そのことは知識として知っていても具体的にどうやってスライスしているのか思いが至らなかったのである。

 諏訪部仁教授の研究室でその切断装置を初めて見せてもらってびっくりした。マルチワイヤソー(MWS)と呼ばれるもので、細いピアノ線(ワイヤー)が何個もあるプーリーにかけられ、一定の間隔で平行に高速で往復運動をしている。そこにインゴットを押し当てて砥粒(みがき粉のようなもの)と特殊な切断液をかけて一気に切っていく。一度に何枚ものスライスが得られ、切断除去量(切りクズ)が少なく、いつも新鮮なワイヤーが供給されるので精度が高い加工ができるなどの長所があり、スライシングの主流となっている。

 メカニズムはちょっと異なるが、ゆで卵のスライサーをイメージすると良い。ゆで卵はやわらかいので、金属線に押し当てるだけできれいに切れるが、シリコンはそうはいかない。そこで、金属線が高速で動いて切るわけだ。

―――こんな機械、誰が作ったのですか?

 「1960年代にフランスで発明されて、60年代後半に当時の電気試験所(現・産業技術総合研究所)に技術導入し、データを取って研究が始まりました。以後、あちこちで開発が進み様々なメーカーが作っています。最初はピアノ線で切るというので精度が悪く、でかいものは切れないと思われていたんですが、切れるとわかりブレークスルーとなったのです」

 なるほど「マルチワイヤーソー」で検索すると、製造会社がいくらでも出てくる。しかし、正確にフランスのどんな人間がどうやって発明したかといった歴史的著述があるものはない。これは調べ甲斐がありそうだ。