東日本大震災の報道で何度も登場した研究者の一人に片田敏孝・群馬大学教授がいる。片田教授は釜石市の小中学生に型通りではなく自分で状況を判断し避難する方法を教え、何人もの命を救った人だ。
一方、今回登場の谷先生はゼネコンの清水建設で海外の大型プロジェクトを手がけてきた経験のある都市計画の専門家。驚いたことに、谷先生は以前から片田教授と“考え方を共有”し繫がりがあるという。意外な繫がりの背景をうかがった。
——先生の研究室は徹底した実務派と聞いています。
「私はもともと学者になろうとずっと思ってきた人間ではないので、今更、学者、学者した学者になる気はないのです。より実践的なことをするのが私の強みと思っていますので、自分の仕事も象牙の塔みたいなものは一切しないつもりです。ですから、研究をするにしても、それがどう社会に生きるかということを常に前提としています。
よくある学生のお調べごとのよう研究はやっても無駄だと。今、うちの研究室では安全マップを作っていますが、これはある小学校から依頼されてやっているわけです。学生も小学校のPTAの会に出て行って一緒に議論します。調査をするときにも学校の父兄とか子どもと一緒に調査してすべて実践的にやってます」
——それはユニークですね。
「こういうことをやっている人は少ないです。ただ注意しなければならないこともあります。防災とかまちづくりというとにわか専門家が多くて。
例えば今回のような地震とか水害とかがあると、すぐハード屋さんが出てきてもっと堤防を高くしましょうと、そういう仕事の話に持っていてしまうのです。実際は違うだろうと。今回の津波でも堤防は一定までの役割しかしないのです。その後はやはりソフトで守っていかないといけない」
——ソフトというと、やはり効果的な避難訓練とかですか?
「そうですね。まず避難教育をしっかりするということです。群馬大の片田さんはテレビに何回も出てきていてご存知のかたも多いでしょう。片田さんは釜石市の防災計画もやっていて、要するにどこに避難しなさいという教え方ではなくて、こういう場合にはこういう行動をとりなさいという教育をしてきたのですよ。
だから、本来、避難する場所に避難したら助からなかったのに、引率の先生が機転を利かして、もう一段上のところに逃げたので助かったのです。あれはやはり片田さんならではの教えです。実は片田さんは私と同じような考えをもっている方で個人的にも知っているのです。
教育とかプログラムとかが本当は一番大事なのですが、それよりも防潮堤や堤防にお金がポンとついて、そっちの学者の方が幅を利かせているというのが現実ですね」
——日本はどうしてもソフトよりハードが優先される。