「都市鉱山」という新しい言葉が注目されている。ゴミとして捨てられている使用済み携帯電話やPC、家電製品などの中に含まれている有用な資源(金、レアメタルなど)を回収し有効活用しようという動きだ。ゴミの山が新たな「鉱山」として生まれ変わるわけだ。
独立行政法人、物質・材料研究機構が2008年1月に発表した推定によると、日本の都市鉱山はすでに世界有数の資源国に匹敵するほどの規模になっているという。例えば金は約6,800トンと世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%にあたる。銀は約60,000トンと約22%にもなる。さらにインジウム61%、スズ11%と一割以上の金属が続く。資源の少ないといわれる日本だが都市鉱山に注目すれば世界有数の資源国となる。
さて、この「都市鉱山」から具体的に金属を"掘り出す"にはどうするのだろうか? ゴミとなった携帯やPCの一台一台に含まれている金属はごく微量である。
そこで登場するのが藤永教授の専門とする溶媒抽出の技術だ。溶媒抽出は分析化学の古典的手法だ。固体または液体に適当な溶媒を加え、その溶媒に溶ける成分を溶かし出す分離法である。溶媒には水,酸、アルカリ、アルコールなど様々な液体が使われる。衣類についた汚れをベンジンで取るシミ抜きは溶媒抽出の一種だ。汚れをベンジンという溶媒に溶け込ませ抽出するからである。
藤永教授と溶媒抽出の出会いは25年近く前にさかのぼる。藤永教授は当時在籍していた島根大学から米国ツーソンにあるアリゾナ大学に留学した。そこで出会ったのが溶媒抽出の世界的権威であるヘンリー・フライザー教授。教授の下で約1年間、溶媒抽出を研究した。その時、一緒にいた日本人研究者がKITの小松優教授で、その縁でKITに来ることになった。
米国で溶媒抽出が盛んな理由は原子力で必須の技術だからだ。原子力発電所で燃やされた使用済み核燃料には核反応で生まれた多くの核分裂生成物が含まれている。この中から有用なプルトニウムやウランを取り出して再び利用するのが「再処理」と呼ばれる技術。日本では青森県で大規模な再処理工場が稼動準備中だ。ここでは使用済み燃料を細かく裁断した後、硫酸に溶かし何回もの複雑な溶媒抽出の工程でプルトニウムなどをとりだしていく。