河野先生は今までに3回、研究分野を大きく変えているという。最初は酸化物、次は高分子材料、そして今は電池。新しい分野に入っていく時には勇気がいるが、やってみると面白いので学生たちにもどんどん挑戦することを勧めている。
――先生が科学技術の道に進まれたきっかけは?
「中学生の頃にNHKの科学番組アインシュタインロマンを見て面白いと思ったのです。一番興味を持ったのは宇宙ですね。小学校3年の頃に親が小さい天体望遠鏡を買ってくれて、それで星とかを見るのが好きでした。家は九州の田舎だったので星は綺麗でした。」
――でも、天体物理を専門にはできなくて・・・
「で、私が学位を取ったのは材料関係なのですけれども、それは全て昔の宇宙の不思議に目覚めたことからきていると思います。
モーターとか制御とか、そういうモノづくりよりも、物質の本来の姿を追求すると言える材料などに興味を持っていました。半導体の本質は何かといった具合です。
正直に言うと当初は電気回路とかはあまり好きでなかったです。ものすごく人為的な感じがして。それよりも原子、電子とかの世界に興味がありました。」
――その方向で研究をしていらして、学位論文が「高導電性透明酸化物薄膜の熱電子励起プラズマスパッタ法による形成と電子物性に関する研究」という結果になるわけですね。これをオープンキャンパスで見学に来た高校生に分かりやすく説明すると、どうなるのですか?
「分かりやすく言うと、液晶ディスプレイとか太陽電池に使う透明な電極を作ることです。太陽電池ですと、電気は外に出さないといけませんよね。でも光を入れないと発電できません。つまり、透明でかつ電気を取り出せるように導電性がなければいけません。
そうした性質を持つ薄い膜を作る方法がプラズマスパッタ法です。薄さ200nm(1nmは10億分の1m)と非常に薄いので、材料を削ってではできません。
プラズマと呼ばれるものすごくエネルギーの高いイオンを原料になる固体にバーンとぶつけるのです。そうすると原料がいったん、原子、分子レベルまでバラバラになるので、それを基板と言われる土台の上にバーッと散らして作るのです。散らすことを英語でスパッタ(sputter)というのです」
――なるほど。
「透明で電気を通すというのは実は全く反対の性質なのです。電流をよく流す物は基本的にはキンキラキン、光を反射する金属のように見えます。一方、透明なものは電気を通しません。その二つの相反する性質が両立できるような材料を持ってきて、後は半導体の製造技術で培われてきたドーピングという不純物を少し入れる操作をやってやると出来上がるのです。
酸化亜鉛で、この特性が出るというのはKITの南 内嗣(みなみ ただつぐ)先生が最初に発見されたと思います。九州にいた頃から南先生の論文を読んで勉強していました」
――その縁で先生はKITに来られたのですか?