南戸研究室


南戸研究室


持ち前の嗅覚で"異分野参入"夢は30万種類の「におい」を識別する"人工ドッグノーズ"



南戸研究室の薄膜装置。装置との偶然の出会いが新しい研究成果を生み出した。

見る、聴く、触る、味わう、そして臭う。人間が持つ「五感」は時として"異常事態"をいち早く察知するためのセンサとして機能する。中でも意外と大きな役割を担うのが嗅覚。火事やガス漏れの際はもちろん、食べ物をチェックする時もまず、鼻を近づけてクンクンとにおいを嗅いでみる、という人は多いだろう。だが、視覚・聴覚・触覚をモデル化した「物理センサ」は早くから開発が進んでいるのに対し、「化学(ケミカル)センサ」に類する味覚と嗅覚の研究はなかなかはかどっていないのが現状。とりわけ嗅覚は"五感"の中で最もセンサの開発が遅れている領域だ。

半導体や水晶振動子を用いた従来にないタイプの「におい」センサづくりに取り組む南戸秀仁先生はその理由を次のように語る。「たとえば光や音は客観的な数値に置き換えて判断基準をつくることができます。ところが嗅覚は非常に主観的なもので、良いにおいと悪いにおいの判断は気分や体調に左右されやすく、個人差も大きいんです。何より問題なのは『におい』を感じるメカニズム自体がまだはっきりしていないことでしょうね」。これも意外な話だが、南戸先生によると、「におい」成分が鼻の奥にある突起物に吸着し、そこで「におい」を感じていることはほぼ間違いない。ただ、吸着の仕方や脳への情報伝達の方法など肝心な部分は未解明のまま。「メカニズムが生物物理的に解明されれば、その機構を模したセンサをつくることも可能でしょう。でも、今の段階では違うアプローチでいくしかないんです」と語る南戸先生は原子力工学の出身で、研究対象は放射線センサ。「センサ」という共通項はあるものの、もともとの発端が"違うアプローチ"だった。

「KITに来た時は放射線の施設がなくて、薄膜をつくる装置を一つ、もらったんです。それで何ができるかと考えまして。酸化物を使った半導体づくりならできるかな、と。結局、10年くらいは半導体屋をやってました」。あらぬ方向へ足を踏み入れた南戸先生を「センサ」に引き戻したのも偶然の産物。「ある電極材料を作って装置に入れておいた時、何もしないのに薄膜表面の抵抗がどんどん変わってくるんですよ。調べてみると、どうやらクリーンルームのガスに反応したらしい。そこで、これはガスセンサに使えるんじゃないかと思ったわけです」。かくして、南戸研究室オリジナルの半導体「におい」センサが誕生。

「半導体からのアプローチは誰も考えなかったでしょうね」と振り返る南戸先生はその後、あらゆるガスに反応してしまう半導体式センサの弱点を補うため、特定のガスにのみ反応する水晶振動子式センサを考案。水晶振動子のチップに分子認識膜をつくる技術はもちろん、半導体屋として薄膜づくりをした経験がベースになっている。「この方法であれば『におい』の数だけチップをつくることが可能ですから複数のガスや異臭を検知できます。地球上には30万種類以上のにおいがあると言われますが、いずれは全てを嗅ぎ分ける、犬に負けないセンサをつくりたいですね」。郷に入っては郷に従え。ロボティクス学科になってからは「におい」センサを搭載したロボットづくりにも挑戦している南戸先生。一番すごいのは「今、何ができるか、何が面白いか」を察知する先生自身の嗅覚かも知れない。



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総務省からの助成で開発した"火災早期発見用においセンサシステム搭載ロボット"

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