ABUロボコン2010会場:金沢工業大学ホームページ(http://www.kitnet.jp/news/index.cgi/id/00468/)から転載
夢考房の竹田技師からABUアジア・太平洋ロボットコンテストに関する記事を寄稿して頂きましたので紹介します.参加した学生の一人に聞いたところ,練習で与えられたブロックは本来同じ大きさでなければいけないのに,10cm以上バラバラの規格外でロボットが掴むことができずまともな練習ができず本番に臨んだそうです.日本では全く想定できません.世界は広いと話していました.これでその学生の視野もまた一つ広がったことでしょう.
なお,中国が大会4連覇です.それにしても中国は強いですね.ロボコン発祥国,日本としては是非とも来年は中国の5連覇を阻止してもらいたいと思います.夢考房チームならきっとやってくれるでしょう.
なお,ABUロボコン2010は11月3日(水)午前9時からNHK総合で放映されます.お見逃しなく!
参考リンク
出村
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夢考房ロボットプロジェクトは、「NHK大学ロボコン2010」で優勝し、世界大会である「ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト2010エジプト大会」に昨年度に引き続き2年連続で出場した。本大会は、ABU(Asia-Pacific Broadcasting Union:アジア太平洋放送連合)に加盟しているアジア・太平洋地域の国と地域から選抜された、大学・工科大学の学生による代表チームが、与えられた競技課題に従って自らのアイデアとチームワークを駆使してロボットを製作し、競技を通じて技術力と独創力を競う、全く新しいユニークなコンセプトの国際的教育イベントである。ABUは、1964年に設立され、2009年8月現在、58の国と地域で、200以上の放送機関等が加盟しており、本大会には、予選を勝ち抜いた、16の国と地域から、17のチームが参集し、熱戦を繰り広げた。出場した国と地域、大学名およびチーム名を表1に示す。
表1 出場国・地域および出場大学/チーム名
番号 |
国・地域 |
出場大学 |
チーム名 |
1 |
ブルネイ |
ブルネイ・ダルサラーム大学 |
SAMOT GenNEXT |
2 |
中国 |
電子科技大学 |
Fighters. UESTC. |
3 |
エジプト |
テンス・オブ・ラマダンシティ工科大学 |
El Sedeek |
テンス・オブ・ラマダンシティ工科大学 |
Al Farouk |
||
4 |
フィジー |
南太平洋大学 |
Pac-Sea MATAI |
5 |
香港 |
香港専業教育学院 |
Autobots Fighter |
6 |
インド |
マハラシュトラ工科大学 |
MAHARASHTRA INSTITUE OF TECHNOLOGY |
7 |
インドネシア |
スラバヤ電子工学ポリテクニック |
Mio-rEi |
8 |
日本 |
金沢工業大学 |
SOTEN |
9 |
マレーシア |
マレーシア工科大学 |
UTM Malaysia |
10 |
モンゴル |
モンゴル国立大学 |
SOYOMBO |
11 |
ネパール |
トリブバン大学 |
T.U.,I.O.E. |
12 |
パキスタン |
タキシラ工科大学付属工学高等研究センター |
Persistent Persuader |
13 |
サウジアラビア |
キング・アブドゥルアジーズ大学 |
The Challenger |
14 |
スリランカ |
モラトワ大学 |
Mora |
15 |
タイ |
トゥラキット・バンディット大学 |
LUK JAO MAE KHLONG PRAPA THE OMEGA3 |
16 |
ベトナム |
ラクホン大学 |
LHLED |
