「研究者にとって、研究予算に恵まれるのは誠にありがたいことである。必要な設備、装置を整えることができ、意志の赴くままに研究が進められる。しかし、改めて研究を見つめ直し、よくよく考えてみると"研究者がすごいのではなくて、実験装置がすごいだけじゃないか"と思えてしまう研究も少なくない。きわめて高価な実験設備で得た研究成果の背景に、研究者自身のアイデア、独創性といったものが全くみえてこないのだ」
この大胆ともとれる発言は露本准教授が09年に仲間の研究者と書いた「よみがえれ!科学者魂――研究はひらめきと寄り道だ――」(丸善株式会社、著者:佐々木聡氏らと共著)からの引用だ。露本准教授はさらに続ける。
「公的資金から拠出された大型予算で研究を進める場合、当初提案した研究目的を達成することが求められ、失敗はもちろん許されないし、わき道にそれることも許されない。研究の途中で見つけた偶然の産物、輝けば光る宝物を捨てていかざるを得ないのである。このような硬直した研究環境では、研究者自身のアイデアを生かすどころか、研究は単純労働となり、研究員は作業員と化してしまう。
当初の研究目的を達成することは重要であるが、研究者自身のアイデアを生かせる風土、セレンディピティを尊重する姿勢も大切である」
"セレンディピティ"(serendipity)とは偶然発見したモノの価値を正しく評価できる能力のことだ。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏や白川英樹博士は失敗したと思われた実験から賞につながる大発見をしたことで有名だ。
この著書での発言のように露本准教授は日本の研究者には珍しくはっきりとモノを言うタイプとお見受けした。この本は専門書ではなく一般人向きだが、露本准教授は以前にも「図解雑学 ダイオキシン」(ナツメ社刊)という、もっと易しい解説書を書いている。さらには共著だが「うんちとおしっこの100不思議」(東京書籍刊)などというのもある。廃棄物関連の研究をしていた時に書いたという。研究室には専門書の他に講談社の科学入門書ブルーバックス・シリーズなどがずらりと並んでいる。
「もうかるわけではないので(笑)、ほとんど趣味の領域ですが、いろいろな人に科学を普及させるという意味では重要ですから」
日本では専門の論文以外のこうした本は研究者の業績として評価されないが、米国では科学普及の功績として評価されるという。日本もこうした普及活動をきちんと評価すべきだろう。
――研究は多方面にわたっていますが。