ちょっと前は「情報爆発」、最近では「ビッグデータ」など、膨大な情報をどう扱うかは社会的な問題となっている。中でも、効率良く必要な情報を取り出す(データ)マイニング(mining)という技術は最も注目されている。長田先生は長い間、富士通研究所でコンピュータの応用研究に携わり、KITの現在ではマイニングにも挑戦している。
——先生は九州の高校から東京工業大に進まれていますが、東工大を選んだのは?
「東京に出たかったのが正直なところではないでしょうか(笑)。あとロボットに興味があったのでロボット研究の盛んだった東工大を選んだのです。
私の恩師は梅谷陽二先生という方で、生物の動きを模倣したロボットで有名です。例えばヘビの動きは、きれいな数学的に定義できる曲線で動いているのです。研究室では、それを観察するために漢方薬屋からシマヘビを買ってきたりしていました。走行実験では、ヘビをつかんで走らせなければいけないのですが、私はヘビが苦手でつかめなかったんです(笑)。それで私はモノを見分けるパターン認識の方をやらせてもらいました。
もともとロボットのメカというより、制御とかビジョン、あるいは脳とかに興味があったのです」
——卒業して77年に富士通研究所に入社されています。
「パターン認識の研究はずっと続けて行きたいと思っていました。パターン認識は発展すればロボットの目、視覚になります。視覚処理とパターン認識というのは近い分野でかけ離れていません。当時、富士通は旧通産省(現 経済産業省)の大型プロジェクトで、OCR(optical character reader), 光学的文字認識装置で手書き文字の認識を担当していました。そこらへんの研究も続けられたらと富士通研究所に入ったのです」
OCRは手書き文字や印字された文字を光学的に読み取って、前もって記憶されたパターンとの照合により文字を特定し文字データとして認識する技術。今ではパソコンにも付属する一般的な技術だが当時は最先端の技術開発だった。
また大型プロジェクト(大プロ)は旧通産省が音頭をとった官民あげての研究開発制度。人工知能開発を目指した「第五世代コンピュータ」(82年開始)などが有名だ。
——第五世代などの大プロは成果は別としてアメリカを驚かせるほどのインパクトがありましたが、最近はあまり話題になりません。日本の技術力というか国力の反映でしょうか?
「どうなのでしょう。私はKITに来る前、情報大航海という経産省のプロジェクトにかかわっていたのですが、あれも大型プロジェクトという感じではありませんでした」
——入社時の話に戻りますが、OCRの後は?
「大プロは1年あまりで終わりました。それで文字の次は図形とか画像だろうということで、タイミング良く自分の新しい研究と以前から研究していたことが重なったので好きなことをやれました。
まずやったのは文字から図面ということです。当時のCADのシステムは現在のように設計者が直接、インタラクティブに設計できません。設計者がまず設計図を鉛筆で製図機械にて描くのです。それをオペレーターに渡し、オペレーターがデジタイザーという機械で拾ってコンピュータにインプットするという、めんどくさいことをやっていたのです。
それを設計者が描いた図面を自動的にスキャンし、認識してコンピュータに自動入力させる。オペレーターの替わりをする、そういうシステムをやりました」
——お使いになっていたコンピュータは大型、いわゆるメインフレームですか?