本大会のテーマは「ロボ・ファラオ ピラミッドを築け」で、開催国エジプトで有名なキザの三大ピラミッドを題材としたもので、手動ロボット1台と自動ロボット2~3台で三つのピラミッドを築くもので、日本国内の代表選考会である「NHK大学ロボコン2010」のテーマと同じものである。(ピラミッドの構築法、得点など、詳細に付いては、旦月会平成22年7月号の6ページを参照されたい。)
大会は、2010年9月19日のオリエンテーションに始まり、20日に開梱、ロボット組み立て、検査、テストラン、21日に予選リーグ及び決勝トーナメントがあり、22日の技術交流会を経て、23日午前中に解散というスケジュールで行われた。会場は、エジプトのカイロ国際スタジアム室内競技場No.2ホールとのことであった。現地では、20日、21日と滞在ホテルと会場間をバスで移動し、会場の状況が良く分からなかったものの、ホームページによれば、カイロ国際スタジアムは、約74000人を収容するサッカー競技場を中心にホッケー、テニス、スカッシュ、プール、乗馬などの専用競技場を持ったスポーツ施設で、その一角に4つのホールを持つ室内競技場があり、No.2ホールとは、その中で2番目の大きさで収容人員1000名以上を収容するホールであった。また、No.3ホールに練習用のコートが設置されており、申請順とは言え練習することが可能となっていた。
20日、会場到着後、去る8月6日に日本から発送したロボット梱包箱に向き合い、中身に異常がないことを祈りつつ開梱、しかし、防錆のために使用した圧縮袋は無残にも切り裂かれ、不安な面持ちで、ロボットの組み立てを進めた。幸いにも、錆、損傷等はなく、約1時間で無事組み上げることができた。この間、予選リーグのくじ引きによる抽選が行われた。大会前に大会事務局へ送られてきた各チームのビデオを審査した結果、開催国であるエジプトの2チームと中国、香港、タイそして本学(日本)がシードされることが、前日のオリエンテーションで分かっており、常に大会において上位を占めているベトナムがなぜシードされていないのか、疑問に思いつつ、この抽選会迎えていた。予選リーグは、A~Fの6グループに分けられ、最初にシードされたチームの抽選があり、本学はDグループの1番目になった。その後、各チームが抽選を行った結果、本学は4試合目にマレーシアと、10試合目にベトナムと対戦することになった。また、本大会での決勝トーナメントは、各グループの1位6チームと予選リーグの合計得点の最も高いチームを基本として選ばれるワイルドカード2チームの8チームにより争われるが、対戦表はすでに決定されていた。抽選会が終了し、昼食後にロボットの検査があったが、これも順番が決まっており、本学は、9番目に検査を受けた。その後、検査に合格したチームより、申し出順にテストランを行った。
練習用コートで行われた最初のテストランで、ピラミッドを築くブロックが、国内大会で使用されたものと大きく違うことが判明した。ブロックの違いについては、当然有りえる事と考え、ある程度の誤差は許容できる体制で準備してきたものの、想定の範囲を超えていた。特に、国内予選では最高水準にあり、手動であるが故に、ブロックの違いにも十分対応可能と考えていた手動ロボットでさえ、ブロックを積み上げることができず、大きなショックを受けて最初のテストランを終了した。
二回目以降のテストランは申請順により時間が許すまで可能とのことで、ロボットの調整をしつつ、テストランを数回行った。調整の結果、手動ロボットおよび第2ピラミッドを構築する自動ロボットは、ある程度調整ができ、タイミングによってはブロックを積み上げることが可能になり、ピラミッドの頂上に置くゴールデンブロックも定位置に置くことができるようになったものの、第3ピラミッドを構築する自動ロボットの調整が十分にできない状態であった。これは、本学のテストラン時、自動ロボットの制御を担当している中島君が、メンバーのリーダーであることから、リーダーミーティングやリハーサル等とかち合い、自動ロボットの調整どころか、ロボットの現状を把握することすらできない状況であったためである。21日の試合当日、ロボットの計量を行う間にテストランが可能との情報を信じ、不安を抱えたまま20日の作業を終えた。
