透明導電膜という材料がある。世界中のメーカーが熾烈なトップ争いを繰り広げている液晶テレビのディスプレーや太陽電池になくてはならない材料だ。それ自体で製品として売られていないので重要な割には一般市民にはあまり知られていない。
この膜、その名のとおり透明(光を通す)なのに電気も通すという面白い性質を持っている。電気を通す代表は金属だが、普通、金属は光を通さない。また透明なものもガラスのように電気を通さないのが普通。ところがある種の金属の酸化物は透明なのに電気を通すのだ。
液晶は電圧を掛けられることで変化し光を通すので、電極が透明でないとディスプレーとして見えないわけだ。また太陽電池も光を通す電極があるからこそ電気を外に取り出せる。
この透明導電膜、今までほとんど酸化インジウムが使われてきた。しかし、このインジウム、ほとんどが中国からの輸入に頼っている。宮田教授は同じく電気電子工学科所属の南内嗣教授と共にインジウムに替えて豊富な亜鉛を使うプロジェクトを推進中だ。経済産業省の希少金属代替材料開発プロジェクトに07年から採択されている。
――時代の潮流の研究ですね?
「実はこの研究はKITの南内嗣先生が20年以上も前に始めていたのです。私は当時まだ学生でした。南先生は1984年に世界で最初に酸化亜鉛を使って、酸化インジウム並みの非常に高い導電性と光透過性を実現させ論文発表をしたのです。当時、酸化亜鉛で透明導電膜を開発している人は世界に極僅かでした」
――実用化が難しかったのでしょうか?
「そんなことはありません。われわれは90年代前半には基本的な技術はすべてクリアしていました。何度も学会で発表し、新聞発表もしましたし特許も持っています。でもメーカーが使ってくれないのです。インジウムの技術が確立し、いくらでも輸入できましたから」
――あえて新しい技術を使う必要がなかったわけですね。
「われわれも稀少金属の代替とはいわなかったのです。ただ、亜鉛はインジウムに比べて値段は百分の一、非常に安いですよと。インジウムは重金属ですけど亜鉛はおしろいに使われているくらい人体に優しい材料ですとか。もちろん埋蔵量も多いので資源的な問題もないと言ったのですが。当時は資源ナショナリズムもなかったので、やはり早すぎたのですね。ようやく時代が追いついてきたということです」
――インジウムは中国以外では産出しないのですか?