21日、本番の日を迎え、会場に到着、計量が予定されていたが、その前にテストランが可能とのことで、昨日不良であった第3ピラミッド用の自動ロボットのテストランを行った。昨日、ホテルに帰ってから、プログラムの一部を修正したため、その効果を確認するためである。結果は、完璧というには程遠いものの、昨日に比較すれば修正した効果はあり、いくらかの期待を持てる結果となった。その後、各ロボットの重量と大きさの計量が行われ、そのまま待機、本番の試合を迎えた。
本学の1試合目は赤チームで対マレーシア戦である。試合開始は順調に進み、手動ロボットが順調に1段目のブロックを積んだが、2段目用のブロックを取る際、滑り止めの部材の一部がはがれ、2段目を積む際、ブロックが回転し、そのままでは積むことができないところを、1段目のブロックの端にて、ブロックの回転を制御し、どうにか2段目を積むことができた。その後、3段目を積み、ゴールデンブロックを頂上に置いて22点を獲得、第2ピラミッドの構築へと移った。第2ピラミッドは順調には行かず、双方、リトライを行ったが、本学が1段目のブロックを積んだとき、マレーシアはゴールデンブロックを第2ピラミッドの頂上に置き、44点を獲得された。第3ピラミッドは双方得点できず、結果は51対28にて本学の敗戦となった。
日本国内の大会では、試合終了後ピットエリアへ戻り、ロボットを青チーム用に変更し、次の試合の待機場所へ移動するまで、プログラムや機構の調整が行えた。しかし、今回は、試合会場であるNo.2ホールからピットエリアが遠く、かつ、青チーム用にロボットを変更した後にすぐ、重量や大きさの計量が行われ、その後、No.2ホール近辺で待機することを要求されたため、ロボットの調整ができないまま、第2試合のベトナム戦を迎えた。
第2試合も開始は順調であったが、手動ロボットについて、本学が3回で全ブロックを積むのに対して、ベトナムは2回で全ブロックを積む方式であり、本学が3段目を積もうとした時点でベトナムはゴールデンブロックを第1ピラミッドの頂上に置き、22点を獲得された。その後、試合は第2ピラミッドの構築に移ったが、双方、リトライを繰り返すのみで、得点できず、第3ピラミッドの構築のフェーズでもお互いに得点できぬまま試合は終了、22対7で本学の敗戦となった。
本大会では、ワイルドカードが2枚有り、各グループの1位以外、総合得点で高い順にワイルドカードを貰えるとのことで、この時点では、2枚目のワイルドカードを貰える可能性が残っていた。しかしながら、12試合目の香港対モンゴル戦で、モンゴルが26対3で香港に勝ち、総合得点38点となり、本学の35点を抜き、2枚目のワイルドカードを取得し、本学の決勝トーナメント進出は不可能となった。予選リーグの組み合わせと勝敗は表2に示すとおりである。
予選リーグで2試合とも「ロボ・ファラオ」となり圧倒的強さを示した中国は、決勝トーナメントでもその力を遺憾なく発揮し、準々決勝では「ロボ・ファラオ」になれなかったものの、準決勝戦でエジプトを「ロボ・ファラオ」で下し、決勝戦でもベトナムを寄せ付けない強さで優勝した。決勝トーナメントの組み合わせと勝敗を図1に示す。大会終了にあたり各賞の発表があり、本学は、ロボット製作における高度な技術が評価され、「ベスト・エンジニアリング賞」を受賞した。なお、ロボコン大賞は中国が受賞した。
今回、昨年度に引き続き、2年連続で「ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト」に出場することができ、各国のロボットを間近に見ることができた。本学のロボットは精度良く作られているものの輸送を考慮すると、再組み立て後、ロボットの性能を十分に引き出すにはかなりの時間、調整する必要があるところに欠点があるように感じられる。また、決められた重量の中でモータの占める比重が多きことから、部材を軽くする必要があり、一気に大量のブロックを運ぶことが難しくなることや、電気回路に余裕がなく、作動回数を制限する必要があるなどの問題点も有った。今後は、モータに変わる軽量な動力源を検討することや、電気的に余裕を持った設計により、精密性の追求よりも、再現性の追及に重点多き、信頼性を向上させたロボットの製作に移行する必要があると感じた。最後に、本大会へ出場できたのも、練習場所の提供や、夜間に亘る作業の安全確保など、教職員の皆様のご協力をいただいたためと、深く感謝いたし、ここに、厚く御礼申し上げる。
(プロジェクト教育センター夢考房 竹田龍一)
表2 予選リーグの組み合わせと勝敗
Aグループ |
第1試合 |
第2試合 |
第3試合 |
|
1 |
エジプト(El Sedeek) |
○(53) |
○(12) |
|
2 |
フィジー |
●( 0) |
|
-( 0) |
3 |
サウジアラビア |
|
●( 0) |
-( 0) |
Bグループ |
第1試合 |
第2試合 |
第3試合 |
|
1 |
タイ |
○(47) |
○(64) |
|
2 |
パキスタン |
●( 3) |
|
○( 4) |
3 |
インド |
|
●( 1) |
○( 1) |
Cグループ |
第1試合 |
第2試合 |
第3試合 |
|
1 |
中国 |
○(120) |
○(120) |
|
2 |
ネパール |
●( 1) |
|
●( 7) |
3 |
インドネシア |
|
●( 7) |
○(22) |
Dグループ |
第1試合 |
第2試合 |
第3試合 |
|
1 |
日本 |
●(28) |
●( 7) |
|
2 |
マレーシア |
○(51) |
|
●(51) |
3 |
ベトナム |
|
○(22) |
○(70) |
Eグループ |
第1試合 |
第2試合 |
第3試合 |
|
1 |
エジプト(Al Farouk ) |
○(33) |
○(26) |
|
2 |
スリランカ |
●( 1) |
|
●( 1) |
3 |
ブルネイ |
|
●(0) |
○( 3) |
Fグループ |
第1試合 |
第2試合 |
|
1 |
香港 |
○(36) |
●( 3) |
2 |
モンゴル |
●(12) |
○(26) |
Aグループ1位 |
エジプト(El Sedeek) |
○(60) |
●( 6) |
○(80) |
|
準々決勝 第1試合 |
|||||
Bグループ1位 |
タイ |
準決勝 第1試合 |
|||
●(45) ○(46) |
|||||
Cグループ1位 |
中国 |
決勝 |
|||
準々決勝 第2試合 |
|||||
ワイルド カード1 |
モンゴル |
○(120)
○(66) |
|||
●( 3) ○(22) |
|||||
Dグループ1位 |
ベトナム |
||||
準々決勝 第3試合 |
|||||
Eグループ1位 |
エジプト(Al Farouk ) |
準決勝 第2試合 |
|||
●(12) ○(15) |
|||||
Fグループ1位 |
香港 |
●(14) |
|||
準々決勝 第4試合 |
|||||
ワイルド カード2 |
マレーシア |
●( 7) |
|||
●(12) |
|
図1 決勝トーナメントの組み合わせと勝敗
表3 大会参加者一覧
役割 |
氏名 |
学科 |
学年 |
備考 |
チーム メンバー |
中島貴志 |
ロボティクス学科 |
4年 |
写真の前列右側 |
杉山 卓 |
ロボティクス学科 |
3年 |
写真の中列右側 |
|
竹本賢平 |
情報工学科 |
2年 |
写真の後列中央 |
|
ピット クルー |
齊藤史弥 |
機械工学科 |
3年 |
写真の後列左側 |
橋本大智 |
機械工学科 |
3年 |
写真の前列左側 |
|
小泉文哉 |
ロボティクス学科 |
2年 |
写真の後列右側 |
|
応援団 |
小森 |
ロボティクス学科 |
3年 |
写真の中列左側 |
注:エジプト大会の正式記録がホームページ上に掲載されました。 それによると取得得点に違いがあることが判明しました。本記事は、試合会場で掲示していた得点に基づき記録してきたもので、正式な得点と若干違うところがあります。ご了承ください.
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